氷でできた巨大なタンカーがぼくの胸のドックでゆっくりと溶けてゆく。
ぽっかりと空いた穴の底に色がひとつたりない虹のかけらや濡れて文字のにじんだ手紙や三日月型の恋人のイヤリングが落ちている。火の鳥はやってはこない。小麦畑のような広々とした母の胸で一頭の子鹿のように すやすやと幼児が眠っている。図書館にあった名画のかたわら。黒いイノシシがブルッと身震いし音楽ノートの音符のあいだに隠れる。ガードマンが十人ならんで西の空を見あげているけれど。火の鳥はやってこない。
. . . 本文を読む
凍った炎のような美しすぎる音楽から覚めてテーブルの反対側へと移動する。A地点から B地点へ。それだけできょう一日の風景が違ってみえる。
走れ はしれきみも絶滅危惧種。走れ はしれ。夕陽から夕陽へと 一本のロープをしずくのように渡って わたって。はしれ はしれ!北京原人に追いつく夢など捨てて。ナウマン象にも 北斎にも追いつけっこないのだからね。・・・おとといのきみ自身にすら。走れ はしれ疲れはてて倒れ 一握りの砂をつかむように“明日への希望”をつかむことだってある。
. . . 本文を読む