ノルウェー語、イタリア語、アラビア語、ドイツ語、日本語などなど。翻訳できない単語108例を感性豊かに、独自の見解とともに琴線に触れる文章で描きだす著者は、20代のイギリス在住の女性なのだ。
108例中日本語が4例、ドイツ語も5例を数える。翻訳できない日本語として「KOMOREBI木漏れ日」「BOKETTOボケーと」「WABI-SABI侘び-寂び」「TSUNDOKU積ん読」がある。一つひとつ著者の解説を見て行こう。
●「KOMOREBI木漏れ日」木々の葉のすきまから射す日の光
まばゆくて目を閉じてしまうほど美しいもの。緑の葉のあいだをすり抜け た光は、魔法のように心をゆさぶるでしょう。
●「BOKETTOボケーと」なにも特別なことを考えず、ぼんやりと遠くを見ているときの気持ち
日本人が何も考えないでいることに名前をつけるほど、それを大切にしているのはすてきだと思います。いつもどたばた忙しい暮らしの中で、あてもなく心さまよわせるひとときは、最高の気分転換です。
●「WABI-SABI侘び-寂び」生と死の自然のサイクルを受け入れ、不完全さの中にある美を見出すこと
仏教の教えがルーツにある日本のこの考え方は、不完全で未完成であるものに美を見出す感性です。
うつろいと非対称性をくらしのなかに受け入れるとき、私たちはつつましく、満たされた存在になりえます。
●「TSUNDOKU積ん読」買ってきた本をほかのまだ読んでいない本と一緒に、読まずに積んでおくこと
積読のスケールは、1冊だけのこともあれば、大量の読まない蔵書になっていることもあります。玄関を出るまでに、ページを開いたことのない「大いなる遺産」の本にいつもすまずいてしまう、知的に見えるあなた。その本、日の目を見る価値があると思いますよ。
それにしても日本人にとっても難しい「WABI-SABI侘び-寂び」を理解しているように見えるのは、彼女の才能の底力なのだろうか。
謝辞の冒頭を読んでみましょう。「たくさんの世界がぶつかり合って、この本が出来上がったことを、とてもうれしく感じています。心から、そして永遠の感謝の気持ちを、私を支えてくれた方々にお送りします。もし、エージェントのエリザベス、そして編集者のケイトリンと結婚できるなら、本当にしたいくらいです。……」こういう文章を書く人が好きなので、彼女がラブレターを書いたらどんな文章になるのか興味が尽きない。
翻訳できない単語でノルウェー語で「FORELSKETFフォレルスケット 語れないほど幸福な恋に落ちている」ときブラジル・ポルトガル語で「KAFUNÉ カフネ愛する人の髪にそっと指をとおすしぐさ」で愛情を表し、二人の目には「TIÅMティヤムはじめてその人に出会ったときの、目の輝き」が浮かんだ。と綴れるだろう。それにしても「木漏れ日」、日本語の良さをかみしめる瞬間だ。