「お金を稼げないやつに未来はない」ミャンマー人を怒らせたSNS投稿 (msn.com)
「お金を稼げないやつに未来はない」ミャンマー人を怒らせたSNS投稿
中国資本の複数の工場が襲撃を受けたのだ。中国メディアの報道では二輪車に乗った大勢の「暴徒」が棍棒などを手に暴れまわった。計32もの工場が襲撃され、衣料や肥料などを製造する5つの工場が放火で焼け、2人の中国人従業員が負傷した。中国政府は国軍に自国民の保護を要請、国軍が同地区を含んだ一部地域への戒厳令を発令する一因となった。
ロンドンに本部を置く人権団体「ビルマ・ヒューマンライツ・ネットワーク」のリーダー、チャウ・ウィン氏は事件2日前の12日に「1人の民衆が殺されれば、中国の工場が1つ灰燼に帰す」とツイート。デモ隊のリーダーは襲撃後、中国政府に対して「ミャンマーで操業する中国企業を守りたいのなら、クーデター政権を支持するのを止めるべき」と警告を発した。
あるSNS投稿をきっかけに民衆が暴徒化
ミャンマーでは国軍へ強い姿勢を示さない中国への不信は募っていた。現地在住の中国人がSNS微博で「貧しいくせに何が『決起』か。お金を稼げないやつに未来はない」などと書いた内容が翻訳され、日本人がミャンマー国軍に抗議する写真と並べて中国を叩く声が広がっていた。反中感情を強めた民衆の一部が暴徒化し、工場襲撃に及んだとの見方が現段階では有力だ。
ラインタヤ郡区の中国資本工場では給与や労働環境をめぐって労使の紛争が絶えなかったとされる。クーデター後もデモや不服従運動への参加を制限する工場主がいたとされ、意趣返しを狙った者もいたとの指摘も出ている。
複雑な立場なのが100万人いるとされる現地華人だ。彼らは移民から世代を重ね、現地化しているが、華人と中国人を同一視しがちな世論に悩まされている。抗議デモに参加し、銃撃で亡くなった17歳の若者、林耀宗さんの父親は「(中国政府は)私たち華僑のことも考えて欲しい。民主に同情心を持って欲しい」と悲憤を込めて訴えた。
中国にとってクーデターで親密な国軍が権力を掌握し、西側の制裁で中国が頼みの綱になることは望ましいシナリオだったに違いない。だが、情勢がここまで混乱し、中国が悪者と見られ工場が焼き討ちに遭い、現地華人からも恨まれることは計算外。視界不良に陥ったミャンマー情勢に中国も巻き込まれつつある。
(野嶋 剛/週刊文春 2021年4月1日号)