原題はThe most violent year。1981年のことらしい。まだニューヨークの街がおそろしく荒廃していて地下鉄は落書きだらけで1970年代の面影が濃い(この時代の再現が何でもないようだがすごい)。
トラック運転手の業界というのは特にアメリカではずいぶん荒っぽい世界のようで、労組の委員長をしていたジェームズ・ホッファがおそらくマフィア絡みで消されたことが実際にあったりしたのだが、この映画の主人公はずいぶん短期間でトラック輸送の会社で成功したが、非合法な手法や暴力に頼るのは避けるようにしている。
綺麗ごとが通用すると思っている甘ちゃんかと思うとそういう感じでもないので、演じるオスカー・アイザックがそのままマフィアの若頭あたりを演じても様になるマスクとりゅうとしたスーツの着こなしで押し出しよく見せる。
もっともやっていることというともっぱら金策に走り回っているのであって、意外とセコイというか身につまされる。
ジェシカ・チャスティンがタバコの吸い方、ワインの飲み方、タイプの叩き方(指ではなく鉛筆のお尻でカチャカチャやっている)のひとつひとつにまで何か育ちの悪さを窺わせる。着ているのはアルマーニ(と、エンドタイトルに出る)なのだが。
彼の会社のトラックの荷を盗む事件がたびたび起こり、身を守るために銃で武装した若い運転手が発砲事件を起こしてしまい、というあたりの展開はいくらアメリカが銃社会だといって映画みたいにどかどか発砲していいわけではないのを改めて教える。
割と静かな場面が基調にしているのでときどき入る暴力描写が強いアクセントになるのと、アーバン系でまとめた色調は、ちょっと「ゴッドファーザー」風。
黒幕の存在とか警察・検察の腐敗といったありがちな展開ではなく、それぞれ果たすべき仕事を果たしているのだが結果として人の足を引っ張り合うような構造になっているのがわかる。陰謀史観とか誰かがすべてを操っているのだといった社会の見方よりリアルで甘いようで甘くない。
(☆☆☆★★)
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アメリカン・ドリーマー 理想の代償@ぴあ映画生活
映画『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』 - シネマトゥデイ