主役を張る若い役者・福士蒼汰が一見してずいぶん態度が悪くて裏方ややられ役に気をまるで配らないので、これはどこかで唐沢寿明扮する長年縁の下の力持ちをつとめてきたベテランスーツアクターやその仲間にとっちめられて心を入れ替えるのかと思うと、そういう場面はありそうでない。
その代わりに実はまだ幼い弟や妹を育ててハリウッドで成功してオスカーをとるという(相当に気恥ずかしい)夢を見ている男であることが説明されてなんとなく唐沢に認められることになるのだけれど、説明されるだけでキャラクター同士がぶつかり表面の顔が剥かれて真面目な地が現れるといったダイナミックなプロセスがない。
早い話、立ち回りでどう絡むのかといった練習をするあたりをテンポを上げてMTV式にとんとんと描いてしまっているので、手順や打ち合わせ、呼吸の合わせ方といった準備の積み重ねがまるでわからない。クライマックスで本当に白忍者の唐沢寿明が黒忍者軍団と戦っているように描いているのに合わせてかもしれないが、メイキングと本編は違うのはいまどき誰でも知っていることで、いかになんでも不自然。
劇中映画の監督がCGやワイヤーワークを使うのを拒否してワンカット長まわしで撮ることにこだわったのでハリウッドの会社と衝突して下り代わりに唐沢が浮上するという段取りもよくわからない。そういうムリをやりおおせるから起用されたのかどうか曖昧だし、クライマックスはカット割っているしCGも使っているだろう。設定からの発展のさせ方が、ガタピシしている。
唐沢の立ち回りそのものは熱演だけれど、劇中劇の枠にはまってしまったもので、どうにも熱が伝わってこない。
縁の下の力持ち的なスーツアクターが日が当たる場に出てくる「蒲田行進曲」式のドラマかと思ったら、背景にあるべき格差や差別といったモチーフが曖昧なままなので、どうにもぴりっとしない。
クールな印象が強い黒谷友香が地のばりばりの大阪弁でしゃべるあたりはちょっと面白い。
細かいことになるが、ハリウッドに渡った福士がトレイラーの中で小道具のピストルを持っている、というのはアメリカではありえないことだろう。小道具は小道具係が管理するもので、ブランドン・リーが「クロウ」の撮影中の事故で亡くなってからは小道具係が必ず俳優に弾丸が空砲であることを確認させるはず。
(☆☆☆)
本ホームページ
公式ホームページ
イン・ザ・ヒーロー@ぴあ映画生活
映画『イン・ザ・ヒーロー』 - シネマトゥデイ