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読書「終わりなき道REDEMPTION ROAD」ジョン・ハート著ハヤカワ・ミステリ2016年刊

2022-10-20 09:45:02 | 読書
 ノース・カロライナ州にある市街地の人口が10万人、郊外にはその倍の人口が暮らすある町の警察に所属する刑事エリザベス・ブラック。彼女は今、停職を命じられている。
 
 その理由は、犯人二人を18発の銃弾を浴びせて殺害したというもの。いくら法の執行官といえども、18発は正当防衛の域を出て私刑(リンチ)に類するものではないかと上層部は考えている。

 エリザベスにとっては、思い出したくもない事件だった。黒人のワル二人。廃墟の地下室、裕福な家庭の白人の娘チャニング。

 チャニング救出に向かったエリザべス。暗闇から出てきた男に羽交い締めされ、銃を持った手を壁に叩きつけられ、銃がコンクリートの上で二転三転して暗闇に消えた。床に転がされたチャニングの悲鳴が反響していた。

 力の強い男に頸動脈と頸静脈を同時に圧迫され、意識が遠のいていった。気がつくと、服をはぎ取られ口をきつく覆われた状態でマットレスに針金で縛りつけられていた。男は彼女をレイプし殺すつもりなのだろう。18発の銃弾でその危機を救ったのが少女のチャニングだった。エリザベスはチャニングの罪ならないように、撃ったのがエリザベスということで口裏を合わせた。

 この小説はこのような設定になっているが、私はむしろチャニングが犯人を撃ち殺したとした方がいい気がする。陪審員裁判なら、廃墟の地下室で手錠をかけられレイプされ散々もてあそばれた少女の怨念が18発の銃弾となれば無罪も可能だろう。

 ただ、殺されたのが黒人の若者二人、殺したのが白人の少女となればBLM(Black Lives Matter黒人の命も大切だ)という流れも無視できないのがアメリカ社会の現状。そういう政治的な配慮もなされると矯正施設送りになるかもしれない。そう考えると、この小説の弱点はこれかもしれないと思う。キリスト教会の祭壇下で19人の女性の遺体が発見され、その犯人がエリザベスの牧師の父だったというのも理解しがたいものだった。ジョン・ハートという作家は好きだが、この作品はいただけない。

 著者ジョン・ハートの略歴は、1965年、ノースカロライナ州、ダラムで、外科医の父とフランス語教師の母の間に生まれる。刑事弁護士、銀行家、株式仲買人、ヘリコプター整備士(見習い)など様々な職種を経て作家を志し、一時は挫折しかけたが1年間図書館にこもり、書き上げたのが「キングの死」だった。同作は2006年、エドガー賞 処女長編賞候補、マカヴィティ賞新人賞候補、バリー賞新人賞候補になるなど、高い評価を得た。