マリヤンカ mariyanka

日常のつれづれ、身の回りの自然や風景写真。音楽や映画や読書日記。手づくり作品の展示など。

『感染症と文明』

2020-04-18 | book
薄い岩波新書だけれど、
読み応えのある内容でした。
先史時代の感染症とはどのようなものであっただろうという話から始まります。
やがて、農耕が開始され、定住、野生動物の家畜化される中で、
感染症はどのように変わっていたのでしょう、
メソポタミア、インダス、中国、ローマなどの古代文明は都市を作り、
ユーラシア大陸に、幾筋もの道を張り巡りました。

人類は次第に自らの病気や健康に大きな影響を与える環境を、
自らの手で改変するようになっていったのです。
文明は、麻疹やペストなどの感染症のゆりかごの役目を果たしただろうと言われています。
さまざまな帝国が勃興してまた滅亡していった背後には
感染症の大流行があっただろうと考えられています。

南米大陸へヨーロッパ人から持ち込まれた天然痘、麻疹、ジフテリア、
さらに、アフリカから連れてこられた奴隷たちをとおしてマラリアが猖獗を極めて、
武器を使うまでもなく、南米の先住民たちは絶望の中、次々倒れ、
人口は10分の一にまで減ったそうです。
アメリカ大陸の広い地域に長く栄えたインカ文明もついに滅亡したのです。

新大陸からヨーロッパへ、
トマトやトウモロコシやジャガイモやトウガラシなどが、もたらされました。
黄金の装飾品や仮面は奪われ、溶かされて金の延べ棒となって、
どんどんヨーロッパへ運ばれて行きました。

ヨーロッパ人はアンデスの先住民が、解熱剤として利用していたキナ(樹木)から、
キニーネを抽出します。
マラリアの特効薬になることを発見したのです。
その薬をマラリアの蔓延するアフリカで使うことはヨーロッパ人にとって、
アフリカ進出の一種の免罪符となり、
アフリカの植民地化が一気に進んでいくことになるのです。
この事実に、言いようのない恐ろしさと虚しさを感じます。

今、COVID19のことを考える時、
まず、世界中の国々が、戦争をやめ、
差別をやめて、兵器の開発ではなく、
ウイルスとの戦いのために全力を傾け、皆協力しあおう、
という方向に少しでも近づくなら、
感染症の歴史に新しい1ページが書き加えられることになると思うのですが。
ニュースを見る限り、日本の政府にもアメリカの政府にも、
全くそんな気はないようです。
日本政府には歴史から学び、未来を見つめる視点が皆無です。

副題の「共生への道」について著者は、
感染症との共生は、決して心地いいとは言えない妥協の産物かもしれないが、
・・・共生なくして未来はない・・・と書いています。

身を挺して様々な感染症と闘う医師や看護師や研究者を心から尊敬します。

『感染症と文明ー共生への道』
山本太郎 著    2011/岩波書店


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする