この5月前半に読んだミステリー作品から…
じつは今月、 とある会合に出席する予定でいました。 文学会というか、読書討論会というか、 旧知の仲間の会。。 けれども各人の仕事の都合により不可能となり、 それまで課題の為に読んできた本やメールのやりとりなど離れて、、 ちょっと疲れた頭をそこから遠い遠い 異国のミステリの世界へ没入させて、 我を忘れて逃避していたい(陶酔していたい…かも) などと思ったのです。
純文学作品も好きですが、 ミステリ作品も好きですから。。
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まず最初は…
『青雷の光る秋』アン・クリーヴス(創元推理文庫・玉木亨訳) 2013年
『大鴉の啼く冬』『白夜に惑う夏』『野兎を悼む春』につづく〈シェトランド四重奏〉の最終作。 前3作品は前に一気に読んだのですが、 他にやることが出来て、この作品だけ未読のまま、、早数年。。 ずっと気になっていたのです、四部作のラスト。。
4作品に登場する《ペレス警部》(離婚歴があって、前3作品の中で新しい愛が進行中)…のその後も分からないままで、、
〈シェトランド四重奏〉作品は、 スコットランド北東部にある シェットランド諸島の本島やその周辺の小さな島々が舞台になっています。 主人公のペレス警部は、 本島ではなくフェア島というものすごく小さな島の出身。。 だけれども、その先祖には面白い伝承があって、 その昔 スペインの無敵艦隊の船がこの近くで難破し、、 島人たちが幾人かの船員を救出した、と。。 その生き残りが島に住み着き、ペレス家になったと…(ペレスと翻訳されていますが Perez スペイン系の苗字なんですね) だからペレス警部は黒髪で、 肌の色も浅黒くて… (私が脳内で想像する姿は… 俳優のハビエル・バルデムさんとか?)
だから、 何代かずっとシェットランドで生活していながら ペレス警部は自分がどこかよそ者という意識が消えない。 前の結婚の喪失感も(赤ちゃんを流産した事から二人の間に生まれた溝…) 自分は誰かを本当に幸せにすることは出来ないのではないか、という不安も、 警部という職業も島で暮らして居ながら、 島の人々とは冷静な距離を置かなければならないという立場、、 こうして生きていくのか、 或は故郷の小さな島へ戻ってひっそりと農場を受け継ぐのか… 〈シェトランド四重奏〉はそれぞれの事件以前に、 こういったペレス警部のアイデンティティが根底の物語としてあり、 だから人間の物語としても興味深く読み続けられたのです。。
前置きが長くなってしまいました…
今回の舞台は、面積たった5.61km2というフェア島(Fair Isle)。 シェトランド諸島の本島から《8人乗り》の飛行機で行くという、 ちっちゃなちっちゃな島… ペレス警部の生まれ故郷です。 フェアアイルセーターで有名ですね。 …そこへペレス警部はとうとう再婚しようという彼女を 自分の両親に会わせる為、連れていくのです。 それが小説の冒頭。
フェア島とはこんな島です
https://www.shetland.org/plan/areas/fair-isle
小さなフェア島だけれど、ここにも北と南に二つの灯台が出てきます。 イングランド・スコットランド小説で灯台が出てくると、必ず設計者を確認する癖がついてしまって… R.L.スティーブンソン家が代々、灯台設計技師だったから (ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』のところで書きましたね>>)
事件の舞台にもなる北の灯台、Fair Isle North Lighthouse は、1892年 David A & Charles Stevenson による建造。R.L.スティーブンソンの従兄弟さんたち。
https://www.nlb.org.uk/LighthouseLibrary/Lighthouse/Fair-Isle-North/
ペレス警部の実家から見える南の灯台も 1891 by David A. and Charles Stevenson (cousin of author Robert Louis Stevenson)…とのこと。 灯台内部の写真もいっぱいあって、、 百年以上使われている灯台がたくさんまだ存在しているんですね、、 見ているとわくわくします(灯台好き♡)
http://www.southlightfairisle.co.uk/thelighthouse.asp
フェア島はバードウォッチングで有名だそうで、 小説では島を訪れる研究者やマニアたちが珍しい鳥を初めて目視する栄誉や興奮についても書かれているのも面白くて、、 それがそんなに凄いことなの…?と(それが事件の謎にも関係しそうで…)。。
ウィキを見たらバードウォッチング発祥はやはり英国とのこと。 小説にも出てくる北の灯台近くには、バードウォッチャーの為の立派なゲストハウスもあります(此処も登場します)⤵
http://www.fairislebirdobs.co.uk/
こんな風に、 シェトランド諸島の自然やそこに住む人々の暮らしを小説の中から知ることも、 (謎解きよりむしろ私には興味ある)最近のミステリ読書の大きな楽しみなのです。 北欧やアイスランド、 英国のこういう本土とは離れた島々… そのような想像を掻き立てられる遠い場所の自然や、そに住む人々の暮らし、 文化や伝承。。
… 嵐で交通が遮断されたフェア島は、 小さな島ゆえの親密な人間関係と、先にも書いたバードウォッチャー達、 (嵐で閉じ込められた)そのお互い同士が疑い合うのは密室劇さながら。。 アン・クリーヴスさんは女性だからか、 心理描写の裏表、 妬みとか気後れ、 羨望、虚栄心… それが密かな憎悪へ… という内面の描写が巧みです、、 (私も女だからか、 自分の嫌な部分を感じてしまうような女性心理の薄暗さに うわぁ…と辛くなりそうな時もありますけど)
… ミステリ作品ですから内容には触れません。。
『青雷の光る秋』で〈シェトランド四重奏〉は一応一区切り、、となっているのですが、 ペレス警部をめぐる物語はまだ続きが出ていて、 すでに翻訳されていました。 すぐに読むことが出来て、、 ほんとうに良かったです、、 理由は… もちろん『青雷の光る秋』を読めばわかります。。
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『水の葬送』アン・クリーヴス 創元推理文庫 2015年
『水の葬送』を読むためには、 前作の『青雷の光る秋』、 できれば〈シェトランド四重奏〉を読んでいたほうが絶対良いと思います。。 特に今回の『水の葬送』でのペレス警部の心のありようは、 何も知らないとなかなか理解しづらいものがあるでしょうし。。
今回は一番大きなシェトランド諸島の本島と、まわりの島々の名前もたくさん出て来ます… そして、ヘブリディーズ諸島ウィスト島出身の新しい登場人物リーヴス警部が加わります。 もちろん、ペレス警部の長年の部下サンディもいます。
シェットランド諸島や ヘブリディーズ諸島… 私たちにはスコットランドの周りにある島々、としか認識できないし、 日本人にはイングランドもスコットランドも(アイルランドさえも) ぜんぶ英国と一括りに考えてしまいそうですが、 ペレス警部の長年の部下サンディは言います
「…ウィスト島の連中は、われわれとはまったくちがいます。かれらはゲール語をしゃべるし…文化もちがう。ヘブリディーズ諸島では、日曜日に酒を飲めない。ヘブリディーズ人とシェトランド人に共通点があると考えることができるのは、イングランド人だけです」
…こういう 細かな地域性がとても興味深いです。。 シェトランド人のサンディが、 英国本土へ電話をかけて、 イングランド本土の人が喋る発音が聞き取れない… というのは驚きます(標準語じゃないの??)。 確かに、英国の中心であるロンドンでさえ、 ロンドン訛りって聞き取りにくいのですよね… 、、このような違いが色々とあるから、 喋り方ひとつで、 出身地、階層、職業、どんな教育を受けてきたかまで… 推測されてしまうのは、、 やはり英国って階層社会なんだな、、と強く強く思います。 (ロックミュージシャンでさえ、 発音で生まれ育ちがわかってしまうのですものね… アメリカツアーに出ると階層うんぬんと言われないのでラクだって、 中流出身の英国バンドがインタビューで言っていたのを思い出します)
話が逸れましたが…
これまでのシェトランドシリーズ同様、 島じゅう知り合いのような密な人間関係に加え、 今回は再生エネルギー誘致という現代英国の問題も背景にあり、、 事件の動機が愛憎劇なのか、政治的陰謀か、 事件がどっちに繋がるか最後まで謎なのは新しい視点でした。
今度のシリーズに加わっていく、 新しいリーヴス警部が、ヘブリディーズ諸島のヒッピーの共同体で生まれ育ったと書いてあって、スコットランドにヒッピーコミューンなんてあるの?と不思議だったのですが…
前に、 映画『ウィッカーマン』とアシッドフォーク再燃の関係という記事が 音楽誌のサイトに載っていて…
http://clashmusic.com/features/time-to-keep-your-appointment-acid-folks-unrelenting-renewal
映画の舞台がヘブリディーズの島にあり、ドルイド教が素材ということで、 この記事には島の民間伝承(ウィッカーマン、いわゆる人身御供)やゴシックホラーとの関連性などが書かれていて…
小説内には詳しい事は書かれていないけれど、 ヒッピーコミューンでの生まれがリーヴス警部になにがしか傷というか反面教師的な思い出になっているようで… もしかしたら、 リーヴス警部が育ったコミューンというのは 映画『ウィッカーマン』に出てくるような、そういうイメージもあるのかな… などと。。 リーヴス警部は次の作品にも登場するようです。 その生い立ちの謎も、 今後かかわってくるのでしょうか、、
ヘブリディーズ諸島で知ったことをもうひとつ…
ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』の舞台は、ヘブリディーズのスカイ島だというので、スカイ島の灯台も調べてみました。
此処の Neist Point Lighthouse も R. L. Stevenson.の従兄弟さんの設計でした。
https://www.isleofskye.com/skye-guide/top-ten-skye-walks/neist-point-lighthouse
ほんと、、 白い灯台がぽつんと建つ岬の風景って、 どこを見ても胸に迫るものがありますよね、、(私だけ…?) 何故だろう… 行きたくても行けないから…? 私の前世って灯台守だったの…?(笑) それとも海鳥かな…
ミステリとしては、、 今回 石油エネルギーVS再生エネルギーというジャーナリスティックな視点も加わりながら、 謎の解明としてはすこ~し物足りない部分があったのが残念です。
でも、アン・クリーヴスさん、新刊がこの5月末に出るそうで 『空の幻像』、 さらなる新たなシェットランドの物語に期待したいです。
ペレス警部の人生も続きます… まだまだ、、
この先も(この先こそが)、、 何かまた起こりそうな気配…
、、 そして人生はつづくんですよね。。 命ある限り…
すべてを越えて… 生きていく
それがわたしたち命ある者にとっての共通の課題。。
『空の幻像』読んだらまた書きます。 上の写真に載せた他の作品についても、、出来たらまた。。