ある朝目を覚まして庭に出ると
空いちめんにうろこ雲がひろがっていた。
ああ もうそんな季節なのか・・・と思いながら
きびしい残暑に地上の景物が茹だっている中を歩く。
ぐたぐたと連続する真夏日。
もうずいぶん長いあいだ雨が降らないため 花をつけたサルスベリや
夏野菜がくたびれはてて
うらめしげに空を見あげている・・・のをぼくは見る。
風土は ぼくのずっと外側にある皮膚なのだね。
秋のはじまりをつげるうろこ雲の列島。
さあ笑ってみよう 愉しいから笑うのではなく
笑うから愉しいのだとわかるだろう。
追憶の礫(つぶて)のように 小さな鳥の一群が横切ってゆく。
その向こうのうろこ雲。
キョウチクトウがきれいだね。
その木陰に入ってぼくはひと息ついている。
終わりのはじまりが 綱がきれてしまったこの国のどこかで
はじまっている予感が する。
季節が 今年もひと足ひと足すすんでゆき
たとえばこの詩がぼくの感傷にすぎないことが露わになるときがくるだろう。
海峡をはさんで相互不信の無数の刃が尖ってゆく
・・・のをぼくは見る。
恋びとよ ぼくは
――と呼びかけてみたい人はもういない。
たわわな甘い果物のようにぼくを悩ましつづけた夢から抜け出してみると
空は今日もこんなに果てしない茫漠たる広がりなのだ。
ヒコーキ雲がその淵をきり裂いてあらわれることがあっても
この空に国境線をひくことはできないだろう。
音楽や写真に国境線をひくことができないように ね。