曇、8度、78%
40年ほど前に山形県で洋梨の栽培が始まったと記憶しています。当時はまだ東京に住まっていました。毎土曜日の午後には雪谷の商店街に買い物に出かけます。お目当はお野菜とお魚でした。行きつけの八百屋さんは角地にあって店構えは広く、昔の八百屋ですから雑然と野菜、果物が売られていました。お安いだけではありませんでした。この店は「ケンちゃん」というお兄さんとお母さんで切り盛りしていました。この「ケンちゃん」が野菜や果物に詳しく、新しい野菜の食べ方を忙しく立ち働く間にお客さんにレクチャーしていました。例えば「ブロッコリーは茎まで食べれるから捨てたらいけないよ。」という具合です。今では常識ですが茎を捨てる人が多かった頃の話です。
ちょうど初冬、今頃のことでした。店先には籠に盛られた「洋梨」が売られています。珍しい「洋梨」ですが見向く人はいません。山形産の「ラフランス」でした。「ケンちゃん」の話では試しに少し仕入れたのだとか。「一箱、取ってくれる。」となんとまあ、貧しい生活の中で大きなことを言ったものです。数日後、洋梨一箱を店を閉めた後の「ケンちゃん」が我が家に届けてくれました。箱のふたを開けると充満していた「洋梨」の香りがふわっと立ち上がりました。この時の香りを今だに忘れることができません。
香港では「洋梨」はアメリカやニュージーランドからの輸入ものばかりです。遠くから運ばれてくるので緑のまま箱詰めされるのでしょうが、なんとこの緑のまま食べるのが香港流です。真似をして緑のまま食べました。全く食感が違います。日本の梨のように「シャキシャキ」です。ブツブツも口に当たらず、さっぱりとしてこれもまた美味しいものでした。完熟させようとしましたがこの緑の「洋梨」は途中で腐ってしまいました。そしてなぜか香港で食べた「洋梨」の香りを思い出すことができません。
昨日、小包を頂戴しました。箱のテープを外しただけで、中の物がわかりました。「洋梨だわ!」当たりでした。箱いっぱい「洋梨」の甘い香りです。初めてみる品種です。新潟産「ルレクティエ」という品種だそうです。大きい「洋梨」です。
一晩経ちました。嬉しくてテーブルの上に置いて寝ました。起きて来たら居間は「洋梨」の香りでいっぱいでした。40年前の「ラフランス」の香りを思い出しました。あの一箱の「ラフランス」が洋梨との付き合いの始りでした。「ワイン煮」を作ったりした若かった頃の自分を思い出します。
「ルレクティエ」、もう少し熟すのを待ちましょう。楽しみは待つ方が。
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