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日本国憲法5条(摂政)と自民党案

2016-08-05 23:00:00 | 日本国憲法
 日本国憲法5条。

 現行憲法5条にあたると思われる自民党改憲草案の条文は、7条です。

 
*********************
日本国憲法
第五条  皇室典範 の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

参照:
1)前条第一項
⇒第四条一項  天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

*実質的に準用していると解される条文で、準用の明記がない条文
2)三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

3)四条二項 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。


自民党改憲案
(摂政)
第七条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
2 第五条及び前条第四項の規定は、摂政について準用する。

参照:
1)第五条
⇒第五条 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。

2)前条第四項
⇒第六条四項 
天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。

*準用規定をすべて明記するのであれば、明記すべきと私は考える条文
3)六条三項 天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。

*********************

 

 憲法5条が、自民党改憲案でどのように変えられるのか。

 自民党改憲案では、3条の日の丸、君が代規定と4条の元号の規定の挿入に伴い、条ずれを起こし、なおかつ、この摂政に関する規定は、現行5条から7条へとうしろの方に行きました。
 また、準用する規定は、現行5条では、4条のみのところ、自民党改憲案では、現行憲法4条にあたる5条と、現行憲法3条にあたる6条4項(条文であったものが項のひとつに格下げされた大事な条文)が準用されています。



 現行憲法5条は、天皇が自ら国事行為を行い得ないような状態のときに、法定代行機関として摂政を置くことを規定しています。
 どのような場合に置くかは、皇室典範16条に規定されています。

******皇室典範16条******
第十六条  天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。
○2  天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。
******************

 摂政の順位は、皇室典範17条に規定されています。


******皇室典範17条******
第十七条  摂政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一  皇太子又は皇太孫
二  親王及び王
三  皇后
四  皇太后
五  太皇太后
六  内親王及び女王
○2  前項第二号の場合においては、皇位継承の順序に従い、同項第六号の場合においては、皇位継承の順序に準ずる。
******************


 現行憲法5条は、4条1項のみを準用していますが、4条2項及び3条も実質的に準用されていると解されます。
 そのことを自民党改憲草案では、明文で規定したため、準用条文が多くなっているのだと思います。
 しかし、だとするなら、現行憲法4条2項にあたる自民党改憲草案の6条3項も、準用することを明文規定すべきであろうと思います。
 現行憲法で、書かれていないけど、実質的に準用してきた内容を、明文規定におこうとした努力は認めますが、不十分です。実質的なものも明文におくなら、すべて明文におくべきです。
 ただ、6条3項が現行憲法と大きく内容を異なるものにされているため、あえて準用から外したのかもしれません。


 明日とりあげる現行憲法6条に関わりますが、

現行憲法:四条二項 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

自民党改憲草案:六条三項 天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。

 自民党改憲草案では、委任できる国事行為が狭められています。


 なお、摂政を置くまでに至らない場合(例えば海外旅行や長期にわたる病気の場合)は、「国事行為の臨時代行に関する法律」により、臨時の代行が国事行為を行います(憲法4条2項⇒昨日8/4記載。)




(参考文献:『判例憲法 1』第一法規)


*****皇室典範 第三章摂政 第三章の全文抜粋**************
第三章 摂政

第十六条  天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。
○2  天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。

第十七条  摂政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一  皇太子又は皇太孫
二  親王及び王
三  皇后
四  皇太后
五  太皇太后
六  内親王及び女王
○2  前項第二号の場合においては、皇位継承の順序に従い、同項第六号の場合においては、皇位継承の順序に準ずる。

第十八条  摂政又は摂政となる順位にあたる者に、精神若しくは身体の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、摂政又は摂政となる順序を変えることができる。

第十九条  摂政となる順位にあたる者が、成年に達しないため、又は前条の故障があるために、他の皇族が、摂政となつたときは、先順位にあたつていた皇族が、成年に達し、又は故障がなくなつたときでも、皇太子又は皇太孫に対する場合を除いては、摂政の任を譲ることがない。

第二十条  第十六条第二項の故障がなくなつたときは、皇室会議の議により、摂政を廃する。

第二十一条  摂政は、その在任中、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。


*************************************
 
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日本国憲法第4条(天皇は、この憲法の定める国事に関する行為“のみ”を行ひ、)と自民党案第5条

2016-08-04 08:00:53 | 日本国憲法
 日本国憲法第4条。


**************
日本国憲法
(天皇の機能の限界、天皇の国事行為の委任)
第四条  天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
○2  天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。



自民党改憲案
(元号)
第四条 元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。

(天皇の権能)
第五条 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。
***************


 日本国憲法で4条のところに、自民党改憲案では、元号の新設がなされて入れられています。

 わざわざ、3条の君が代、日の丸の新設と共に、元号も、憲法に新設して、条ずれを起こしてまでも「第一章天皇」の第三条、第四条の大事な場所に規定を置くべきかは、大いに議論すべきところです。

 現行の「元号法」と「元号を改める政令」を後掲します。
 これら法律と政令だけでも十分であると思われるが、どのような理由から、憲法に規定を置くべきと、自民党側はお考えなのでしょうか。

 自民党側の説明では、「(元号について)さらに、4 条に元号の規定を設けました。この規定については、自民党内でも特に異論がありませんでしたが、現在の「元号法」の規定をほぼそのまま採用したものであり、一世一元の制を明定したものです。」(自民党 日本国憲法改正草案 Q&A 7-8ページ)
 このような自民党の側の説明だけでは、なぜ、憲法にも、規定を置きたいと思ったのか、理由が伝わりません。



 さて、自民党改憲草案では、日の丸と君が代、元号の規定に場所をとられ、追いやられる形になった憲法3条も4条もものすごく大事な規定です。
 自民党案では、3条は、条の形から、項に格下げされ、6条4項に移動されました。4条は、条ずれをおこし、5条に移動させられました。
 このような大事な条文を、なぜ、追いやってしまうのか疑問に思います。


 現行日本国憲法3条は、8月3日にも取り上げたのですが、
日本国憲法
〔内閣の助言と承認及び責任〕
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

⇒天皇の国事行為は、すべて内閣の責任で行っており(内閣自身の責任であって天皇の責任を代位するものではない)、天皇の意思ではなされません(天皇の発意を禁ずる)。
 

日本国憲法
第四条  天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
○2  天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。


⇒天皇は、一切政治に関わらないことを、規定した、大事な条文です。
 第2項は、臨時代行の規定。⇒後掲、「国事行為の臨時代行に関する法律」参照


自民党改憲案
(天皇の権能)
第五条 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。



 自民党改憲草案では、実は、気を付けてみなければならないのですが、国政に関わらないとする重要な規定(天皇の非政治化)において、「のみ」の文言が落ちています。

 「のみ」をとることのリスクのほうが大きくないかなと、気になるところです。
 国事行為以外に、国会開会式における「おことば」、国内巡行、海外親善旅行、外国元首の接受といった、純粋な私的行為ではない行為を天皇はされていますが、それら行為の位置づけのために、「のみ」を取ったのかもしれませんが、「のみ」がないばかりに、あれもこれもと天皇の行為が拡大してくことを許す結果になりリスクの方が大きいと私は考えます。



*****元号法、全文****
元号法
(昭和五十四年六月十二日法律第四十三号)

1  元号は、政令で定める。
2  元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。

   附 則


1  この法律は、公布の日から施行する。
2  昭和の元号は、本則第一項の規定に基づき定められたものとする。

*****元号法、政令*****
元号を改める政令
(昭和六十四年一月七日政令第一号)


 内閣は、元号法(昭和五十四年法律第四十三号)第一項の規定に基づき、この政令を制定する。


 元号を平成に改める。


   附 則

 この政令は、公布の日の翌日から施行する。

******国事行為の臨時代行に関する法律、全文****

国事行為の臨時代行に関する法律
(昭和三十九年五月二十日法律第八十三号)



(趣旨)
第一条  日本国憲法第四条第二項 の規定に基づく天皇の国事に関する行為の委任による臨時代行については、この法律の定めるところによる。

(委任による臨時代行)
第二条  天皇は、精神若しくは身体の疾患又は事故があるときは、摂政を置くべき場合を除き、内閣の助言と承認により、国事に関する行為を皇室典範 (昭和二十二年法律第三号)第十七条 の規定により摂政となる順位にあたる皇族に委任して臨時に代行させることができる。
2  前項の場合において、同項の皇族が成年に達しないとき、又はその皇族に精神若しくは身体の疾患若しくは事故があるときは、天皇は、内閣の助言と承認により、皇室典範第十七条 に定める順序に従つて、成年に達し、かつ、故障がない他の皇族に同項の委任をするものとする。

(委任の解除)
第三条  天皇は、その故障がなくなつたとき、前条の規定による委任を受けた皇族に故障が生じたとき、又は同条の規定による委任をした場合において、先順位にあたる皇族が成年に達し、若しくはその皇族に故障がなくなつたときは、内閣の助言と承認により、同条の規定による委任を解除する。

(委任の終了)
第四条  第二条の規定による委任は、皇位の継承、摂政の設置又はその委任を受けた皇族の皇族たる身分の離脱によつて終了する。

(公示)
第五条  この法律の規定により天皇の国事に関する行為が委任され、又はその委任が解除されたときは、内閣は、その旨を公示する。

(訴追の制限)
第六条  第二条の規定による委任を受けた皇族は、その委任がされている間、訴追されない。ただし、このため、訴追の権利は、害されない。

   附 則

 この法律は、公布の日から施行する。
************************
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日本国憲法第3条と自民党案; 「国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。」憲法改正してまで規定すべきものか?

2016-08-03 23:00:00 | 日本国憲法

日本国憲法三条。

 
**********
日本国憲法
〔内閣の助言と承認及び責任〕
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。


自民党案
(国旗及び国歌)
第三条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

大日本帝国憲法
第三条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
*************

 現行日本国憲法、自民党改憲草案、大日本帝国憲法とそれぞれの三条の内容が大きく異なります。

 自民党改憲草案は、なぜ、「天皇」の章にわざわざ、今までなかった国旗や国歌の規定を新設し、条ずれを起こすことを覚悟で、三条に規定をおいたのか、何か不自然さ、違和感を感じさせます。

 自民党案として、第一章を「第一章 天皇」と題名をつけたのであれば、「天皇」に関わることのみで統一すべきであり、「国旗」「国歌」を入れたいのであれば、第一章の表題は、「第一章 天皇、国旗、国歌」などとすべきです。


 それは、さておくとしても、自民党案第三条は、大きな問題点をはらんでいると考えます。

 〇1 国旗、国歌を憲法に規定することの是非
   国旗、国歌を、憲法において、わざわざ改正をしてまで、新設すべきであるかどうか。

 〇2 国旗、国歌を具体名まで出して規定することの是非
   わざわざ、「日章旗」「君が代」の文言を出さずとも、規定をおけるのではないか。
  「国旗及び国歌に関する法律」があるわけだから、「第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」のように、例えば、「国旗、国歌は、国旗及び国歌に関する法律により、これを定める。」でよかったのではないか。

 〇3 国旗、国家を天皇の章の第三条に規定し、天皇の章に条ずれを起こすことの是非。
  万が一、国旗、国歌の規定を新設すべきとしても、天皇の章にわざわざ条ずれを来してまで、第三条に規定をすべきであるかどうか。
  国家の形式面という点であれば、天皇の章に条ずれを起こすよりは、憲法の後半の方で規定をおけるのではないか。

 〇4 憲法の本質に反する規定を第三条2項に置くことの是非。
  憲法は、本質的には、現行憲法が規定(参照 〔憲法尊重擁護の義務〕第99条天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。)するように、権力側を縛るもの。
  にもかかわらず、すでに3条2項から、自民党改憲案では、「日本国民は、・・・尊重しなければならない。」などと国民を縛る内容の規定においている点は、憲法の本来の趣旨に反し大いに問題があります。
  3条2項で、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。」という文言を置きたいのであれば、置けないこともないと思われるが、99条がすでにあるわけだから不要であります。





 自民党側の説明は以下。

「Q5 国旗・国歌及び元号について規定を置いていますが、これについて
どのような議論があったのですか?

答(国旗・国歌について)

 我が国の国旗及び国歌については、既に「国旗及び国歌に関する法律」によっ
て規定されていますが、国旗・国歌は一般に国家を表象的に示すいわば「シン
ボル」であり、また、国旗・国歌をめぐって教育現場で混乱が起きていることを踏まえ、
3 条に明文の規定を置くこととしました。
 当初案は、国旗及び国歌を「日本国の表象」とし、具体的には法律の規定に委ねるこ
ととしていました。しかし、我々がいつも「日の丸」と呼んでいる「日章旗」と「君が
代」は不変のものであり、具体的に固有名詞で規定しても良いとの意見が大勢を占めま
した。
 また、3 条2 項に、国民は国旗及び国歌を尊重しなければならないとの規定を置きま
したが、国旗及び国歌を国民が尊重すべきであることは当然のことであり、これによっ
て国民に新たな義務が生ずるものとは考えていません。」
(自民党 日本国憲法改正草案 Q&A 7-8ページ)

 

 自民党案は、「国旗及び国歌を国民が尊重すべきであることは当然のことであり、」と述べられておりますが、だからと言って、「日の丸及び君が代を国民が尊重すべきであることは当然のこと」まで言いえるかは、別問題です。 先の太平洋戦争の経験により、日の丸及び君が代を尊重できない方々もおられることを考慮に入れて、規定に十分な配慮をすべきであるのではないかと考えます。


*****国旗及び国歌に関する法律(全文)**************


国旗及び国歌に関する法律
(平成十一年八月十三日法律第百二十七号)



(国旗)
第一条  国旗は、日章旗とする。
2  日章旗の制式は、別記第一のとおりとする。

(国歌)
第二条  国歌は、君が代とする。
2  君が代の歌詞及び楽曲は、別記第二のとおりとする。

   附 則


(施行期日)
1  この法律は、公布の日から施行する。
(商船規則の廃止)
2  商船規則(明治三年太政官布告第五十七号)は、廃止する。
(日章旗の制式の特例)
3  日章旗の制式については、当分の間、別記第一の規定にかかわらず、寸法の割合について縦を横の十分の七とし、かつ、日章の中心の位置について旗の中心から旗竿側に横の長さの百分の一偏した位置とすることができる。


別記第一 (第一条関係)

  日章旗の制式


   一 寸法の割合及び日章の位置
       縦 横の三分の二
      日章
       直径 縦の五分の三
       中心 旗の中心
   二 彩色
      地 白色
      日章 紅色
別記第二 (第二条関係)

  君が代の歌詞及び楽曲
   一 歌詞
      君が代は 千代に八千代に さざれ石の いわおとなりて こけのむすまで
   二 楽曲 



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日本国憲法第2条と自民党案;皇位は、「国会の議決した」皇室典範の定めるところにより、これを継承

2016-08-02 23:00:00 | 日本国憲法
第二条はほぼ同じです。

***************
日本国憲法
(皇位の継承)
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。


自民党案
(皇位の継承)
第二条 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

大日本帝国憲法
第二条 皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ継承ス


****************

 違いをみつけて下さいと言った場合、細かいことをいうと日本国憲法「世襲のものであつて」→自民党改憲案「世襲のものであって」と「つ」が小さな「っ」へと自民党改憲案では、現代口語体に表記が改められています。
 
 わざわざ、現代口語体に近づけようと自民党案は修正していますが、それが逆に案自体の格調のなさに影響をしているように、私は感じます。
 


 さて、第二条は、皇位についての世襲制が定められています。

 憲法上は、皇位継承者を皇男子孫とは規定されていませんが、皇室典範1条により、「皇統に属する男系の男子」たる皇族が皇位継承資格を有するものとされています。
 逆に、女性が天皇であることを意味する「女性天皇」や、母方だけが天皇の血筋を引く天皇を意味する「女系天皇」については、現行制度上認められていません。

 世襲制や男系男子主義を採用している点について、憲法学者の芦部先生は、「世襲制は、本来、民主主義の理念および平等原則に反するものであるが、日本国憲法は天皇制を存置するためには必要であると考えて、世襲制を規定したものであろう。そういう世襲制を憲法が認めている以上、女子の天皇即位を否定して男系男子主義を採用する(皇室典範1条)ことも、憲法14条の男女平等の原則の例外として許されることになる。」と説明されています。(『憲法』5版 岩波書店 46ページ)

 

 現行の「皇室典範」全文を以下、掲載します。
 皇室典範は、明治憲法の下では、議会の関与の及ばない、憲法と対等の地位にある独自の法規範(「皇室ノ家法」)でしたが(皇室自律主義)、日本国憲法においては、「国会の議決」によって定められる法律の一形式となり、その性格は大きく変わりました。
 よって、今後、自民党案においては、「国会の議決した皇室典範」の文章から、「国会の議決した」が省かれないかについて、注意して見て行かなければなりません。

******「皇室典範」全文*******
皇室典範
(昭和二十二年一月十六日法律第三号)

最終改正:昭和二四年五月三一日法律第一三四号

   第一章 皇位継承

第一条  皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。
第二条  皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。
一  皇長子
二  皇長孫
三  その他の皇長子の子孫
四  皇次子及びその子孫
五  その他の皇子孫
六  皇兄弟及びその子孫
七  皇伯叔父及びその子孫
○2  前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを伝える。
○3  前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。
第三条  皇嗣に、精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、皇位継承の順序を変えることができる。
第四条  天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。


   第二章 皇族

第五条  皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする。
第六条  嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とし、三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする。
第七条  王が皇位を継承したときは、その兄弟姉妹たる王及び女王は、特にこれを親王及び内親王とする。
第八条  皇嗣たる皇子を皇太子という。皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という。
第九条  天皇及び皇族は、養子をすることができない。
第十条  立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。
第十一条  年齢十五年以上の内親王、王及び女王は、その意思に基き、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
○2  親王(皇太子及び皇太孫を除く。)、内親王、王及び女王は、前項の場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
第十二条  皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。
第十三条  皇族の身分を離れる親王又は王の妃並びに直系卑属及びその妃は、他の皇族と婚姻した女子及びその直系卑属を除き、同時に皇族の身分を離れる。但し、直系卑属及びその妃については、皇室会議の議により、皇族の身分を離れないものとすることができる。
第十四条  皇族以外の女子で親王妃又は王妃となつた者が、その夫を失つたときは、その意思により、皇族の身分を離れることができる。
○2  前項の者が、その夫を失つたときは、同項による場合の外、やむを得ない特別の事由があるときは、皇室会議の議により、皇族の身分を離れる。
○3  第一項の者は、離婚したときは、皇族の身分を離れる。
○4  第一項及び前項の規定は、前条の他の皇族と婚姻した女子に、これを準用する。
第十五条  皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない。


   第三章 摂政

第十六条  天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。
○2  天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。
第十七条  摂政は、左の順序により、成年に達した皇族が、これに就任する。
一  皇太子又は皇太孫
二  親王及び王
三  皇后
四  皇太后
五  太皇太后
六  内親王及び女王
○2  前項第二号の場合においては、皇位継承の順序に従い、同項第六号の場合においては、皇位継承の順序に準ずる。
第十八条  摂政又は摂政となる順位にあたる者に、精神若しくは身体の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、摂政又は摂政となる順序を変えることができる。
第十九条  摂政となる順位にあたる者が、成年に達しないため、又は前条の故障があるために、他の皇族が、摂政となつたときは、先順位にあたつていた皇族が、成年に達し、又は故障がなくなつたときでも、皇太子又は皇太孫に対する場合を除いては、摂政の任を譲ることがない。
第二十条  第十六条第二項の故障がなくなつたときは、皇室会議の議により、摂政を廃する。
第二十一条  摂政は、その在任中、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。


   第四章 成年、敬称、即位の礼、大喪の礼、皇統譜及び陵墓

第二十二条  天皇、皇太子及び皇太孫の成年は、十八年とする。
第二十三条  天皇、皇后、太皇太后及び皇太后の敬称は、陛下とする。
○2  前項の皇族以外の皇族の敬称は、殿下とする。
第二十四条  皇位の継承があつたときは、即位の礼を行う。
第二十五条  天皇が崩じたときは、大喪の礼を行う。
第二十六条  天皇及び皇族の身分に関する事項は、これを皇統譜に登録する。
第二十七条  天皇、皇后、太皇太后及び皇太后を葬る所を陵、その他の皇族を葬る所を墓とし、陵及び墓に関する事項は、これを陵籍及び墓籍に登録する。


   第五章 皇室会議

第二十八条  皇室会議は、議員十人でこれを組織する。
○2  議員は、皇族二人、衆議院及び参議院の議長及び副議長、内閣総理大臣、宮内庁の長並びに最高裁判所の長たる裁判官及びその他の裁判官一人を以て、これに充てる。
○3  議員となる皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は、各々成年に達した皇族又は最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官の互選による。
第二十九条  内閣総理大臣たる議員は、皇室会議の議長となる。
第三十条  皇室会議に、予備議員十人を置く。
○2  皇族及び最高裁判所の裁判官たる議員の予備議員については、第二十八条第三項の規定を準用する。
○3  衆議院及び参議院の議長及び副議長たる議員の予備議員は、各々衆議院及び参議院の議員の互選による。
○4  前二項の予備議員の員数は、各々その議員の員数と同数とし、その職務を行う順序は、互選の際、これを定める。
○5  内閣総理大臣たる議員の予備議員は、内閣法 の規定により臨時に内閣総理大臣の職務を行う者として指定された国務大臣を以て、これに充てる。
○6  宮内庁の長たる議員の予備議員は、内閣総理大臣の指定する宮内庁の官吏を以て、これに充てる。
○7  議員に事故のあるとき、又は議員が欠けたときは、その予備議員が、その職務を行う。
第三十一条  第二十八条及び前条において、衆議院の議長、副議長又は議員とあるのは、衆議院が解散されたときは、後任者の定まるまでは、各々解散の際衆議院の議長、副議長又は議員であつた者とする。
第三十二条  皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官たる議員及び予備議員の任期は、四年とする。
第三十三条  皇室会議は、議長が、これを招集する。
○2  皇室会議は、第三条、第十六条第二項、第十八条及び第二十条の場合には、四人以上の議員の要求があるときは、これを招集することを要する。
第三十四条  皇室会議は、六人以上の議員の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
第三十五条  皇室会議の議事は、第三条、第十六条第二項、第十八条及び第二十条の場合には、出席した議員の三分の二以上の多数でこれを決し、その他の場合には、過半数でこれを決する。
○2  前項後段の場合において、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第三十六条  議員は、自分の利害に特別の関係のある議事には、参与することができない。
第三十七条  皇室会議は、この法律及び他の法律に基く権限のみを行う。

   附 則
○1  この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。
○2  現在の皇族は、この法律による皇族とし、第六条の規定の適用については、これを嫡男系嫡出の者とする。
○3  現在の陵及び墓は、これを第二十七条の陵及び墓とする。

**************************

   附 則 (昭和二四年五月三一日法律第一三四号) 抄
1  この法律は、昭和二十四年六月一日から施行する。




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日本国憲法第1条(天皇は、日本国の象徴)と自民党案(天皇は、日本国の元首)

2016-08-01 23:00:01 | 日本国憲法

 本日8月1日から、毎日、一条ずつ憲法の解説をします。
 2013年、2014年と同じ企画を行いました。加筆など加えることができればと思います。

 自民党改憲草案(日本国憲法改正草案 平成24年4月27日http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf  http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf )と比較し、今後争点となる、改憲の必要性について考察していければと考えます。

 

第一章天皇 一条

*現行憲法

(天皇の地位と国民主権)
第一条  天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。


*自民党改憲草案

(天皇)
第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

*********

 自民党改憲案では、いきなり、「元首」の登場です。


 元首としたことの、自民党による説明は、以下。
「Q4 「日本国憲法改正草案」では、天皇を「元首」と明記していますが、これについてどのような議論があったのですか?

答:
憲法改正草案では、1 条で、天皇が元首であることを明記しました。
元首とは、英語では Head of State であり、国の第一人者を意味します。明 治憲法には、天皇が元首であるとの規定が存在していました。また、外交儀礼上でも、天皇は元首として扱われています。
したがって、我が国において、天皇が元首であることは紛れもない事実ですが、それ をあえて規定するかどうかという点で、議論がありました。
自民党内の議論では、元首として規定することの賛成論が大多数でした。反対論とし ては、世俗の地位である「元首」をあえて規定することにより、かえって天皇の地位を 軽んずることになるといった意見がありました。反対論にも採るべきものがありました が、多数の意見を採用して、天皇を元首と規定することとしました。」
(自民党 日本国憲法改正草案 Q&A 7ページhttp://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf


 自民党内の議論が足りていないと、私は、思います。
 
 現行憲法で、「象徴」という言葉を選んだのは、「「象徴」とは、法的に特定的な意味を持たない言葉であり、憲法制定時の議論からは、国民が天皇の権力性を「必要以上に」考えるおそれがないよう、あえてそのような言葉が選択された」(貴族院帝国憲法憲法改正案特別委員会9・11国務大臣・金森徳次郎)ことがうかがわれます。

 憲法学者芦部信喜先生も、「わが国では、元首という概念自体が何らかの実質的な権限を含むものと一般的に考えられてきたので、天皇を元首と解すると、認証ないし接受の意味が実質化し、拡大するおそれがあるところに、問題がある。」(『憲法』5版 岩波書店 48ページ)と指摘されています。

 認証:一定の行為が正規の手続で成立したことを公に証明する行為

 接受:接見する事実上の行為



 自民党改憲案では、「象徴」という言葉を「元首」に変えて、なんらかの実質的な意味を天皇に与えて行こうとする意図があるのではないかと考えます

 すなわち、明治憲法における天皇は、「統治権の総覧者であって、国家のすべての作用を統括する権限を有するとされた」(『憲法』5版 岩波書店 45ページ)わけですが、形式的・儀礼的な権能としての現在の象徴天皇制としての有り様から、明治憲法下の体制に時代を巻き戻したい意図でもあるのでしょうか?

 もし、自民党に、そのような意図や、象徴天皇制を否定する意図があるなら、その必要性までわかりやすく、国民に説明すべきと考えます。

以上

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次男の交際相手に夫婦で納得できず悩んでいます。⇒憲法24条婚姻は両性の合意のみに基づいて成立

2016-07-20 18:19:49 | 日本国憲法
 確かに、名回答だと思いました!

日本国憲法
第二十四条  婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

○2  配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。


*******毎日新聞*******************************
http://mainichi.jp/articles/20160718/ddm/013/070/037000c

人生相談

次男の交際相手に納得できない=回答者・高橋源一郎



毎日新聞2016年7月18日 東京朝刊
紙面掲載記事


相談事:


 29歳次男の交際相手に夫婦で納得できず悩んでいます。相手は27歳で遠距離交際が3、4年続き、そのうち熱が冷めると思っていたら「結婚を認めて」とあいさつに来ました。相手の服装や第一印象が悪く、将来子どもに宿題を教えられるのかも疑問です。子に忠告するのは親の役目だと思っています。私たちが認めれば誰も苦しまないのですが、どうしても彼女との結婚は許せません。(55歳・女性)


回答:

 正直に申し上げて、なにが問題なのか、わたしにはわかりませんでした。

 憲法24条には「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し」と書いてあります。ご次男とその女性が結婚したいと思っていらっしゃるなら、それを止める権利は誰にもない、ということです。こうした婚姻の条件は大日本帝国憲法にはありませんでした。当時は、家長の意向を拒否することは難しかったのですね。

 ご次男の結婚を「認められない」? 「許せない」? その「上から目線」のことばづかいが、そもそもわたしにはまったく理解不能です。あなた方は、ご次男を自分の所有物だと思っているのですか? ご次男は、独立した人格をもった大人なので、そもそも、あなた方に「認めてください」という必要もないのです。なのに、子としての礼を尽くして、わざわざ、そうおっしゃった。立派な方だ。それにいちゃもんをつけるなんて、非礼なのは、あなたたちの方でしょう。百歩譲って、その女性が、どうしても気に食わないということは事実だとしましょう。

 その場合、親というものは、「この女性の良さが、わたしにはどうしてもわからない。けれども、息子が好きになったぐらいだから、わたしにはわからない良さがあるのだろう。なんとか頑張って理解してみよう」と思うものじゃないでしょうか

 人生のめでたい門出にあたって、理不尽なケチをつけられているご次男たちが気の毒です。(作家)
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自民党 憲法草案91条 「国民への財政報告はいたしません」

2016-07-02 23:00:00 | 日本国憲法

 吉田寛氏の情報発信により気づかせていただきました。

 自民党 憲法草案91条 「国民への財政報告はいたしません」

 自民党の憲法草案は、草案とは言えない落ち度の多いものですが、このように落としてはならない文言を、落としてしまっています。


 前回記載しました「年金運用損5兆円超の損失隠し」http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/d2ec23e675205f943ff38e0960e07badについても、国民に知らしめないという同じ考え方の延長線上にあるものと理解します。

 草案の訂正を強く求めます。


(上段が自民党改憲草案、下段が、現行の日本国憲法)

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型にはまった思考や行動様式を押しつけられ、自由にものが言えない社会

2016-05-26 16:04:05 | 日本国憲法
 型にはまった思考や行動様式を押し付けられることの危険性。

 長野県の山あいにある人口約5千人の中川村 曽我逸郎村長(60)が以下、述べられています。

 
 子ども達には、ありとあらゆることを学び、自由にものを言えるようになっていってほしいです。
 

*****朝日新聞******

「型にはまった思考や行動様式を押しつけられ、自由にものが言えない社会で、どうしてのびのび暮らせるでしょうか」

 曽我さんが草案越しに見ているのは、戦中のこの国だ。思考も行動も型にはめられ、若い兵隊を突撃させて華々しく死なせることが目的化してしまった。国をあげて称揚された「和」とは結局、国民が世間の空気を読んで黙ることでしかなかった。

 日本の立憲主義は、そうした戦争の記憶と傷痕の上に立つ。

***************
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立憲主義を学校でいかに子ども達に教えるか。「憲法で重要な主語は何かな?」

2016-05-17 12:36:27 | 日本国憲法

 現在の日本国の内閣総理大臣でさえ、きちんとご理解をしていない「立憲主義」という概念について、子ども達に教えていくことは、たいへん難しいことかと思います。
 しかし、立憲主義を理解しない国会議員にこれ以上、日本をおかしな方向に導かれてはなりませぬから、正しい政治判断を投票活動において、私たち国民の意思として示すことができるためには、やはり、「立憲主義」について教育をしていくほかないと考えます。

 立憲主義とはなにか。

 本日5/17朝日新聞の論説で、以下、田村理さん(明治大学准教授)が書かれています。


******田村理氏*******

 近年、言葉として知られてきたとはいえ、中身が広く理解されたかというと疑問です。

 安倍政権の改憲路線を、護憲派の人たちが「立憲主義を守れ」と批判しています。確かに自民党の改憲草案は立憲主義的ではない。しかし立憲主義を護憲のシンボルにするべきではありません。なぜなら、護憲だろうと改憲だろうと、立場のいかんを問わず憲法の土俵に乗って、そこで戦うべきだというのが立憲主義だからです。

 そのためには「公権力も憲法という決められたルールに従って行使されるべきだ」という合意が、もっと広がってほしい。「必要だから」といった理由で、条文はそのままでそこからかけ離れた解釈を行ったりすることも、立場のいかんを問わず避けるべきです。

****************


 では、その立憲主義を、いかに、実感をもって子ども達に学ばせるか。


 各教科書での、立憲主義の説明。

 実教出版の教科書:本文で「憲法に従って政治をおこなうべきとする考え方」と書き、さらにコラムを立てて「権力の制約」を詳しく説明

 第一学習社の教科書:「憲法によって政治権力を規制し、その濫用を防止する

 東京書籍の教科書:「憲法は権力をしばるためにある



 同論説の中で、高橋朝子さん(東京都立戸山高校教諭)が、立憲主義の教え方を書かれています。


*******高橋朝子氏******

 生徒たちには「憲法と法律はどう違うか、わかる?」と問うところから始めます。道路交通法などを例に「法律は私たちの生活がうまく進むためのルールで、国民を規制したりするね。では憲法で重要な主語は何かな」と考えさせると違いがわかる子が出てくる。さらに話し合いをさせると「ああ、そうか」と。答えは国民です。

 国民がもっている様々な権利を確保するために、「憲法とは権力の濫用(らんよう)を防ぎ、コントロールするものだよ」と立憲主義を説明すると、「へー」っていう顔をしています。わかる子はわかります。

 知識にとどまり、本当の意味ではわかっていないかもしれません。でもいつか何かの時に思い出してくれればプラスになるので、教えた方がいい。憲法を掲げている国である以上、大事にしなければならない考え方だと思います。

*****************


 社会科での日本国憲法の授業において、各人権保障とともに、きちんと立憲主義が教えられていきますことを、期待致しております。


 参照の朝日新聞記事:
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12360422.html

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衆院情報監視審査会H28.5.12 政府の特定秘密の運用状況のチェック機能強化を参考人3人ともに訴える

2016-05-13 15:42:51 | 日本国憲法

 以前、憲法審査会の専門家が3人とも、安保法制の違憲の意見を述べられたことがありましたが、今回も参考人の3人ともがチェック機能の強化を述べているということの重要性を、国会は真摯に受け止めるべきであると考えます。



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憲法前文に読む『人民の人民による人民のための政治』

2016-05-06 18:59:46 | 日本国憲法
 日本国憲法 前文に、リンカーンの言葉、『人民の人民による人民のための政治』の文言がきちんと入れられていたということです。

 「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」

 

 当然であるかもしれないけれども、新鮮な発見であったので、記載をします。

*************朝日新聞***********************
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12342541.html
(憲法を考える)1947年の祈り 国際基督教大学学務副学長・森本あんりさん

2016年5月5日05時00分


 「憲法と米国の理想と言えば、『人民の人民による人民のための政治』というリンカーン米大統領の『ゲティズバーグ演説』が思い浮かびます。あの演説、どこでなされたかご存じですか」

 ――どこでしょう。

 「南北戦争の戦没者が眠る墓地の前です。米国の戦争で、60万人という最大の死者を出したのが南北戦争です。その戦場だったゲティズバーグを国有墓地にする献納式で、リンカーンは戦没者に新しい民主主義を誓ったのです。実は、この演説の要素は日本の憲法にも入っています。前文の『その権威は国民に由来し』は『人民の』、『その権力は国民の代表者がこれを行使し』は『人民による』、『その福利は国民がこれを享受する』は『人民のための』です。戦争の惨禍を経験し、戦没者に対して新しい民主主義を誓う、という点は日本国憲法とゲティズバーグ演説に共通しています」


*****日本国憲法 前文*****************

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来しその権力は国民の代表者がこれを行使しその福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
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ゆりかごから墓場まで、日本国憲法は、私たちを守ってくれています。

2016-05-04 10:33:00 | 日本国憲法

 医師達のある勉強会で、医師出身の国会議員が、「子どもを守る条文が、今の日本国憲法にはない」との趣旨のことを言っておられました。

 聞き違いだったらよいのだけど、憲法は、すべての状況に対応し、私たちを、ゆりかごから墓場まで守ってくれています。
 その方は、ある限定した状況において、日本国憲法がその子どもを守ってないと言いたかったのかもしれませんが、決してそんなことはなく、少なくとも13条が、その子を守ってくれるはずです。

 「ゆりかごから墓場まで、日本国憲法は、私たちを守ってくれている」、そのわかりやすい図表が、本日5/4、東京新聞に掲載されていました。
 ご参考までに。

*****日本国憲法*******
第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。



 


******参考までに、日本国憲法の人権規定の章 「第三章」のみ全文掲載*******

第三章 国民の権利及び義務

第十条  日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
第十一条  国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
○2  華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
○3  栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第十五条  公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
○2  すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
○3  公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
○4  すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
第十六条  何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第十七条  何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
第十八条  何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第十九条  思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二十条  信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
○2  何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
○3  国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第二十一条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
○2  何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
第二十三条  学問の自由は、これを保障する。
第二十四条  婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
○2  配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第二十五条  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第二十六条  すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
○2  すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第二十七条  すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
○2  賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
○3  児童は、これを酷使してはならない。
第二十八条  勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
第二十九条  財産権は、これを侵してはならない。
○2  財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
○3  私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
第三十条  国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
第三十一条  何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十二条  何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第三十三条  何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第三十四条  何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第三十五条  何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
○2  捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
第三十六条  公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
第三十七条  すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
○2  刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
○3  刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
第三十八条  何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
○2  強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
○3  何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第三十九条  何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
第四十条  何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

以上、

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言論の自由を守る大切さを考える。

2016-05-04 09:33:05 | 日本国憲法

 無所属無党派の弁護士の先生方による意見広告です。

 実は、これを企画をされた先生は、かつて、その当日、先生自ら骨を折られる事故にあいながら、休講しては申し訳ないと、病院にかかることなく講義を優先し、民主主義のお話を私達ロースクール生にしてくださいました。

 現代の日本の政治への危機感から、身銭をきって、全国紙に掲載をされておられます。
 その心意気に、毎回、敬服をいたします。

 ひとつの考える材料になればと思い、シェアさせていただきます。
 


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現政権による上からの「クーデター」・立憲主義破壊 から、日本国を守るには 憲法学者石川健治・東大教授

2016-05-03 10:54:15 | 日本国憲法
 憲法記念日、今、ある私達の危機を、再認識する必要があると考えています。

 石川健治・東大教授の論考は、学問の府の憲法学者として、多くを示唆してくださっています。


****************************
日本国憲法
第九十六条  この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

○2  憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

********毎日新聞********************
http://mainichi.jp/articles/20160502/dde/012/010/009000c

「クーデター」で立憲主義破壊 憲法学者、石川健治・東大教授に聞く



毎日新聞2016年5月2日 東京夕刊


 3日は憲法記念日。多くの国民が反対した安全保障関連法が成立してから初の記念日だけに、どこか重苦しさが漂う。会いたい人がいた。「現代憲法学の鬼才」と評される石川健治・東京大教授。市民団体「立憲デモクラシーの会」の呼びかけ人の一人である。節目を前に何を思うのか。【江畑佳明】


 ドアを開けた途端、懐かしい本のにおいを感じた。東大駒場キャンパス(東京都目黒区)にある「尾高朝雄(ともお)文庫」。尾高氏は元東大教授の法哲学者で、ここは石川さんの研究拠点の一つ。戦前に出版されたドイツ語やフランス語の哲学書や法学書などが、本棚に並ぶ。古典文献から得た幅広い知識を憲法論に生かす研究姿勢に加え、自著への書評で「鋭敏な時代感覚も持ち合わせている」などと高く評価される。

 「再び首相の座に就いた安倍晋三氏の政治手法には、日銀、NHKなどを含め、権力から独立してきた組織にお友達を送り込んで、その自律性を奪うなど、『違憲』ではないにしても『非立憲』的な姿勢が、当初から目立ちました。そこに憲法96条改正論議がでてきたわけですね」。石川さんは政権に対し、厳しい視線を向けているのだ。

 実は長年、忠実にある教えを守り、メディアの取材にはほとんど応じなかった。その教えとは「憲法学者は助平根性を出してはならない」。憲法学は政治と密接な関わりを持つ研究分野だからこそ、メディアなどで政治的な発言をするようになると、学問の自律性が損なわれかねない−−という意味だ。師と仰ぐ東大名誉教授で「立憲デモクラシーの会」の共同代表を務める樋口陽一氏(81)から受け継いだ「一門」の戒め。そもそもは、樋口氏の師で東北大名誉教授の清宮四郎氏(1898〜1989年)が説いた。戦後の憲法学の理論的支柱だった清宮氏は、こうも言い残したと、樋口氏から聞かされた。「『いざ』という時が来れば、立ち上がらねばならん

 約3年前、石川さんは立ち上がった。2012年12月の政権発足直後、安倍首相が96条改憲を言い出したからだ。同条が定める改憲発議のルールについて、現在の「衆参両院の総議員の3分の2以上」から「過半数」の賛成で可能にしたいという。「憲法秩序を支える改正ルールに手をつけるのは憲法そのものを破壊することであり、革命によってしかなし得ない行為だ。支配者がより自由な権力を得るために、国民をだまして『革命』をそそのかす構図です」

 正直、今が師の教えである「いざ」の時かは分からないが、「ここで立たねば、立憲主義を守ってきた諸先輩に申し訳が立たない」という思いが全身を駆け巡った。

 立憲主義とは「憲法に基づく政治」「憲法による権力の制限」を意味する。なぜそれが大切なのか。石川さんは語る。「支配者は自らを縛る立憲主義のルールを外したがるものです。支配者を縛ることは、権力の恣意(しい)的な法解釈や法律の運用を防ぐという意味で、被支配者、つまり私たち国民すべてに利益がある。支配者による人権侵害を防ぎ、法律が国民に公平に適用される社会のために、立憲主義は不可欠なのです」

 「立ち上がる」決意を固め、新聞社からの依頼に応じて96条改正を批判する論文を寄稿すると、読者から大反響があった。講演やシンポジウムの演壇にも立ったり、インターネットテレビ番組に出演したりする機会が多くなった。

 96条改正は与党内部を含めた多方面の批判を浴びたため、政権は口をつぐんだ。ところがまたも立憲主義を揺るがす事態が起きる。それは14年7月、9条の解釈を変更し、集団的自衛権の行使を一部容認する閣議決定だ。

 「法学的には、クーデターです」。眉間(みけん)にギュッとしわが寄った。

 「従来の解釈は、国が当然に持つとされる個別的自衛権を根拠にして、自衛隊は9条で定めた『戦力』ではない『自衛力』だ、という新手の論理構成を持ち込むことで一応の筋を通していました」と一定の評価をして、こう続けた。


 「他方で、日独伊三国同盟のように共通の敵を想定して他国と正式に同盟を結ぶことは、9条によって否定された外交・防衛政策ですが、日米安保条約が次第に『日米同盟』としての実質的な役割を持つようになりました。その中で『同盟』の別名と言ってよい『集団的自衛権』を日本は行使できない、という立場は、現行の憲法の枠内で論理的に許容される“最後の一線”です。それを破ってしまったら、これまでに築かれた法秩序の同一性・連続性が破壊されてしまう。そういう意味で、正式な憲法改正手続きをとらずに9条に関する解釈の変更という形で、憲法の論理的限界を突き破った閣議決定は、法学的にみれば上からの革命であり、まさしくクーデターなのです」

 昨年の国会に提出された安保関連法案に反対する国民の声は大きく、石川さんも8月、国会前の抗議集会に参加し、マイクを握った。

 石川さんはもう一つ大きな問題があると指摘する。解釈改憲と安保関連法の成立は、安倍政権を支持する人々の勝利であり、9条を守りたい人々の敗北だ−と見る構図だ。「いや、そうではありません。私たち全員が負けたのです」と切り出した。「立憲主義は主張の左右を問わず、どんな立場を取る人にも共通した議論の前提です。安倍政権はこの共通基盤を破壊しました。だから私たち国民全員が敗北したといえるのです

 国民が敗者−−。戦後、新憲法のもとで築き上げた共有財産が崩れたというのだ。大切な土台は突然破壊されたわけではない。安倍政権は13年8月、集団的自衛権行使に賛成する官僚を内閣法制局長官に登用した。「法の番人」の独立性を保つため長官人事に政治力を発揮しない、という歴代内閣の慣例を破った。さらに昨秋、野党が要請した臨時国会を召集しなかった。憲法は衆参どちらかの総議員の4分の1以上の要求があれば召集せねばならない、と規定しているにもかかわらず。「基盤」は破壊され続けている。

安保法は「国民の敗北」 最後の一線指摘

 熊本地震後には、緊急事態条項を憲法に加えるべきだという声が自民党から出ている。石川さんはまたも立憲主義が脅かされることを危惧する。「大災害のような緊急事態が起こることはあり得るけれども、それには災害対策関連法で対応できます。緊急事態条項の本質は一時的にせよ、三権分立というコントロールを外して首相に全権を委ねること。これも立憲主義の破壊につながりかねない。『緊急事態に対応するために必要』という表向きの言葉をうのみにせず、隠された動機を見ねばなりません

 石川さんは「憲法を守れ」とだけ叫ぶことはしない。「日本国憲法は権力の制限や人権尊重を最重要視する近代立憲主義の上に成り立っています。『政権がそれ以上踏み込めば立憲主義が破壊される』という、越えてはいけない最後の一線はここだと指摘し続けることが、僕の役割だと思っているのです」

 憲法学者の毅然(きぜん)とした覚悟と誇りを見た。

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 ■人物略歴

いしかわ・けんじ

 1962年生まれ。東京大法学部卒。旧東京都立大教授を経て、2003年から東大教授。著書に「自由と特権の距離」、編著に「学問/政治/憲法」など。
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お試し改憲?での論点とされる「緊急事態条項」につき、42自治体中1自治体を除き、必要ない

2016-04-30 09:10:07 | 日本国憲法
 お試し改憲で、論点に上がっている緊急事態条項につき、大震災を経験した自治体が、本当に必要かを問うたアンケート結果を、毎日新聞が本日4/30一面で掲載をしています。

 結果は、42自治体中1自治体を除き必要ないという回答であったとのことです。(回答したのは、37自治体)

 国会においては、これら結果も踏まえ、論議を深めていただきたいと考えます。

 すなわち、緊急事態条項のための、改憲は、必要ないのではないでしょうか?

 
 傍論ですが、このような新聞社のアンケート調査は、参考になってありがたいと思います。なかなか、民間や一般人が行えない調査です。
 もちろん、恣意性を持たせることは十分可能なわけだけど、新聞を読む我々が、アンケートの質問項目や調査対象などの手続きに注意を払って新聞社の恣意性の有無を判断していけばよいだけのことと考えます。
 この毎日新聞の調査は、信頼するに足りると考えます。

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http://mainichi.jp/articles/20160430/k00/00m/040/109000c

緊急事態条項


現場に権限を 国に強い不信感も



毎日新聞2016年4月30日 07時00分(最終更新 4月30日 07時00分)


東日本大震災 42自治体アンケート

 災害時は国より自治体の権限強化を−−。東日本大震災で被災した自治体の多くが、憲法改正の主要テーマである緊急事態条項の必要性に疑問を呈している。震災を契機に同条項を求める声が高まった経緯があり、自治体の声は憲法改正論議に影響を与えそうだ。【川崎桂吾、関谷俊介】


 毎日新聞がアンケートで緊急事態条項について自由に意見を求めたところ、17市町村が意見を寄せた。

 津波被災地ではがれきが救助を阻んだケースがあり、「私有財産が障害となり救助が遅れた」という主張が同条項必要論の根拠の一つとなっている。

 だが、仙台市は「財産の処分などは現行法で整理が可能」(減災推進課)と回答した。「住民が何で困っているのか、地域において優先課題が何なのかを見ながら、現場が必要な予算や権限を持って行動に移せるようにすることが求められている」としている。

 岩手県野田村も「条項は、震災対応には直接的には影響はないと思う」(総務課)。役場庁舎が津波被害を受けた同県大槌町は、条項があっても「大災害で情報手段が途絶した場合に果たして機能するのか疑問」(危機管理室)と回答した。

 原発事故で避難を強いられている福島県川内村は、原発事故時に放射性物質の拡散を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)を例に挙げた。原発事故直後、国が混乱を避けるためSPEEDIの公表を控えたことを巡り、同村は「国は国益優先、混乱防止、秩序維持のためであれば一人一人の命は後回しになる可能性が高く、正しい判断をするとは限らないことを学んだ」(住民課)と批判。「緊急事態条項よりも、災害救助の実施権限は市町村などの現場に下ろしてほしい」とした。

 回答自治体で唯一、同条項が必要だとした宮城県女川町は、高台移転の際、権利が複雑化し土地取得が困難だったことなどを挙げ、「緊急時や震災復興などスピードが要求される局面で財産権のあり方が現行法制度に位置づけられていない」(企画課)と指摘した。

 岩手県陸前高田市も復興過程で「超法規的対応が可能な制度が必要だ」(企画政策課)としたが、「国に権限を集中させるのではなく、逆に国の権限を都道府県に、都道府県の権限を市町村に移すことを求めたい」とした。

・震災の初動対応を振り返り「もっと適切に対処できたのではないか」と感じる場面はあったか。ある/ない

・(「ある」と答えた自治体に)その原因は何か(複数回答可)。(1)震災の規模が想定を超えていた(2)法律や制度に不備があった(3)憲法で保障された個人の権利が障害となった(4)その他

・<(1)の自治体に>どんな事態が起き、何を想定しておくべきだったか。

・<(2)の自治体に>どんな法律や制度がいかなる障害となったのか。

・<(3)の自治体に>障害となった事態の解決のために、緊急事態条項が必要だと感じたか。必要だと感じた/必要だと感じなかった

・緊急事態条項への意見・感想

42自治体のうち回答したのは次の通り。

 <岩手県>洋野町▽久慈市▽野田村▽田野畑村▽岩泉町▽宮古市▽山田町▽大槌町▽釜石市▽大船渡市▽陸前高田市

 <宮城県>気仙沼市▽女川町▽東松島市▽松島町▽利府町▽塩釜市▽七ケ浜町▽多賀城市▽仙台市▽岩沼市▽亘理町▽山元町

 <福島県>新地町▽相馬市▽飯舘村▽川俣町▽浪江町▽葛尾村▽双葉町▽田村市▽大熊町▽富岡町▽川内村▽楢葉町▽広野町▽いわき市

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