ヒットラーの大会と言われた1936年のベルリン五輪。
日本人にとってのベルリン大会は「前畑がんばれ!」のラジオ放送が有名。
でも、世界の見方は全く違った。
当時、ヒットラー独裁政権によるユダヤ人虐待が国際的に非難されていた。
大会をボイコットする動きが各国に広がっていた。
ドイツの同盟を結んでいた日本には他人事のように思われていたのだろうが、
この映画の舞台である米国はボイコットするかどうかでオリンピック委員会が真っ二つに分かれていた。
主人公のジェシー・オーエンスは、当時世界最速といわれた短距離選手。黒人だった。
彼の苦悩と栄光を描いている。
この映画の原題は「RACE」。明らかに競争と人種をかけている。
当時のアメリカは人種差別が当たり前のように続いており、ほとんどの施設で白人用、有色人用と分かれていた。
乗り物も同様だった。大学内でさえそうだった。
そのような差別感覚が当たり前の米国が、ユダヤ人差別のナチスを非難するのも無理があった。
ジェシー・オーエンスは国内で世界記録をいくつも樹立しており、オリンピック出場は確実だったが、
黒人のリーダーからは参加を辞退してほしいと言われる。
悩みぬいた彼だったが、選手はただただ金メダルを目指している。
思い出すのはモスクワ五輪をボイコットしたJOCに対して涙ながらに抗議した柔道の山下選手の姿である。
政治とスポーツを一緒にしないでほしい気持ちは当然なことである。
ヒットラーは大会を成功させるために一時的にアーリア人優先、ユダヤ人差別を宥和させる。
そうしてアメリカがかろうじて参加することになった。
ブランデージという名を知っている人は年配の方だと思いますが、彼がナチスと交渉して米国参加の道を開いたという。
彼もまた親ナチ、反ユダヤ思想を持っていた。
彼は1950年代から70年代にかけてIOC会長だった。
紆余曲折を経て、ジェシー・オーエンスは太平洋を渡りベルリンに入ることになった。
さて彼の奮闘やいかに。
ドイツでは、ヒットラー、ゲッペルス、レニ・リーフェンシュタール が登場する。
彼女が五輪の記録映画を撮るのだけれど、これが素晴らしく斬新だ。
戦後、親ナチということでそれこそボイコットされるが、大変多才な人だ。
膨大な映像を記録していくのだが、中には後日撮影されたものもある。
西田修平&大江季雄の棒高跳びの映像は今でもyoutubeで見ることができるが、
再撮と思われる。
ジェシー・オーエンスも同様な「演技」を行っている。
レニにとっては、記録より記憶に残る映像が必要だったのだろう。
話が逸れてしまったけれど、なかなか魅せる映画だった。
注文です。邦名「栄光のランナー」はいただけない。チラシのデザインも。
とても残念に思った。
多くの人に観てもらいたい映画だ。
※画像は、1936年のもの。走り幅跳びの表彰式と思われる。3位は日本の田島選手。1位ジェシー・オーエンス選手、2位はドイツ選手。敬礼に特徴がある。