役所広司の刀を使った三十郎風の豪快な斬り合い、岡田准一の素手で大勢を叩き伏せる「赤ひげ」式の立ち回り、ともに見事なものでまさに正当黒澤調。
けっこうストーリーが複雑で、しかも回想が画解き風ではないので、しっかり見ていることを要求される。
武士が百姓を守るというのではなく、命を張って何者かを守るという点では、百姓の、それも子供が見事な覚悟を見せる。
権力悪が描かれてはいるのだが、一揆を起こせば弾圧を受けるのであって、悪い役人や商人を倒せば良くなるという図式はすでに成立していなくなっているのが今風。百姓に味方するとか百姓を守るというのではなく、 民衆が暴発した時の破滅的な影響を頭に置いて自分の命をどう使うのがもっとも犠牲が少なくて済むのか想像して行動する侍、というのはかなり新しい。
切腹というと、たとえ理不尽な理由であっても主君から賜ったものだからといかに美的謳いあげるのではなく、死も生のうちとして人のつながりの中でいかに生きたものにするのかという位置づけがされている。
まことに端正で隅々まで丁寧に作られているのは、これまでの小泉堯史作品同様だが、前に比べて堅苦しくまとまりすぎず、ときおり肩の力が抜ける。
(☆☆☆★★★)
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蜩ノ記〈ひぐらしのき〉@ぴあ映画生活
映画『蜩ノ記(ひぐらしのき)』 - シネマトゥデイ