夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『あみこ』

2024年11月11日 | 映画(あ行)
『あみこ』
監督:山中瑤子
出演:春原愛良,大下ヒロト,峯尾麻衣子,長谷川愛悠,廣渡美鮎,阿部悠季乃,金子銀二 他
 
『心平、』の舞台挨拶付きの回が終わってから、同じく第七藝術劇場にて。
 
いまいちばん売れっ子じゃないかと思われる河合優実を起用した『ナミビアの砂漠』が話題となり、
一気に有名監督となった山中瑤子監督は現在まだ27歳。
十代最後に撮った初の劇場公開作が本作で、2017年度のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワードでは観客賞を受賞し、
ベルリン国際映画祭に史上最年少で招待された作品となりました。
そんな本作が十三でリバイバル上映されているなら行かなくちゃ。
 
女子高生のあみこ(春原愛良)は冷めた考えの持ち主。どうせ死ぬんだから頑張っても意味がない。
放課後の教室でひとりぼんやりとしていたところ、サッカー部のアオミくん(大下ヒロト)と遭遇。
 
アオミくんは学校の人気者であるにも関わらず、あみこと似た考えの持ち主。
彼に誘われて一緒に山に登る間じゅう話をして、あみこはこれは「魂の会話」だと思い込む。
言葉を交わす相手がほとんどいないあみこは、唯一の友だち・奏子(峯尾麻衣子)にアオミくんに恋したことを打ち明ける。
 
ところが翌日以降、アオミくんはすれちがっても声をかけてくれないどころか、目も合わせてくれない。
そうこうしているうちに1年以上が経過し、アオミくんが学校に来なくなる。
家出したらしい、マドンナ的存在だった先輩女子・瑞樹(長谷川愛悠)とつきあっているらしいとの噂を聞き、
あみこは町を出て大学生となっている瑞樹の部屋に奇襲をかけるのだが……。
 
何なんでしょう、この感性。十代でこんな作品が撮れちゃうんですね。
小説ならば芥川賞を獲りそうな作品です。
 
面白いけど、好きではない。
電撃的な出会いだ、愛だとか恋だとかいうような些末な概念を超越した完全運命共同体になった。
そんなふうに思っているのはあみこのほうだけ。
なぜあんな女とつきあっているのかとあみこから聞かれたときのアオミくんの答えはいとも簡単。「可愛いじゃん」。
 
一方的な思い込みは恥ずかしいし痛々しい。
あなたは誰かを見下せるほど優れた人間ではないですよと言いたくなります。
勝手に相思相愛だと思って、1年間目も合わなくてもその思いは変わらない。
誰とつきあおうが彼の勝手なのに、彼が可愛い年上女子とつきあうと怒りをあらわにする。怖いです。
 
山中監督の作品はまだ2本しか観ていませんが、今のところ共感できる人は男女問わずひとりもいません。
そこが面白いところなのだろうとは思うけれど、難しい。

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『心平、』

2024年11月11日 | 映画(さ行)
『心平、』
監督:山城達郎
出演:奥野瑛太,芦原優愛,下元史朗,河屋秀俊,小林リュージュ,川瀬陽太,影山祐子,
   浦野徳之,前迫莉亜,守屋文雄,蜷川みほ,吉田奏佑,成田乃愛,西山真来他
 
第七藝術劇場にて、2本ハシゴの1本目。
 
奥野瑛太といえば名バイプレイヤーズに名を連ねていい人だと思います。
しかし顔つきがなかなかイカつくて、ろくでなしの役が多いんです
チンピラ役を演じれば天下一品だから、善人を演じていると意外だったり。
そんな彼が知的障害のある役を演じると聞き、気になって観に行きました。
彼と山城達郎監督が登壇する舞台挨拶付きの回を観られてラッキー。
 
2014年、原発事故の傷跡が残る福島。
軽度の知的障害がある青年・大村心平(奥野瑛太)は、父親・一平(下元史朗)と妹・いちご(芦原優愛)の3人暮らし。
母親はとっくの昔に男をつくって出て行った。
一平はいまだ侵入禁止になっている地区の前に立つ警備員の職に就いているが、
農業を再開する住民もいるが、一平にはそんな気力なく酒ばかり飲んでいる
 
いちごはめっきり客の来なくなった天文台に勤めている。
心平にも仕事をしてほしくてあちこちに紹介してもらうも、心平は面接をぶっちしたり就職してもすぐ辞めたり。
脱いだものを洗濯籠にすら入れない父と兄に腹を立てるが、見捨てることはできず……。
 
ナナゲイで舞台挨拶があるときは、たいてい満席になるのですけれど、
この日はものすごい大雨だった影響もあるのか、客席の半分にも満たないほどの入り。
登壇されたおふたりもかなり寂しかったろうと思いますが、良い時間でした。
 
住民があちこちに移って行き、辺りは空き家が多数。
物が残されたままのそんな家に侵入しては物色する心平。
宝飾品などを次々と自分のリュックサックに入れて立ち去る姿に火事場泥棒かと思いきや、
彼がそういった物を集めていたのにはほかに理由がありました。
それが映し出されるシーンがとても綺麗。
 
傘店の店員・由香(影山祐子)に熱を上げ、要りもしない傘を何本も買う。
愛想よく接してくれる由香ですが、それは客だからというだけ。
心平が帰り際に手渡した飴を見る目は汚いものを見るようで、そのままゴミ箱に投げ捨ててしまう。
けれど、あれが自分でも同じように扱っただろうと思うし、
彼が知的障害だから優しくしなきゃとか、温かい目で見なきゃとか、その時点で何か間違っているのでしょうね。
 
どうせ何もわかっちゃいない、バカだと言われている心平は、人の言葉をすべて暗記しています。
数々の心無い言葉を繰り返してみせるシーンには胸が痛くなります。
 
どう生きて行くのが正解か。いちごが模索しながら生きて行く様子もよかった。
一平が太陽のもとで差してみる傘は裏勝り。とても素敵な傘でした。
 
山城監督、応援します。

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