夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『31年目の夫婦げんか』

2013年08月07日 | 映画(さ行)
『31年目の夫婦げんか』(原題:Hope Springs)
監督:デヴィッド・フランケル
出演:メリル・ストリープ,トミー・リー・ジョーンズ,スティーヴ・カレル,
   ミミ・ロジャース,エリザベス・シュー,ジーン・スマート他

TOHOシネマズ西宮で3本ハシゴの3本目。

夏休み中のファーストデーは結構な客の入りで、満席の作品もちらほら。
お目当ての作品が満席で、空席ありの本作に変更したという人も多そう。
で、これもほぼ満席状態に。

前述の『終戦のエンペラー』に続いてトミー・リー・ジョーンズ。
『メン・イン・ブラック3』(2012)を観たときは、よれよれのトミーに、
この人、もうじき引退かもと悲しくなっていたのですが、
まだまだどうして、顔のシワシワは増える一方なものの、この日に観た2作では元気でホッ。

結婚31年目を迎えた夫婦、アーノルドとケイ。
子どもたちはとっくに独立、毎日ふたりきりの生活を送っている。
ある日をさかいに寝室も別に。それぞれ床に就き、勝手に起きる。

朝起きれば決まったようにベーコンと卵を焼くケイ。
黙々と新聞を読みながらそれを食べて出勤するアーノルド。
帰宅すればゴルフの番組をつけっぱなし、特に会話もない。

「いってらっしゃい」のキスも軽いもの。
長らく体のどこにも触れられていないことに気づいたケイは、
ある夜、意を決してアーノルドの寝室のドアを叩くが、
すかさず拒否されて泣きたくなる。

そんなとき、書店で見つけた医師バーナードによる結婚生活のカウンセリング本。
ケイは、バーナードの“カップル集中カウンセリング”への参加を切望。
嫌がるアーノルドを放置して飛行機に乗り込んだところ、
これはヤバイと思ったのか、アーノルドも渋々ついてくる。

バーナードが提示する課題は、特にアーノルドにとって難題そのもの。
抱き合って眠ってみましょう。体に触れ合ってみましょう。
いまさらそんなことができるわけがないと、そのたびに怒るアーノルド。
それでもなんとか、ひとつひとつクリアを試みるのだが……。

トミー・リー・ジョーンズとメリル・ストリープのおかげなのか、
セックスレスそのものがテーマの作品にしては生々しくありません。
バーナード役のスティーヴ・カレルがいい味で、彼が話すとヤラしくないのもいいところ。
『40歳の童貞男』(2005)を思い出せば、童貞男が夫婦に指南している状況だけでも可笑しい。

主人公夫婦と同年代の客が笑っているのを見ると、
あ、これって笑ってもいいんですねと思えたりして。
『最高の人生をあなたと』(2011)のような、見たくないものを見せられた感はありませんが、
それでもやはり、見ているのは恥ずかしい。

私がいちばん笑ったのは、バーナードが「妄想」について尋ねるシーン。
やってみたいとあれこれ想像したことはあるかと尋ねられ、ケイは「ありません」と即答します。
そのときのケイの表情は、恥ずかしくて嘘を言っているとは到底思えないもので、
「どうしてそんなことを聞くの」と心から不思議に思っている顔でした。
数度尋ね直しても「ないわ」と答えるケイを見る男ふたり、アーノルドとバーナードの表情が傑作。
台詞はまったくありませんが、「ヤラしい想像をしたことがないなんて、あり得へん」といった、
彼らのまさしく目が点になった表情にウケました。

『セックスの向こう側 AV男優という生き方』を思い出し、
AVを観る機会が多い男性のほうが、圧倒的に想像力が豊かなのかと思ったりして。
いや、もともと男性のほうが想像力が豊かだからこそ、月に何千本もAVができるのか。

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『終戦のエンペラー』

2013年08月05日 | 映画(さ行)
『終戦のエンペラー』(原題:Emperor)
監督:ピーター・ウェーバー
出演:マシュー・フォックス,トミー・リー・ジョーンズ,初音映莉子,西田敏行,羽田昌義,
   火野正平,中村雅俊,夏八木勲,桃井かおり,伊武雅刀, 片岡孝太郎他

TOHOシネマズ西宮で3本ハシゴの2本目。
前述の『風立ちぬ』が「なんだかなぁ」で、テンション下がり気味で観はじめたのですが、
どちらかといえば左寄りな私が、最後は天皇陛下に泣かされてしまいました。

監督は『真珠の耳飾りの少女』(2003)のイギリス人で、製作はアメリカ。
珍しい趣の作品で、こんな戦争映画は初めてかもしれません。

1945年8月15日、日本はポツダム宣言を受諾し、第二次世界大戦が終結。
そんな敗戦直後の日本を占領統治するため、
ダグラス・マッカーサー率いるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が上陸する。

マッカーサーはまずは戦犯の拘束に乗り出す。
彼が特に憂慮するのは、天皇を戦犯として裁判にかけるべきかどうかということ。
また、天皇が逮捕および処刑された場合の日本国民への影響がわからない。
そこで、知日家のボナー・フェラーズ准将を呼び出すと、
天皇が戦争に関与していたか否かを明らかにせよと命じる。

フェラーズに与えられた期限は10日間。
大学時代に知り合った日本人女性でかつての恋人あやとは連絡が取れず、
彼女の安否が気になるフェラーズは、今回の滞在中の通訳兼運転手である高橋に密かに調査を依頼。
その返事を待ちつつ、東条英機、近衛文麿、木戸幸一、関谷貞三郎ら、
戦犯として挙げられた人物や天皇の側近といわれる人物と面会するのだが……。

ハリウッド映画に登場する日本人はいつもヘンテコで、
本作はアメリカ側も日本側も一流の俳優をちらほら起用しているとはいえ、
やっぱりどこかヘンテコな作品なのかなぁと思っていました。

その想像どおりとまではいかないものの、
飲み屋に居合わせた日本人の描き方などは、向こうの映画に登場する日本人。
妙な日本語が飛び交わないだけ、まぁいいかと思う程度。
戦犯とされる軍人らを演ずる役者陣はそれなりというのかさすがで、
「一つの価値観」などの話も同じ日本人として興味深いものがあります。

それでも、さほど感銘は受けず、まぁ普通……てな感じで観ていたのですけれども。

最後の最後にやられました。
マッカーサーと裕仁親王の対面シーンに、予期せず涙が溢れ出てしまいました。

これがまったくの事実であるとすれば、天皇を信奉する人が多くいるのも当然でしょう。
けれどもやはり映画、美化された作り事として話半分に考えるとするならば、
マッカーサーがどうとか天皇がどうとかいうことよりも、
人としてのありかたを問う作品として観たいです。

『真夏の方程式』の原作でもっとも私の心に残った、
「相手の仕事や考え方をリスペクトし、理解しようという気持ち」がここにも見えます。
まずは先入観を取り払い、誠意を持って相対すること。
体制に背く行為をしてしまった場合、嘘をつかなければ、それを理解してくれる上司もいるということ。
そして、人のせいにしないこと。

天皇を演じた片岡孝太郎、終盤になって初めて登場するシーンに、う~ん、ちんちくりん。
こんな人を信奉していると言われても~と思ったのですけれども……、凄かったです。
ちんちくりん、もちろん撤回。すみません。

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『風立ちぬ』

2013年08月03日 | 映画(か行)
『風立ちぬ』
監督:宮崎駿
声の出演:庵野秀明,瀧本美織,西島秀俊,西村雅彦,スティーブン・アルパート,
     風間杜夫,竹下景子,志田未来,國村隼,大竹しのぶ,野村萬斎他

甲子園へ野球を観に行くときは、いつも阪神西宮駅前のコインパーキングに駐車します。
そうすると、電車に乗らないといけないとはいえ、
年間予約席として購入している三塁側の内野席は、入場門が駅からわりと近い。
電車賃を含めても甲子園周辺の駐車場を利用するより安いし、
梅田行きの電車は混むけれど、西宮方面行きはそれほど混まず、帰りも楽ちん。

ちょうど観戦予定の日が映画のファーストデーで、休みを取りました。
ふだんの出勤時とほぼ同じ時間に家を出て西宮へ向かいます。
いつものコインパーキングに駐車して、阪神西宮から今津、
阪急に乗り換えて西宮北口へ、TOHOシネマズ西宮にて3本ハシゴすることに。

平日の朝の国道171号線と2号線、札場筋の混み具合を見くびっていたため、
阪神西宮を出る電車に1本乗り遅れ、本編スタート直前に滑り込み。
夏休み中のファーストデー、ジブリ作品とあって客層は幅広く、老若男女、
小さい子ども連れのお母さんもいっぱい。

さて、待望の宮崎駿監督作品、しかも主人公はジブリ初の実在の人物。
4分間の予告編を20回は観たと思います。
その予告編から想像したのは、大人も子どもも楽しめる作品だったのですけれど。

幼いころから飛行機が大好きで、近眼ゆえパイロットにはなれないと、
飛行機の設計者となる夢を持っていた堀越二郎。

学生だった時分、列車内で関東大震災に遭う。
同じ列車に乗っていた少女、菜穂子と女中のお絹を助け、
名前も告げずに大学へと戻る二郎。

東京帝国大学(=現・東京大学)在学中から天才と呼ばれていた二郎は、
卒業後、三菱内燃機製造株式会社(=現・三菱重工)に請われて就職、
同期の友人、本庄とともに戦闘機の設計技師となる。

多忙を極めるなか、避暑地で菜穂子とまさかの再会。
結核を患う菜穂子と添い遂げる覚悟を決め、二郎はプロポーズするのだが……。

飛行機マニアであり、かつ反戦主義者の宮崎監督。
零戦の設計を題材にしながら、戦闘シーンは描きません。
戦闘シーンが出てこない反戦映画はほかにもありますが、どうも本作では矛盾を感じます。
戦争を知る世代に見せたかったにしてはその矛盾がつきまとうし、
戦争を知らない子どもたちに見せたかったのなら、
描かない部分が多すぎて、綺麗な部分だけ並べられても釈然としません。
子どもたちには意味のわからない作品になってしまったような。
実際、終映後の子どもたちは疲れ果てた表情をしていて気の毒なくらい。

二郎の声を担当する庵野秀明、「棒読み」との評判ですが、(^^;
『監督失格』(2011)などから、人のいいオッサンのイメージがあり、
優しい声の棒読みに笑ってしまって、私は嫌いじゃありませんでした。

個人的にいちばん楽しんだのは、二郎が購入する「シベリアパン」のシーン。
なかなかお目にかかれないため、パン屋でみつけると必ず買います。
大阪では桃谷の「ベーカリー花岡」のシベリアが有名かと。
10年ほど前だったか、シベリアパンに特化したブログがあり、
しょっちゅう覗いていたのですが、いつしかなくなってしまいました。
パン職人を目指していたあの青年、今はどうしているのでしょう。

と、本筋からずれましたが、飛行機好きの青年とシベリアパン好きの青年。
前者は夢を叶えながら、それが自分の思う形では使われず。
後者は望んだ形で夢を叶えられていたらいいなぁと思うのでした。

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『ヒプノティスト 催眠』

2013年08月01日 | 映画(は行)
『ヒプノティスト 催眠』(原題:Hypnotisoren)
監督:ラッセ・ハルストレム
出演:ミカエル・パーシュブラント,レナ・オリン,トビアス・ジリアクス,
   オスカル・ペッタソン,アンナ・アスカラーテ,ヨナタン・ボークマン他

B級を感じる邦題ですが、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(1985)、
『ギルバート・グレイプ』(1993)、『サイダーハウス・ルール』(1999)の名匠、
スウェーデン出身のラッセ・ハルストレム監督による作品です。

最近は『HACHI 約束の犬』(2008)でリチャード・ギア、
『親愛なるきみへ』(2010)でチャニング・テイタム
『砂漠でサーモン・フィッシング』(2012)でユアン・マクレガーと、
アメリカやイギリスで著名俳優を起用して撮ることがほとんどでしたが、
本作は1987年以来の母国凱旋作品だそうで。
この監督、こんな作品も撮るんだと驚いたサスペンスです。

本作の主演はハリウッド俳優ではないものの、
『未来を生きる君たちへ』(2010)が強い印象を残したミカエル・パーシュブラント。
妻役にはハリウッド作品でもおなじみのレナ・オリン。
彼女が約10年前にハルストレム監督と再婚していたとは知らなんだ~。

どこで上映されていたかは知らず、先週末にDVDレンタル開始。

ストックホルム郊外で、ある夜に起きた一家惨殺事件。
体育教師の父親をまずは体育館で殺害してから自宅にやってきた犯人は、
母親と15歳の息子、幼い娘をメッタ刺しにしたらしい。

死亡した父親が発見され、彼の自宅の惨状までは知らずに駆けつけた国家警察の警部ヨーナは、
かろうじて息をしている息子ヨセフを病院へと運ぶ。
ヨセフは犯人の姿を見ているはずだが、昏睡状態では話も聞けない。

困り果てるヨーナに、女医のダニエラは「方法がひとつだけある」と言う。
ダニエラは催眠療法の第一人者として知られる精神科医エリックに電話。
ある事情から催眠療法を封印していたエリックだったが、
さらなる犯行を懸念するヨーナの気持ちを汲み、ヨセフの意識と接触。
それ自体は成功したものの、ヨセフが取り乱したために途中でやめる。

数日後、エリックと妻シモーヌの就寝中に何者かが押し入り、
息子のベンヤミンが連れ去られてしまう。
「催眠をやめろ、さもなくば息子の命はない」とのメッセージが残されていて……。

北欧のミステリーは厳しく重く、でも真夏に観るには冷ややかでいいかも。
ヨセフの目つきが『少年は残酷な弓を射る』(2011)を思わせ、
嫌な感じだなぁと思っていたら、やはりそんな展開。
オカルトっぽい異常さはそれなりに怖く、『ゴースト・フライト407便』よりドキドキできます。

エリックは2年前にダニエラと浮気していた事実があり、
それゆえダニエラから着信があるとシモーヌは居たたまれません。
仕事の話だと説明されようとも信じることができず、イライラ。
しかし、ベンヤミンが誘拐されたことをきっかけに、ふたりの気持ちに変化があらわれます。
ま、こんなことをきっかけにされちゃあ、息子はたまりませんが、
ラストの家族団らんシーンには思わずウルウル。

シモーヌが画家であることもちょっとした伏線で、ちゃんと最後に生きてきます。
放り出したままの点がなかったのも楽しめた理由でしょう。

たとえ狂人であっても、母親は息子を想う。

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