prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
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「オリエント急行殺人事件」

2017年12月21日 | 映画
シドニー・ルメット版は70年代に映画界にノスタルジーものが流行っていたうちの一本という面があったから、撮影も美術も衣装もすこぶるゴージャスだった。派手な演出はケネス・ブラナーはむしろ得意なはずだけれど、70mmフィルム撮影というのはずいぶん贅沢な話なのにも関わらずかなり地味というかモノトーンな印象なのはちょっと意外だった。

大詰めの謎解きですべての登場人物が外に出てずらっと横一列に並ぶ(列車の中では無理な配置)と、陪審員の人数である十二人が同時に十二使徒の構図になるのが、裁く者が同時に裁かれる者であるねじれた構図を作る。
冒頭のエルサレムの嘆きの壁の前でユダヤ教・キリスト教・イスラム教の三大アブラハム宗教とイギリスの欺瞞との関わりが示されたのとつながってくるのだろう。

クリスティがこの原作を発表したのはその二年前のリンドバーグ二世誘拐殺人事件に対する怒りと憤懣があってのことで、しかしそういう憤懣が報復に結び付くと収拾がつかなくなる。報復の繰り返しの舞台であるエルサレムから始めたのもその象徴かもしれず、その分ポワロが言う世界は善悪はっきり分けられるという言とは裏腹に善悪がはっきりせずもやもやしたものが残る。ノスタルジーから離れたアップ・トゥ・デートな作りにした当然の結果ともいえる。

この原作のトリックと犯人はもう何度も映画化ドラマ化されているせいもあって有名だからということもあってか、ラストまでわからないようにとっておかず途中でかなり見当がつくようになっている。その綾がわかった上でそれぞれのスターが芝居を演じるようにもっていっている計算なのだろう。
その中でジョニー・デップのワル芝居が作り過ぎずに好調。
(☆☆☆★)

オリエント急行殺人事件 公式ホームページ

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12月20日(水)のつぶやき

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