先日、「将来公務員として中途採用されることを目指して、今は民間の土木会社に入っておく」という学生さんの話を紹介しましたが、この話をある官庁でしたところ、「いや、本当に人材の取り合いはひどいですよ」という話を聞きました。
「中央省庁でも、本省で採用された若者が、次々にスカウトされていますよ」
「へえ、普通はある程度仕事の出来る人がスカウトとかヘッドハンティングをされるのじゃないんですか?」
「いや、下手に年齢を重ねて組織に根を生やしてしまうと動きづらくなるというので、採用されて間もない若手が狙われているんです」
「狙われているというのは穏やかじゃないですね」
「それが、本当に『狙われ』ているというくらい、事前に出身地だとか、奥さんの出身なんかを調べて、採用条件や給与などをしっかりと説明したうえで、『うちの県に転職しませんか?』と誘いをかけるんです」
「ひやあ!本当にそんなことがあるんですね」
「そればかりか、中央省庁には地方自治体から"研修生"と称して、1年とか2年間奉公をさせることがありますよね」
「はい」
「その研修生が、別の都道府県から狙われるんです」
「本当ですか!?むちゃくちゃじゃないですか」
「私もそれを目の当たりにして、送り出した県の部長さんと話をしたことがありますが、『勉強になって人脈もできて、うちの県の戦力になると期待していたんですが…、出さなきゃよかった』と嘆いていましたよ」
最近は民間土木会社の中堅技術者が市町村などへ中途採用の名のもとに引き抜かれるという例が増えてきています。
職業の自由は憲法で保障されているとはいえ、人材にも投資のステージや貢献・回収のステージがあるわけで、投資をして育成をした人材をかっさらわれる民間にしてみれば、『投資した分を返せ』と言いたくなる気持ちもよくわかります。
資格や技術は、個人が所有するものなので、会社が支援して資格を取らせたといっても、取った個人の行動でその財産が移動してしまいます。
人材の奪い合いも人材市場があるから、と言えるかもしれませんが、モラルのない奪い合いは結局その場では得したように見えても、その人がまた次に移る可能性を秘めているわけで、流動的で不安定な社会に繋がるかもしれません。
人口減少と人手不足の影響は、不安定な社会になるかと思うと、安定に向けた制度や方策が必要になるかもしれません。
社会はどうあるべきか、頭の体操が必要ですね。