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読書「ザ・ドロップTHE DROP」デニス・ルヘイン著 ハヤカワ・ミステリ2015年刊

2024-04-09 15:09:00 | 読書
 本書の書評の一つに「ボストンの労働者階級の犯罪を扱った、タイトでざらざらした感触の小さな物語……ルヘインは肩をすぼめて暮らす登場人物たちの生活の細部に本物の命を吹き込み、彼らの一挙手一投足に無言の感情を通わせる」がある。

 ボストンのある集合住宅地に住むボブという男。変わり者で孤独なボブは、集合住宅地の裏側にあるバー「カズン・マーヴの店」で午後4時から翌日午前2時までバーテンダーをやっている。カズン・マーヴは、ボブの従兄弟でかつてオーナーだったが、今はチェチェン・マフィアのボスが実質的なオーナーなのだ。

 本のタイトルのドロップが表すように、マフィアが裏で稼いだ金、違法賭博、売春、コカインなどの売り上げを警察の手入れで没収されないように、一時的にこのバーに保管する場所でもある。金の匂いを素早く感知する輩が多く、強盗に襲われ金を持ち去られた。ボスから金を早く取り戻せとも言われる。

 ボブが子犬を助けた縁で知り合ったナディア、ナディアの知り合いの刑務所から出てきたエリック、刑事のトーレス、マフィアのボスの息子チョフカなどが入り乱れて、まさにざらざらした感触の小さな物語が、まるでゴキブリがはい回るように描かれるのである。物語の最後の最後に「この世はままならない」で終わるが、まさにそれなのである。

 またいつものように、音楽で表すとすればジャズの「ラウンド・ミッドナイト」かな。エディ・ヒギンズ・クインテットでどうぞ!


読書「死亡告示TROUBLE IN MIND」ジェフリー・ディーヴァー著 文春文庫2022年刊

2024-04-04 15:45:33 | 読書
 ニューヨーク市警刑事課のジミー・マロイ巡査部長の趣味は読書、ジャンルは問わないが特に好むのはミステリーなのだ。考え抜かれた筋書き、スピードのある展開、ユーモアや気の利いた比喩それに何らかの目新しい発見、例えばスターバックスの名前の由来とかがあれば仕事を忘れ、妻や娘とのいさかい、住宅ローンの返済を忘れさせてくれる。

 ちなみにスターバックスの名前の由来は、メルヴィルの小説「白鯨」に登場するコーヒー好きの航海士「スターバック(Starbuck)」と、シアトルの南西部に位置するレーニア山の鉱石採掘場「スターボ(Starbo)」から名付けられたといわれる。

 さらに「左右非対称の笑顔」という文体に戸惑うことも愛嬌の一つと言って喜ぶ。ところで、この左右非対称はやや病的な意味が含まれるので、非対称の笑顔が想像すらできない。

 この本には短編が6篇編纂されていて、どれも読みごたえのあるものだった。中編とも言うべき「永遠」と名づけられた物語が秀逸だった。、理数系の若手刑事タル・シムズとベテランの刑事グレッグ・ラトゥールの相補うコンビとタルが心を奪われる看護師のクレア・マカフリーとのハッピーエンドも心に残るものだった。

 ニューヨーク州ウェストブルック郡は、大きな台形の中に優雅な郊外とみすぼらしい郊外、たくさんの公園、企業本社、各種小売業者を詰め込んだような都市だ。住民の大半は南へ数キロ下ったマンハッタンに通勤して生活している。その人口90万のウェストブルック郡にも殺人事件、レイプ事件強盗事件等々の発生は見られる。

 そのウェストブルック郡の高級住宅地の一つグリーリーで、9億円から10億円もする邸宅で高齢夫妻の銃による心中事件が発生する。

 ニューヨーク州ハミルトン、ウィエストブルック郡の中でマンハッタンに一番近い高級住宅地で銀行家や弁護士が目立つ。ハミルトンでもとりわけ大きな屋敷が並ぶモントゴメリー・ウェイに退職した夫婦が住んでいた。床面積600平方メートル(181.5坪)の住宅のガレージで一酸化炭素による自殺体で見つかった。この二つの心中事件から、背後にある詐欺事件を突きとめるのは理系刑事タルなのだ。なかなか楽しい読み物だった。

 この物語に適切な音楽は何か? 多分これがいいかも。「You don't know me私のことを知らないくせに」マイケル・ブーブレでどうぞ!
You give your hand to me
Then you say hello
I can hardly speak
My heart is beating so
And anyone can tell
You think you know me well
But you don't know me

No, you don't know the one
Who dreams of you at night
And longs to kiss your lips
And longs to hold you tight
Oh I'm just a friend
That's all I've ever been
'Cause you don't know me

I never knew
The art of making love
Though my heart aches
With love for you
Afraid and shy
I've let my chance to go by
The chance that you might
Love me, too

You give your hand to me
And then you say good-bye
I watch you walk away
Beside the lucky guy
You'll never never know
The one who loves you so
Well, you don't know me



あなたは私に手を差し出す
そしてハローという
私はほとんど話すことができない
心臓がドキドキして
そして誰でもわかる
あなたは私をよく知っていると思っている
でも、あなたは私を知らない

いいえ、あなたは知らない
夜、あなたの夢を見る
あなたの唇にキスしたくて
あなたを強く抱きしめたい
私はただの友達
それが私のすべて
あなたは私を知らない

私は知らなかった
愛し合う術を
胸が痛むけれど

怖くて、恥ずかしくて
チャンスを逃してしまった
あなたが
私を愛してくれるかもしれない

手を差し伸べて
そしてさよならを言う
あなたが立ち去るのを見送る
幸運な男の横で
あなたは決して知ることはない
あなたを愛している人
あなたは私を知らない


読書「嘘と聖域Legacy of lies」ロバート・ベイリー著 小学館文庫2023年刊

2024-04-01 10:02:30 | 読書
 アメリカ南部テネシー州ジャイルズ郡プラスキ、ここが小説の舞台である。人口約29,000人86%が白人という町である。ジャイルズ郡を含む4郡を司法管轄とする第二十二司法管轄区検事長ヘレン・エヴァンジェリン・ルイスが殺人容疑で逮捕される。被害者はヘレンの元夫であり弁護士のブッチ・レンフローだった。

 1978年テネシー大学ロースクールを数少ない女性として卒業したヘレン・ルイス。ヘレンは美人の部類に入る。髪の色はミッドナイトブラック、青白い肌に黒いスーツとハイヒールを履き唇を真っ赤に塗っている。テネシー州南部のあらゆるミスティーン・コンテストに参加して、優勝はしなかったが三位には入賞できた。

 実社会では保安官で実績を上げ今や検事長、周囲の人たちはゼネラル(将軍、総統)という軍の階級で呼ぶ。今、抱えている案件に日本の自動車会社を誘致して、雇用を生み出そうとする男マイケル・ザニックの十五歳の少女レイプ事件がある。

 ヘレンは検事として、仮釈放なしの十年という重い刑を提案している。弁護士から情状酌量の余地を求めて来たが、ガンとして拒否した。が、さらに加えてブッチも同じ話を持ち掛けてきた。断ったがブッチは古い話を持ち出し、秋の検事の選挙の前に秘密をぶちまけると脅しても来た。その秘密というのは、ヘレンとブッチが付き合っていた1977年ロースクール三年生のとき、ヘレンがレイプされ妊娠した。ブッチにはレイプを言わず中絶を告げた。ブッチは怒り狂ったが、中絶を秘密にする合意ができた。

 この保守的な地域で中絶は、命取りになりかねない。ヘレンは弁護を旧知の黒人弁護士ボー・ヘインズに依頼する。実力者のボーの奮闘によって、無罪への道筋が見えてくる。ところがどこにでもあるような結末にはならない。嘘が幾重にも重なっていて、アッと驚くエンディングが待っている。

読書「ヨーク公階段の謎The duke of York's steps」ヘンリー・ウェイド著 論創海外ミステリ2022年刊

2024-03-23 11:25:01 | 読書
 古典的な警察小説。オックスフォード大学卒のスコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)の警部ジョン・プールが地道な捜査で事件を解決する。ロンドンの金融街シティで一目置かれるガース・フラットン郷と友人の銀行家レオポルド・ヘッセルが連れ立って自宅に帰る道すがら、セント・ジェイムズ公園の軍人王子ヨーク=オルバニー公爵フレデリック王子の記念柱の下にある階段の中ほどで、急いで駆け下りてきた男がガース郷にぶつかった。惨事にもならず男は礼儀正しく去って行った。

 ところが公園を出て交差点を渡った直後、ガース郷が苦悶の表情とともに転倒した。急いで自宅に搬送して、主治医ホレス・スパヴェージ郷により、動脈瘤の破裂で死亡と診断される。葬儀の三日後、ガース・フラットン郷の娘イネズ・フラットンが次のような新聞広告を出す。「去る10月24日、木曜日の午後6時過ぎ、ヨーク公階段のにおける事故で、父、ガース・フラットン郷に接触した紳士からの連絡をお待ちします。サウスウェスト・クイーン・アンズ・ゲイト16番地、イネズ・フラットン」

 この広告を目にしたスコットランド・ヤード(ロンドン警視庁)の犯罪捜査部総監補レワード・マラダイン郷は、真意を探りにイネズ・フラットン宅を訪問する。レワードはこれを口実にしてるだけなのだ。イネズはとびっきりの美人なのだ。一度パーティで会って、これをチャンスにという思いなのだ。イネズの容姿を著者の文章を借りると「すらりとした背丈に髪の色は金色がかった独特な茶色で、鳶色より明るいが赤くはない。形の良い眉はそれよりわずかに濃い色で、瞳はこの上なく冷たく澄んだグレーだった。その目でひたと見つめられると、たいていの者は嘘をついても無駄だという気分になる。古風な可憐さを好む向きからすれば、イネズのあごは心持ちしっかりし過ぎているかもしれない。唇はそうふっくらはしていない。しかし微笑むと、その口元はうっとりするほどほころび、固い印象が一気に吹き飛んだ。まさに相手の視線だけでなく心までとらえ、見るたびにときめきを与える顔立ちだった」

 レナード卿と会ったイネズはどう思っていたのか。また本の文章から「イネズはこの訪問客をどう扱うべきか迷っていた。どこかのディナーで会ったのは思い出した。確か重要な官職についているということだった。ディナーのあと、自分に不器用な好意を示したことも覚えている。しかし形式ばった態度のレイワード郷が若い年寄りなのか、それとも老いた若者なのか、“善良で愛すべき人物“か“思い上がったばか者“なのか、彼女にはわからず、そもそも決めることに価値があるのかどうかすらわからなかった」これではレナード卿、脈がないよね。しかし、イネズは広告に対する返事として、父にぶつかってきた人が、死の原因になったに違いないその人が、なんの印も――例えば手紙をよこすとか――示さないことが、奇妙に思えるのですという。

 そして下命を受けたのがジョン・プール。彼は身長178センチ、引き締まった腰と広い肩幅という好男子。そのプールもイネズに会ったとたん心を乱される。時代背景が1920年代となれば、あらゆる点で古風にならざるを得ない。「シミ一つない夜会服を身に着け、軽やかな黒いコートをはおり、仕立ての良いシルクハットをかぶった」という風に。

 ところでイネズと兄のライランドとの関係が、レナード卿の弁護士によるとレナード卿は二回結婚している。最初の妻の連れ子がライランド、二人目の妻との間に生まれたのがイネズ。異母兄妹と思っていたが全くの他人だった。イネズがライランドに寄せる眼差しに敏感に察知するプールだった。イネズはライランドを愛している。

 事件の詳細をイネズとライランドに説明して「これから犯人逮捕に向かいます。もうお暇しなければなりません。ごきげんようミス・フラットン――お茶をごちそうさまでした――そして、この任務を耐えられるものにしてくださったご協力のすべてに感謝します。ごきげんよう、ミスター・フラットン――ご幸福を祈りますと言わせてください」

 プールが玄関ドアに手をかけたとき「お待ちになって、プールさん。犯人逮捕にくれぐれもお気をつけて!」プールは上気したイネズの顔と輝く瞳を見つめた。その瞳には思いやりと気遣いの色が浮かんでいた。彼の心は強い切なさに襲われた。「もし、あなたが……」プールはあとの言葉を飲み込んだ。この場で言うべきではないと思ったからだ。しかし、永遠に言わない言葉でもある。男と女の微妙な感情のゆらぎの結末も、強い印象を残すものなのだ。

 私はこういう結末の時、ふさわしい音楽はないかと探ってみる。今回の場合は、フランク・シナトラの持ち歌「All the way」がいいのではないかと思う。この曲をバリー・マニロウで聴いていただきましょう。
ALL THE WAY
誰かに愛されるとき
ずっと愛してくれなければ意味がない
そばにいるだけで幸せ
ずっと応援してくれる人が必要なとき

高い木よりも高く
そう感じなければならない
紺碧の海よりも深く
それが本物なら、それはどれほど深いことか

誰かがあなたを必要とするとき
その人がずっとあなたを必要としてくれなければ意味がない
いい時も悪い時も
その中間の年もずっと

道がどこへ続くかなんて、誰にもわからない
愚か者だけが言うだろう
でも、愛させてくれるなら
ずっとずっと君を愛し続けるよ

愛させてくれるなら
ずっとずっと 君を愛し続けるよ
 著者ヘンリー・ウェイドは、本名をヘンリー・ランスロット・オープリー・フレッチャーという。英国サリー州生まれ。オックスフォード大学を卒業後、1908年から20年にかけて近衛歩兵第一連隊に所属し、従軍した第一次世界大戦では殊勲章と軍功章を贈られた。除隊後はバッキンガムシャー州に移住し、治安判事や参事会員を歴任。37年に父親の跡を継いで六代目準男爵となる。名誉の誉れ高い「英国近衛歩兵連帯史」(1927)を本名で著したほか、ウェイド名義で長篇20冊、短篇集2冊、合作長篇1冊のミステリを発表した。1969年没。


読書「作家の秘められた人生La vie secrète des ècrivains」ギョーム・ミュッソ著 集英社文庫2020年刊

2024-03-15 12:39:23 | 読書
 1995年「アメリカの小さな町」という作品でピューリッツァー賞を受賞した作家ネイサン・フォウルズは、35歳だが20年間もボーモン島の隠遁者として人々の好奇心の的になっている。世の中には、作家志望の人々が雲霞のごとく存在する。24歳のラファエル・バタイユもその一人。出版社からは鄭重にことわられ続けている。最後の手段として自作「梢たちの弱気」の評価を求めて、ネイサン・フォルズの住居に押しかけようと画策する。

 繊細でありながら力強い、太陽のような何かしらに一瞬魅惑され、ジャカード編みの丈の短いワンピースにライダース・ジャケット、細いベルトを足首の横のバックルでとめたヒール付きのサンダルという装いだった。このブロンドの女性の美しさに魅了されたのが、ネイサン・フォウルズなのだ。女性の名前は、マティルド・モネーと言い新聞記者だった。ほとんどの男性作家は、女性を事細かく描写をする、しかも詩的に。作家の好みの反映かもしれない。多分そうだろう。

 この複雑なストーリー展開に疲れを覚えながらも、ネイサン・フォウルズの隠された人生が明らかになり、それぞれの人生がハッピーになるというお話でした。ストーリーを追いながらワインやウィスキー、音楽にも触れられていて楽しめた。
 
 ネイサン・フォウルズが飲むワインは、白のワイン「テッラ・ディ・ビー二」、赤「サン・ジュリアン」。ウィスキーは日本製。聴く音楽は、クラシック。グレン・グールドのピアノ曲。ネイサン・フォウルズがマティルド・モネーと会ったときの心境は、「ネイサン・フォウルズは晴れやかな気分で目を覚ましたが、それは久しくなかったことだ。グレン・グールドのレコード5曲目が始まったところでこの晴れやかな気分の原因を考えてみた。それはマティルド・モネーとの出会いだった。彼女の雰囲気がまだあたりに漂っていた。輝く光の詩、ほのかな香り。それはすぐに消えてしまう。捉えどころのないはかない何かであるとフォルズにはわかっていたが、それでも心ゆくまで味わっていたいと思った」本作は、2019年に発表されたギョーム・ミュッソの17作目になる。

読書「キュレーターの殺人The Curater」M・W・クレイヴン著ハヤカワ・ミステリ文庫2022年刊

2024-03-09 13:14:38 | 読書
 ネットの世界は魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界なのだ。狡猾に人を出し抜く化け物のような人間が存在する。詐欺師もそうだが、巧妙に人を操り殺人まで犯させる。広範囲に影響力を及ぼすという意味で「キュレーター」と名乗る人物がいるという話しを、FBI捜査官メロディ・リーから聞くのはイギリス国家犯罪対策庁の重大犯罪分析課部長刑事ワイントン・ポー。本人はポーと呼ばれたがる。

 ポーの上司ステファニー・フリン警部ともども天才的能力を発揮するちょっと風変わりなティリー・ブラッドショー分析官の三人組が、オンライン・チャレンジ型殺人の繊細で複雑な事件を解決する。想像もしない人物が犯人だったのに驚く。想像もしないと言ったが、何か気にかかる言動はあった。ポーに向かって「犯人が見つかったら、そいつを殺して!」と女が言った。普通は「犯人を早く見つけて!」と言うだろう。警察官だからといって、やすやすと人を殺せるわけがない。その違和感を抱えながら最終章へ。

 ネットを介しての犯罪に特殊詐欺がある。警視庁のホームページには、
オレオレ詐欺
親族等を名乗り、「鞄を置き忘れた。小切手が入っていた。お金が必要だ」などと言って、現金をだまし取る(脅し取る)手口です。
預貯金詐欺
警察官、銀行協会職員等を名乗り、「あなたの口座が犯罪に利用されています。キャッシュカードの交換手続きが必要です」と言ったり、役所の職員等を名乗り、「医療費などの過払い金があります。こちらで手続きをするのでカードを取りに行きます」などと言って、暗証番号を聞き出しキャッシュカード等をだまし取る(脅し取る)手口です。
架空料金請求詐欺
有料サイトや消費料金等について、「未払いの料金があります。今日中に払わなければ裁判になります」などとメールやSNSで通知したり、パソコンなどでインターネットサイトを閲覧中に「ウイルスに感染しました」と表示させて、ウイルス対策のサポート費用を口実として、金銭等をだまし取る(脅し取る)手口です。
還付金詐欺
医療費、税金、保険料等について、「還付金があるので手続きしてください」などと言って、被害者にATMを操作させ、被害者の口座から犯人の口座に送金させる手口です。
融資保証金詐欺
実際には融資しないのに、簡単に融資が受けられると信じ込ませ、融資を申し込んできた人に対し、「保証金が必要です」などと言って金銭等をだまし取る(脅し取る)手口です。
金融商品詐欺
価値が全くない未公開株や高価な物品等について嘘の情報を教えて、購入すればもうかると信じ込ませ、その購入代金として金銭等をだまし取る(脅し取る)手口です。
ギャンブル詐欺
「パチンコ打ち子募集」等と雑誌に掲載したり、メールを送りつけ、会員登録等を申し込んできた人に、登録料や情報料として支払わせて金銭等をだまし取る(脅し取る)手口です。
交際あっせん詐欺
「女性紹介」等と雑誌に掲載したり、メールを送りつけ、女性の紹介を申し込んできた人に、会員登録料金や保証金として金銭等をだまし取る(脅し取る)手口です。
その他の特殊詐欺
上記の類型に該当しない特殊詐欺のことをいいます。
キャッシュカード詐欺盗(窃盗)
警察官や銀行協会、大手百貨店等の職員を名乗り、「キャッシュカードが不正に利用されているので使えないようにする」などと言ってキャッシュカードを準備させ、隙を見てポイントカード等とすり替えて盗み取る手口です。とある。

 著者あとがきで「ブルー・ウェール・自殺チャレンジは存在する。起源はおそらくロシアっだが、多くの国でそれが広がっていることを示す事例証拠が報告されている」とある。

著者のM・W・クレイヴンは、イギリス・カンブリア州出身で軍人、保護観察官から作家となり2018年「ストーンサークルの殺人」で英国推理作家協会賞最優秀長編賞ゴールド・ダガーを受賞。以後ワシントン・ポー・シリーズが好評。


読書「ストーンサークルの殺人The puppet show」M・W・クレイヴン著ハヤカワ・ミステリ2020年刊

2024-01-20 15:10:08 | 読書
 まずストーンサークルについてウィキペディアから引用しよう。「ストーンサークル(Stone Circle)は、石を環状に配置した古代の配石遺構や遺跡を指す語である。環状列石(かんじょうれっせき)、環状石籬(かんじょうせきり)ともいう」とある。イギリスでは数多くのストーンサークルが残されているといわれる。

 そのストーンサークルの真ん中で無残な焼死体が発見される。謹慎中の国家犯罪対策庁重大犯罪分析課刑事ワシントン・ポーがかり出されて捜査に当たる。重大犯罪分析課を率いるのは、かつての部下だったステファニー・フリン。彼女とはつかず離れずという距離感の間柄だった。事件は複雑な様相を秘めながら、いわゆる上流階級の性的スキャンダル、具体的には小児性愛という恥ずべきものが明らかになっていく。

 ワシントン・ポーは官僚的な刑事でなく、形にはまらない勘に頼るやや古風ではあるがそんな刑事なのだ。そのポーに心酔するティリー・ブラッドショーという新人がいる。彼女は数学の天才であり、コンピューターの天才でもある。天才にありがちな世間ずれしていないところから、他の捜査官から言葉のいじめになっていたとき、ポーの一喝でそいつを黙らせた。それがティリーの琴線に触れたのだろう。ポーも何かにつけティリーを指導し、ティリーのコンピューターに助けを求めるようになる。二人の存在は、この物語にほのかな清涼をもたらしてくれている。

 意外な犯人で結末を迎えるが、警察組織の上流階級の小児性愛事件もみ消しに怒りを持つワシントン・ポーの事実を暴露するジャーナリストへの送信ボタンを逡巡しながら押す。こういう終わり方をするというのは、その後を書いてもらはないと納得できないなあ。 と思って調べてみると、続編があった。「ブラックサマーの殺人」と「キュレーターの殺人」なのだ。読むしかないだろう。

 私はいつものようにgoogleマップで、イギリス、カンブリア州の湖水地方をストリートヴューでさまよった。延々と続く丘陵地帯の道は狭いが、行ってみたい気がする。

著者のM・W・クレイヴンは、イギリス、カンブリア州生まれ。軍隊経験と保護観察官を長年勤めた後、2015年作家デビュー。本作で英国推理作家協会賞最優秀長編賞ゴールド・ダガー賞を受賞。


読書「パリのアパルトマンUn appartement a Paris」ギョーム・ミュッソ著集英社文庫2019年刊

2023-12-12 09:49:27 | 読書
 クリスマス休暇で賑わうフランスはパリ。今は亡き天才画家だったショーン・ローレンツが住んでいた家に逗留予定のイギリス人の元刑事マデリン・グリーン。それに加え アメリカ人劇作家のガスパール・クタンスが鉢合わせする。どうやらネット回線の不備で二人同時に滞在を受け入れたようで、どちらかが出ていかなくてはならない。

 この邸宅を貸し出したのは、ショーン・ローレンツの包括受遣者であり遺言執行人の美術商ベルナール・ベネディックで、マデリンはショーン・ローレンツの詳細を聞くはめになり、さらに行方不明の三点の作品捜索を依頼される。このようにして鼻っ柱の強いマデリンと風変わりなガスパールの共同作業が始まる。いくつかの迷路をたどって物語は終結するが。読んでいて楽しい作品ではある。

 著者の好みのものと思われる例えば音楽、クラシック(シューベルト ハンガリー風のメロディ、モーツァルト フルートとハープのための協奏曲、ベートーヴェン ピアノソナタ第28番)ジャズ(オスカー・ピーターソン、キース・ジャレット)オールディーズ(ディーン・マーチン、ルイ・アームストロング、ナット・キング・コール、フランク・シナトラ)ワイン(ジュヴレ=シャンベルタン、シャンポール=ミュジニー、サン=テステフ、サン・ジュリアン)やウィスキー(日本製がよく出てくる)の蘊蓄、偉大な芸術家たちの金言、それに社会批評も含めて文中に散りばめられている。特にクリスマス休暇のフランスを皮肉を込めて表現してある。

 パリ症候群と題して「初めてパリを訪れる日本人や中国人のうち毎年数十人が深刻な心的障害の症状を見せ、頻繁に入院。あるいは帰国させられというのである。フランスに着いたとたん、彼ら旅行者は妄想やら鬱状態、幻覚、偏執症など奇妙な症状に苦しめられる。長い時間はかかったけど、精神科医たちがその原因らしきものを突きとめた。

 光の都として美化されたイメージと実際のパリとの落差により旅行者の違和感が高ずるからというのがそれである。映画や宣伝でもてはやされる『アメリ』(アメリは2001年4月に公開されたフランス映画で、アメリというパリジャンの日常を描きヒットした映画)のすばらしい世界を期待してきたというのに、彼らが味わうのは冷淡で刺々しい街の雰囲気だった。夢想していたロマンティックなカフェとかセーヌ河岸の古本屋、モンマルトルの丘といったパリ像は、サン=ジェルマン=デ=プレの不潔さやスリ団などの治安の悪さ、各種公害、大都市にありがちな醜さ、メトロなどの老朽化した交通機関といった現実を目にして崩れてしまう」という具合なのだ。

 また、絵画のシマウマの中にQRコードが隠されているというくだりがあって、ネットやコンピューターに疎いガスパールに「あなたは人間社会の外で生活しているから知らないのでしょうけど、今の世の中、これは当たり前のものだからどこにもこれがついている。包装用のダンボール箱、美術館の中の説明、カード、交通機関の切符とか……」とマデリンが言ってのける。

 QRコードは言わずと知れた日本の自動車部品メーカー、デンソーが開発したもので、特許権を行使しないと宣言していることもあって世界中に普及しているようだ。このQRコード、個人でも使えるので名刺なんかに利用するのもいいかもしれない。等々、他愛なお話しでした。

読書「夜と少女La Jenne Fille et La Nuit」ギョーム・ミュッソ著集英社文庫2021年刊

2023-12-01 08:44:10 | 読書
 これは愛をめぐるサスペンスである。新刊が出るとみんなが競って買い求め、夏場の海辺のパラソルの下やそよ風の吹く自宅のパティオで読みふける作家トマ・ドゥガレが、久しぶりにニューヨークから自身の生まれ育った土地、南フランスのアンティーブの街に帰ってきた。

 それはトマが卒業した高校、在外駐在員の子女を修学させるために、フランス公立教育施設協会が1967年に創立したコートダジュールでは特異な国際高等学校なのだ。その創立50周年記念祭が行われるためでもあり、自身が犯した罪の発覚を怖れてでもある。

 トマの十代のころ強烈な恋心を抱いたのは、少女ヴィンカ・ロックウェル。2017年いつものカフェのいつもの席、風が松の枝を揺らすその下のテーブル、ヴィンカがいつも飲んでいたチェリーコークも注文する。音楽が流れていた。R・E・Mの「ルージング・マイ・レリジョン」。そして観た映画について熱っぽく語り合った。音楽が終わった。ヴィンガはレイバンのサングラスをかけてチェリーコークを一口飲むと、レンズ越しにウィンクを送ってきた。彼女のイメージが霞んで完全に消えてしまうと同時に、魔法のようなおしゃべりの時間も消え去った。トマはもはや、あの1992年の気楽な夏の暑さの中にいない。失われた青春時代の夢想を追って走り回り息を切らし、孤独で悲しかった。ヴィンカと会わなくなってから25年も経っていた。

 捜査当局は。哲学教師のアレクシス・クレマンとヴィンカが手に手を取って消えたと断定していた。否応なしに調査をするトマによって恐ろしい真実が明らかになっていく。トマの両親の秘密、トマに幼少の頃から思いを寄せる心臓外科医のファニー・ブラヒミの秘密、親友の政治家のマキシム・ビアンカルディーニの秘密、マキシムの父の秘密、そしてトマ自身の秘密。人間は家族のため、恋人のためそして嫉妬のために殺人を犯す。

 最終的に明らかになったのは、ヴィンカ・ロックウェルが生存していることだった。そういえばニューヨークの公園でちらりとヴィンカを見た記憶を蘇らせるトマだった。読者に今後の展開を(今後があるとすれば)委ねながら物語はこれで終わるが、その今後を考えるのも楽しいものだと思う。頭がよくて美人でスタイルのいいレズビアンのヴィンカ・ロックウェルの未来はバラ色に包まれている。作家のトマとの邂逅の末ハッピーエンドまたはヴィンカに薬物摂取の過去があるので身を持ち崩して悲惨な状況もあり得る。続きを書くとすれば、ハッピーエンドがいいかな。

 この小説を読みながらgoogleマップで南フランスのアンティーブの街を疑似体験をしてみると、道は狭いし国道も日本の二車線道路と同じ、ピザの店が多いし地中海料理を看板にする店のメニューを見ると、炒め物が多いし焼いた魚は丸ごとお皿に載っているし、日本料理のあの繊細さはない。ニースに近づくと海岸線も長い印象だが、私の住む千葉の60キロにも及ぶ九十九里海岸線が誇らしく思えてくる。

 R・E・Mは、1980年に結成されたアメリカのロックバンド。代表作は1991年の『アウト・オブ・タイム』でグラミー賞7部門にノミネートされた。収録曲「ルージング・マイ・レリジョン(Losing My Religion)」は全米4位を記録。Best Short Form Music VideoとBest Pop Performance by a Duo or Group with Vocalを受賞。(ウィキペディアより)2011年解散。
では、「ルージング・マイ・レリジョン(Losing My Religion)」を聴いてください。

読書「ブルックリンの少女La fille de Brooklyn」ギョーム・ミュッソ著集英社文庫2018年刊

2023-11-23 08:57:39 | 読書
 エメラルドグリーンの瞳、ゆるめのシニョンの髪型、ミニスカートと黄色のTシャツその上に薄い皮のブルゾンを着た混血のアンナは小児科の研修医、結婚をまじかに控える私の恋人。私ラファエル・バルテレミは、そこそこ売れてる作家。婚前旅行と洒落こんでコートダジュールの別荘を借りた。 軽やかなそよ風が木々を揺らし頬をなでる地中海を見下ろすテラスで、メルローの赤ワインを重ねた。そのワインが濃密な時間をもたらす筈だったが、予期せぬ別離をもたらした。それはひとえに私ラファエルの至らなさに他ならない。

 ラファエルはずーと心の奥深くに、本当のアンナを知らないという強迫観念が巣食っていた。ワインの酔いが饒舌にもしていたし、気持ちも高揚していた。人生の秘密という切り口からお互いの意見が衝突した。口げんかに発展。アンナが見せたスマホの写真。三つの黒焦げの写真。動転したラファエルは、飛び出していった。20分ほど車を走らせて我に返ったラファエル、引き返したがもうそこにはアンナの姿はなかった。

 パリに住むアパートの隣人、元国家警察組織犯罪取締班の警部だったマリク・カラデックの助力を得ながら真相解明に突き進む。思いもしない意外な事実が明らかになっていく。

 著者の批判精神も旺盛で、フランスの教育環境に苦言を述べている。ラファエルの調査の段階で元捜査官の話を聞くために訪れたワシントン・スクエアにあるマンハッタン大学ロー・スクールに行ったとき、「恵まれたこの学習環境を目にし、私は自分が修士課程を過ごしたオンボロのキャンバスを思い出した。席のたりない大教室、退屈極まる講義、政治化した教授連中の無気力な態度、漆喰のはがれた70年代建築の醜悪さ、健全な競争意識の欠如、失業問題と展望なき将来という重苦しい社会情勢。確かに比較できるものではないし、このロー・スクールの在学中の学生は高額の学費を払っているのだろう。 が、少なくとも相応の勉学環境を与えられていた。フランスで一番腹が立つのはその問題だった。数十年も前から、あれだけ硬直し活力のない教育システム。うわべだけの言辞の裏、あれほどの不平等にどうしてフランス社会は我慢しているのだろう?」と。

 著者ギョーム・ミュッソは、1974年フランスのニースの港町アンティーブで生まれる。モンペリエ大学を終えたあと、高校教師となり執筆を始める。現在まで総売上3500万部を超え、フランスで最も売れている作家といわれる。