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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

明治タレント教授

2023-03-16 19:13:12 | 読んだ本

高島俊男 2002年 文春文庫版
前に読んだ『お言葉ですが…』のシリーズの三冊目、昨年末ころに古本を買い求めた、読んだの最近。
初出は「週刊文春」の1997年から1998年ころで、単行本は1999年でそのときのタイトルは『せがれの凋落』だそうである。
収録されてるなかの一篇に、「せがれ」という言葉がいまや通じなくなっているって話があるんだけど。
そのなかで「せがれ」は漢字で書くと元来は「悴」であるのに、「伜」の字がよくあてられてる、こんな字は使わんほうがよい、と書いている。
そしたら読者からの反響におどろいて、「悴」という字を使えと言ってるんぢゃない、「せがれ」は純然たる日本語なんだから漢字を書く必要がないってのが言いたかった、って文庫版では追記している。
ということで、言葉の使い方おかしいよっていうのに、間違った漢字を使うなってのがメインぢゃなくて、なるべく漢字を使わないで文章を書きましょう、ってほうが言いたいことらしい。
よく見かける言葉でも、どうもわからない言葉があるって例として、
>小生思うのであるが、えらい学者さんがお使いになる「位相」なんてむずかしげなことば、一見いかにも厳密に、科学的に用いているようであるが、実はかなり情緒的なものなんじゃないかなあ。そう思いません?(略)
>「位相」というのは、学者さんが「おれ学者だもんね」といい気分になりたい時にもちいる、その場その場で「位置」とも「角度」とも「高さ」とも「向き」とも自由自在に変化するすこぶるアイマイなことば、ということでいいんじゃないでしょうか。(p.172-173)
みたいな具合に斬ってるとこなんかも、おんなじように、わかりやすい言葉使えよって主張に沿った一節だと思う。
それでも、やっぱ漢字の使い方のヘンなのには言いたいことあるようで。
たとえば、本来「銓衡会」であるものを「選考会」と書くようになっちゃったことについては、
>「銓衡」は重さをはかること。それが、人物や作品の価値をはかる意にもちいられる。その「銓」の字が戦後当用漢字からはじき出されたために、「選考」に吸収合併させられてしまった。
>本来「銓衡」は、はかりにかけて重さをはかるのであるから、かならずしも多数のなかから「選ぶ」のではない。(略)
>(略)「銓」の字は(略)使わないようにしましょう、というなら、それはそれでけっこう。ならば「銓衡会」のかわりに「審査会」と言ってもいいし、あるいはほかに適当な言いかたがあればそれでもいい。それを、「銓衡」はダメになった、しかしセンコウでないといけない、と視野のせまいところがあさはかなのである。(p.84)
というように戦後の国語改革のもたらしたものについてけちょんけちょんに言う。
同様に、
>「抽籤」ということばがあった。一見むつかしげだが実は何でもない。「抽」は「ひく」、「籤」は「くじ」、つまりくじびきのことである。
>この「籤」が当用漢字からはずれた。(略)ではどうするか。何でもない。「くじびき」と言えばよいのである。チュウセンなんてわかりにくいことばより「くじびき」のほうがよっぽど上等だ。
>ところがあきれたことに、「抽選」という新語をデッチあげた。「くじをひく」だから意味があるので、「選をひく」では意味をなさない。(p.84-85)
みたいな例もあげてるけど、これなんかは、正しい漢字を使えって言ってんぢゃない、純然たる日本語だから漢字あてなくていい、って路線に沿ったものなんぢゃないかと思う。
でも、やっぱ漢字は正字ってやつを使いたいらしく、原稿には必ず「藏」と書くんだけど活字になると「蔵」に変えられてるのはがっかりするそうで、「小生きらいな敗戦略字は「蔵」だけではない。」(p.110)と、戦後国語改革由来のことは敗戦略字って言いかたしてんのは、戦争に敗けておかしくなり自国の文化に誇りもてなくなってんぢゃねーよと言いたいのかも。
ことばとか漢字とかって以外にも、教わることは多い。
なんで国の役所、大蔵省とか文部省とか「省」って呼ぶのかとか。
>大蔵省も文部省もずいぶん古い名前で、奈良平安の昔からすでにある。どちらも、律令官制の「八省」の一つである。(略)
>奈良平安の官制は唐の官制のマネである。(略)
>朝廷の役所のことをなぜ「省」というのか。
>漢代に皇居のことを「禁中」と言った。「無用の者立入り禁止の場所」の意味である。ところが元帝の時に、皇后の父が禁という名だったのでこの字を避け、「省中」と言うようになった。省は、「ここに立入る者は一人一人とっくと調べる」という意味である。そういうことから朝廷の役所を「省」と称するようになったのだ。(p.73-74)
だなんてのは、知らなかった、「禁中」って言葉あるのは知ってたけど、ぢゃあ大昔の皇后の一族に「禁」って名前のひといなかったら、いまの日本で「外務禁」とか役所を呼んでたかもしれないと言われると、わからんもんだなと思わされる。
そうやって文献からの知識なんかを教えてくれることが多いのに、めずらしくというかご自身の心持ちによる意見を述べてるとこがあって気になった一節があった。
北朝鮮からの一時帰国者を空港で出迎えた親族が抱きあってたテレビ報道を見て、
>日本人はいつからああいうことをするようになったのだろう。
>敗戦後、何十万という日本人が戦地や外地から帰国したが、親やきょうだいといきなりガバ、というのは、まずなかっただろうと思う。(p.68)
と疑問を呈して、自身の親きょうだいの例をあげたうえで、
>わたしなどはむしろ、九死に一生を得て帰ってきた夫を空港に迎えた妻が黙って静かにおじぎをする姿や、あるいは、久しぶりに帰ってきた人が子供の頭をちょっとなでるしぐさなどに、深い感情を感じる。
>あのガバと抱きつくというのは、そんな感情が何もなくて、その何もないのがうしろめたく、人に見すかされるのがこわくて、あんなふうな派手な挙動に出るのではないかと思う。(p.72)
と分析するんだけど、うーん、どうなんだろうねえ。
コンテンツは以下のとおり。
青い顔してナンバ粉食うて
 読みやすくこそあらまほしけれ
 小股の切れあがった女
 命短し恋せよ乙女
 青い顔してナンバ粉食うて
 緑色の天皇
 教室と寝室
 ジュライ、オーガストの不思議
院殿大居士一千万円
 院殿大居士一千万円
 墓誌銘と墓碑銘
 肉親再会
 消えた大蔵省
 ワープロがもたらすもの
 蟻の一穴「書きかえ語」
 人は神代の昔から
カギのない蔵
 月光最と澄み渡れり
 本に小虫をはわせる
 カギのない蔵
 グッド・バイ
 臥薪嘗胆
 しっかりせんかい日本の辞書
 文化輸入国の悲哀
赤い腰巻き
 エンドレステープを憎む
 三都気質論
 鶴翼の陣
 『アーロン収容所』
 赤い腰巻き
 「位相」ってなんだろね
 五十をすぎたおばあさん
 一割現象
せがれの凋落
 開きなおって戦います!
 「ゲキトバ」新説
 千円からおあずかり
 何もありませんけど……
 せがれの凋落
 細くない細君
 「食う」の悲運
明治タレント教授
 ゴのおはなし
 テレビの「用心棒」
 ホコトン博士の国会演説
 国民学校一年生
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独狐将軍孤軍奮闘
 「美しい国」と「腹のへった国」
 なぜヨウダイなの?
 独孤将軍孤軍奮闘
 みどりみなぎる海原に
 KWANSAI健闘
 すむと濁るで大ちがい
 赤穂にうつりました


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