「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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ベトナム新時代 

2008-09-20 07:43:11 | 国政レベルでなすべきこと
 中国、北朝鮮とともに、アジアで「社会主義」を標榜し、まだ存続している三つの国の一つベトナム。
 自分にとってベトナムといえば、「ベトちゃん・ドクちゃん」であった。枯葉剤の影響により上半身は二つで下半身が一つのY字型に結合双生児として1981年に生まれた。88年に日本の医師も協力し分離手術が無事成功。07年ベトちゃんは、26歳の短い人生を閉じる。脳症の後遺症が残り寝たきりの状態がつづいたが、そこまで生きられたのはベトちゃん自身の生命力と多くの人の善意と祈りと尋常ならざる努力の賜物であった。現在、ドクちゃんは、結婚もし、病院事務として自立している。
 枯葉剤が用いられたベトナム戦争は、1954年から75年(一番長い期間の解釈)、世界史上でもまれにみる激戦であった。死者は米軍の軍人・軍属が5万8000人強、ベトナム側は300万人といわれている。08年現在、ベトナム全土で枯葉剤被害者は300万人以上だと推定されている。健常の親から、障がいを持つ子がうまれる第三世代への影響も問題となっている。ベトナム戦争が終了してすでに30数年の歳月が流れ去った今でも、深い傷跡を残しているのである。
 ベトナム戦争は、米軍の最先端兵器の実験場という国際的「熱戦」の側面と同時に、同じ民族が互いを敵として闘った「内戦」でもあった。結局、経済的には貧しい「北」の社会主義政権が、豊かな「南」の資本主義体制を破って戦争は終わり、米国へは史上初めての敗戦という屈辱を与えた。ゲリラ戦による抵抗と政治的な交渉と巧みな情報戦によって国際世論と米国人民の反戦運動を盛り上げ、米軍を撤退せざるを得ない局面に追い込んでの勝利であった。
 今年の春、私は初めてベトナムを訪れた。近年のすさまじい経済発展によって街並みも一新され、外見上戦争の傷跡を見ることはできない。オートバイが道を埋め尽くすように走り、その喧騒は、これから発展していくパワーのひとつとして強く感じ、今でも頭の中から離れることはない。
 現在、人口約8500万人、人口に占める40歳以下が約8割を占める若い国となり、身をもって戦争を知る世代は歴史の舞台から退場していっている。ベトナムは新時代に突入しようとしている。
 中国は1978年から「改革・開放」路線を採用し、「社会主義市場経済」を導入したが、遅れること8年、86年ベトナムも「ドイモイ」という刷新政策を導入した。中国によく似た「共産党による開発独裁体制」の路線を追っているように思われる。「経済成長」を錦の御旗にして、すべての矛盾を先延ばしにする戦術で、共産党の一党支配を維持しようとする戦略である。「ドイモイ」は、90年頃から軌道に乗り出したが、経済成長後にどのような価値を実現するかについては、白紙である。
 91年中国と95年米国と国交を正常化、同年ASEAN加盟でベトナムは国際社会に完全に復帰。日本は92年からODAを再開。07年WTO加盟。2020年までに完全な工業国に移行することを目標に掲げている。
 ベトナムが順調に発展するには、様々な課題を克服する必要がある。紙幣が、オーストラリアでの委託印刷で「通貨主権」の確立の必要性。鉄、原油、IT産業の遅れ。優秀な人材は、海外流出し、人材不足。ベトちゃん・ドクちゃんの例のように、日本が先進医療分野で協力し、一方、日越EPAの検討事項中にあるベトナムの介護人の日本への受け入れによる相互の医療・福祉の連携は、アジアでの医療技術の発展と日本の高齢化に対応した介護福祉の充実の双方に寄与することであろう。相互の人材交流の環境整備が急がれる。
 ベトナム最大の課題は、共産党の一党支配という政治体制がもつ弱点。三権分立ではなく、三権分業であり、「法治国家」を標榜していても、事実は「共産党の恣意的支配」である。そのため、汚職の蔓延を防ぐことは出来ず、党に対する信頼感は低下し、支配の正統性自体さえ疑われ始めている。だが、「共産党一党支配体制の打倒」を掲げて反共革命を起こしても、失うものが大きすぎて実現不可能である。「民族解放」と「独立国家の樹立」という歴史的事業に対して共産党がなした貢献は否定できるものではない。この国で、共産党が政権を掌握している正統性は歴史的に存在しているのである。
 では、どのような軟着陸のシナリオがあるか。ホーチミン思想の核心部分をなす「共和国精神」を蘇らせ、共和国原理に従って、司法・行政・立法の厳格な三権分立制度を確立する。そのために、まず「法の支配」の徹底を目指す。「表現の自由」「集会の自由」「思想の自由」等の基本的人権を尊重する。民主主義原理に従って、共産党の一党支配を終焉させ、複数政党制度を導入する。最後に大統領普通直接選挙を実施するのである。
 「楽天的でしたたかな生き方」をするべトナム人。相互扶助の精神が残り、温かい人情、長上尊敬の気風もある。エネルギーと潜在能力の高い人々で、何よりも諦めない粘り強い人たちである。歴史的な負の歴史が少なく、全体的としてベトナム人は親日的である。ベトナムとの相互理解、相互依存関係を構築し、他のアジア諸国の友好親善を深めていきたい。ともに戦争の悲惨さと平和の尊さを世界に訴えていくことに存在理由をもつ国として。


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『ベトナム新時代ー「豊かさ」への模索』 坪井善明(つぼい よしはる) 著、岩波新書2008年8月20日第1刷発行
を参考にして。
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