大詰めの謎解きですべての登場人物が外に出てずらっと横一列に並ぶ(列車の中では無理な配置)と、陪審員の人数である十二人が同時に十二使徒の構図になるのが、裁く者が同時に裁かれる者であるねじれた構図を作る。
冒頭のエルサレムの嘆きの壁の前でユダヤ教・キリスト教・イスラム教の三大アブラハム宗教とイギリスの欺瞞との関わりが示されたのとつながってくるのだろう。
クリスティがこの原作を発表したのはその二年前のリンドバーグ二世誘拐殺人事件に対する怒りと憤懣があってのことで、しかしそういう憤懣が報復に結び付くと収拾がつかなくなる。報復の繰り返しの舞台であるエルサレムから始めたのもその象徴かもしれず、その分ポワロが言う世界は善悪はっきり分けられるという言とは裏腹に善悪がはっきりせずもやもやしたものが残る。ノスタルジーから離れたアップ・トゥ・デートな作りにした当然の結果ともいえる。
この原作のトリックと犯人はもう何度も映画化ドラマ化されているせいもあって有名だからということもあってか、ラストまでわからないようにとっておかず途中でかなり見当がつくようになっている。その綾がわかった上でそれぞれのスターが芝居を演じるようにもっていっている計算なのだろう。
その中でジョニー・デップのワル芝居が作り過ぎずに好調。
(☆☆☆★)
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