シャーリイ・ジャクスン/深町眞理子訳 二〇一六年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
これは今年9月ころに買い求めた古本、『厭な物語』を読もうとしてたころかな、『厭な小説』の巻末解説にもリストアップされてたんで、厭なもの見たさに読んでみようと思った。
原題「The Lottery or, The Adventures of James Harris」は1949年の刊行らしい、日本で初めて出版されたのは1964年に「異色作家短篇集」シリーズとしてだそうで。
短篇集です、表題作「くじ」は『厭な物語』にも収録されてたんで、被ってしまったが、それはまあいいや。
「くじ」ってのは、毎年六月に村人たち全員三百人くらいが集まって、年に一度の恒例のくじ引きをする話だ。
最初に一族の代表が引いて、当たり引いちゃった一族に家族がいくつかあればそれぞれの家族の代表がまた引いて、最後は家族ひとりひとりがくじ引いてく仕組らしい、最終的な当たりは個人になる、それは大人も子どももハンデなし。
集まったひとのなかでは、よその村ぢゃもうこんなくじ引きはやめようって話になってるらしい、なんてウワサ話もあがるんだけど、年寄りが否定する、くじ引きやらないなんてありえない、代々やってきたんだ、とか強く主張する。
で、最後に当たるとどうなるのかは説明なしに進むんだけど、物語のはじめに子どもたちが石を拾ってはポケットに集めてたりして、だいたい予想はついて厭な予感どおりになる。
ほかの短編も、必ずしも厭だ厭だとまではいわなくても、まあ後味がよくないというか、おちつかない気分にさせられる類のものが多い。
他人の家んなかでここが自分ちのように振舞っちゃう「おふくろの味」とか、階下の住人が自分の部屋に留守中に勝手に入って小物を盗っていってしまうことに気づいてやりかえそうとする「決闘裁判」とか、気持ちいい話ではない、おもしろいけど。
田舎暮らしで犬を飼っている夫人のとこに、おたくの犬がウチの鶏を殺すんですよと苦情電話がかかってくる、近所の誰もがその話を耳にしてるらしく、鶏を殺すことおぼえた犬は処分しなきゃダメだとか追い詰めるようにしてくる「背教者」も、後味よくないなあ、おもしろいけど。
一読したなかでいちばん気に入ったというか、この場合イヤだイヤだとおもしろがったというかなのは、「チャールズ」かな。
息子のローリーが幼稚園に通うようになったんだけど、彼は帰ってくると母親にその日の様子をおもしろそうに報告する。
チャールズって子がいて、先生のいうことをきかないとか、他の子に乱暴をはたらいたとか、大声で騒いだとかで、毎日のように、先生にお尻を叩かれたり、教室の隅に立たされたり、居残りを命じられたり罰をくらってるんだという。
自分の息子のローリーは幼稚園を気に入ってるようだが、チャールズの素行による悪影響が及ばないか両親は心配になり、PTAの会合に出かける母親は一度チャールズの親と会って話をしてみたいと思うんだが。
収録作は以下のとおり。
I
酔い痴れて
魔性の恋人
おふくろの味
決闘裁判
ヴィレッジの住人
II
魔女
背教者
どうぞお先に、アルフォンズ殿
チャールズ
麻服の午後
ドロシーと祖母と水兵たち
III
対話
伝統あるりっぱな事務所
人形と腹話術師
曖昧の七つの型
アイルランドにきて踊れ
IV
もちろん
塩の柱
大きな靴の男たち
歯
ジミーからの手紙
くじ
V
エピローグ
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