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読書「死はすぐそばにCLOSE TO DEATH」アンソニー・ホロヴィッツ著 創元推理文庫2024年9月刊

2024-12-16 11:02:27 | 読書
 ロンドンの高級住宅地リッチモンド。その中のテムズ川に面したリヴァーヴュー・クロースというアーチ型の電動門扉に守られた一画がある。川べりに鬱蒼とした樹林があって、リヴァーヴューと謳いながらテムズ川が見えない詐欺的ネーミングの場所なのだ。

 その中に花壇を取り囲むように、6軒の大小様々な瀟洒な住宅が建ち並んでいる。時計回りに歯科医のロデリック・ブラウンとその妻フェリシティ。特異な古書店を営むメイ・ウィンズロウとフィリス・ムーアの二人の老夫人。元法廷弁護士のアンドリュー・ペニントン。チェスのグランドマスターアダム・シュトラウスとテリ夫妻。医師のトム・ペレスフォードと宝飾デザイナーの妻ジェマ。最近引っ越してきたテムズ川に面した広大な敷地に建つヘッジハンドマネージャー ジャイルズ・ケンワージーとその妻リンダの家族。

 早朝午前4時、リバーヴュー・クロースの住民をたたき起こしたのがヘッジファンドマネージャーのジャイルズ・ケンワージ。ポルシェから鳴り響く2016年に活動を休止したワン・ダイレクションの「Best Song Ever」なのだ。他の住民からは非常識だの声が上がる。これだけではない。私道(勿論ケンワージー家の)に止めた車のせいで、医師のロデリックが出勤の時苦労するという。ある時そのせいで救急患者が死亡するということもあった。本人に抗議しても、馬耳東風で誠意のない態度をとる。そこへ景観を壊すであろう、プールの造成ときた。住民たちの不満が沸点に近づいた。

 そんな時、クロスボウで喉を射抜かれて殺されたジャイルズ・ケンワージーが発見された。担当するのはロンドン警視庁の顔ともいえる存在のタリク・カーン警視。有能なカーン警視にしてもリバーヴュークロースというある意味密室殺人に近い状況は難題と言える。助手のルース・グッドウィン巡査が察したように「ホーソーンを呼んだらどうでしょう」。

 かくしてホーソーンと助手のジョン・ダドリーの登場となる。私は退屈な気分とともに活字を追っていた。やっと事件が起こった。住民全員が容疑者であり、密室ミステリが展開され、二転三転の末ようやく結末に至る。不満もないわけではないが、ラストシーンが秀逸なのだ。その場面を読んでいて映画の一シーンを思い出していた。それは「第三の男」のラストシーンなのだ。1949年にジョセフ・コットン、アリダ・ヴァリ、名優オーソン・ウェルズの出演で製作された。ほんとに印象的なシーンだった。「第三の男」の詳しいことはウィキペディアで、ラストシーンはYouTubeにありますので載せておきます。

 また、密室ミステリについて著者は、「近年になってわたしは、最高の密室ミステリは日本から生まれていると考えるようになった」として、島田荘司「斜め屋敷の犯罪」やこの分野の名手として横溝正史の「本陣殺人事件」を作中で言及し、とてつもない才能だと絶賛している。なかなか嬉しい指摘ではある。それでは大音量で住民の目を覚ましたワン・ダイレクションの「Best Song Ever」を聴いていただきましょう。

 著者のアンソニー・ホロヴィッツは、イギリスを代表する作家。ヤングアダルト作品(女王陛下の少年スパイ!アレックス)シリーズがベストセラーに。また、人気テレビドラマ「刑事フォイル」の脚本、コナン・ドイル財団公認の(シャーロック・ホームズ)シリーズ新作長編「シャーロック・ホームズ 絹の家」などを手掛ける。アガサ・クリスティへのオマージュ作「カササギ殺人事件」では「このミステリーがすごい」「本屋大賞(翻訳小説部門)の1位に選ばれるなど、史上初の7冠を達成。その続編の「ヨルガオ殺人事件」も絶賛を博した。また、( ホーソーン&ホロヴィッツ)シリーズ「メインテーマは殺人」「その裁きは死」でも、年末ミステリランキングを完全制覇している。


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