ずっとかかっている歯医者さんでの会話。
この歯医者さんとはもう一年半ほど継続して治療が続いているので、すっかり仲が良くなってしまいました。
先日は、インプラントの施術のためにお盆休みにも拘わらず、私だけのために医院をあけて治療をしてくれたのですが、二人だけという事もあって、世間話に花が咲きました。
そこで、わが建設業界は若者の新規参入が少ないことで悩んでいるんです、というと、「それは歯科医も同じですよ」という反応が返ってきました。
こちらの歯科医は、私を担当してくれている60代半ばの院長先生と30代始めの次女の歯科医の二人のほかに歯科衛生士さんが一人という布陣。
会話の中で、歯科医が恵まれていないと思ったのは、大学を卒業して歯科医師の資格を取っても、企業や組織に就職と言う選択肢はほとんどなくて、その技術を生かそうと思うとほぼ開業するしかない、というのが現実だという事です。
しかし次から次へと開業しても歯科医の数が増えると全体として経営は厳しくなる一方で、実に優勝劣敗の激しい業界のようです。
◆
それでこちらでは少し前に、二人いた歯科衛生士さんのうち一人が結婚をして妊娠。「産み月が近づいたら産休を取れるでしょうか」という問いかけに、内心は苦しいけれど最大限の配慮をして、それを認めましょう、ということにしたのだそう。
ところが妊娠初期からつわりが激しくて、産休を取る以前に普段の勤務ができないということで、本人は「迷惑をかけたくないので辞めることにします」と言って、この歯科医を去っていきました。
さあ、そうなると衛生士さんが足りない状態になったのですが、「これが募集をしても全然来てくれないんです」とのこと。
「どうしてなんでしょうね」
「やはり勤務条件の良いところはすぐに埋まるけれど、それに比べるとうちは勤務条件に魅力が足りないのかもしれません」
「勤務条件というと、具体的にはどんなことでしょう?」
「まず地下鉄駅から近いとか、残業が少ない、週休二日で給料が良い、というようなことでしょうね」
「なんだか、わが建設業界の話と実に似ています。でもこちらは水曜と日曜日という週休二日ですよね」
「やはり土日の連続休暇の方が魅力なんでしょうかね。うちは住宅地の中の歯科医なので、地域の人たちの利便を考えると、土曜日は診療に応じているなかでの週休二日です。
ただ、ビルのテナントとして入っているような歯科医は、ビル管理の手前あまり遅くまで診療しないというところがあるのに対して、うちは夜八時までが診療時間です。おまけに、そこから掃除や後片付けなどに30分の残業があって、その分も給料としてはみているのですが、それも不満が大きいのかもしれません」
「建設業も、若い人たちは入ってくる人数が少なくて、おまけに入った後も休日への不満などで辞めてしまう人が多いのです」
「その気持ちが分からないわけではないけれど、それでは患者さんの利便を踏まえた歯科医院の経営がなりたたなくなりますからね。辞めていくようなスタッフの多くは、最後は自分にとっての条件だけが判断基準で、チームへの帰属意識というものを醸成するのが本当に難しいものです」
◆
どこの世界も、組織の永続性と社会への貢献のバランスを職員が理解してくれていない、と嘆く経営者が実に多いようです。
労働者を単純に週休二日にして労働条件を良くするという単純な流れではなく、暦通りに休める人たちがスムースに暮らせるためには、暦通りには休めない人たちの存在が必要で、それに報いるような社会全体のシステムが必要になりそうです。
実に難しい時代になりました。