エマニュエル・トッド氏、エリートが分断を解消せよ:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)
エマニュエル・トッド氏、エリートが分断を解消せよ
ソ連崩壊や英国EU離脱を予期した歴史学者は今、民主主義を阻む原因が教育にあると見る。エリート層が大衆と自分たちは違うと思い込む西欧の分断社会では何も解決しないと説く。民主主義を取り戻さなくてはいけない。どうすればいいのかを聞いた。
(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)
![](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00119/00104/pf.jpg?__scale=w:400,h:541&_sh=0100770a00)
エマニュエル・トッド[Emmanuel Todd]氏
1951年フランス生まれ。パリ政治学院卒。英ケンブリッジ大学で博士号を取得。家族構成や出生率、死亡率から世界の潮流を読む。76年の著書で旧ソ連の崩壊を予言した。米国の衰退期入りを指摘した2002年の『帝国以後』は世界的ベストセラーに。その後もアラブの春、トランプ大統領誕生、英国の欧州連合(EU)離脱を言い当てた。
世界で民主主義が機能不全に陥っているように見えます。民主主義を働かせるにはどうしたらいいのでしょうか。
機能不全がどこから生じているのか。2つの側面があります。1つ目は教育による社会の分断です。高等教育を受けた人、中等教育までの人、読み書きができるだけのレベルの人というように分かれています。一昔前は読み書きができれば平等という感覚があったんですが、今はそれがなくなりました。
上層にいる人たちが下層の人たちをさげすむような状況が生まれ、下層の人は上層の人の言うことに懐疑的な感情を抱いている。高等教育を受けた人々が結構多くなり、彼らだけで閉じた世界をつくり上げてしまっている。
もう一つは共同でみんなが何か1つのことを信じるようなものがなくなってしまったことです。宗教や国家のことです。現代の先進諸国の社会は階層化し、どこかのグループに所属しているという意識がない個人だけで成り立っています。
上層の人々がつくる少数の権力者の層はシステムになっていません。つまり下層の人々は民主主義を求めて抵抗すると同時に、少数の権力者が君臨するのを阻止しようとするという緊張の中にあるわけです。
西側が再び結束するとき
教育格差をなくし、分断を解消するにはどうしたらいいのでしょうか。
交渉、話し合いをすべきだと思います。上の層が行動を起こすべきです。下層の人々を尊重する形で経済政策や社会政策をつくり上げることが解決につながる。上層にいる人々は教育がそのポジションを正当化しているという思い込みを捨てなければいけない。
社会における上下の分断はあちこちで見られます。それは文化や家族構造によって実情が異なります。日本ではある程度、尊重し合う関係が見られ、分断はそこまで激しいものではないと見ています。例えば東大卒の人が労働者たちをどう見るかというような話です。
でもフランスではエリートと労働者の関係は日本とまったく違っているのです。本当の問題は古くからの民主主義の国に残っている。フランス、英国、そして米国ですね。
![](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00119/00104/p2.jpg?__scale=w:500,h:274&_sh=0280e30490)
交渉し、具体的には何をすべきでしょうか。分配の仕方を変えるとか。
まず行き過ぎたグローバル化をもう一度見直すことが大事だと思います。グローバル化が生み出したいい面はある。世界のあちこちの人とコミュニケーションが取れ、旅行にも行ける。国際貿易もいい面がある。
ただ、国家、国民の生活、経済を守る意識を持つべきです。グローバル化によって上層の人たちは世界の開放を目指しましたが、それは上層の間だけの話でした。今やらなければいけないのは国家中心に戻し、もう少し保護主義を持ち込むことだと考えています。
トランプとかブレグジットは国家中心に戻す動きを見せました。欧州は今の形を脱し国家中心に少し戻る必要があります。エリートと大衆の交渉は、国家の枠組みの中でのみ可能だからです。
昔のような暴力的なナショナリズムのことを言っているわけではありません。第2次世界大戦に見られたようなナショナリズムの動きに戻るリスクは、今はないと私は見ています。
国家の問題については今の米国を見ればいい。バイデンがこれから選択できる道は2つあります。1つ目は狂ったグローバリズムをさらに続ける道。これはクリントンから続いている。さらなる開放や超大国の夢みたいな話です。
2つ目の道はトランプの道を継続する。もう少し柔らかいやり方でトランプが始めたものを続けることも可能だと思います。
トランプというのは国家中心に戻す動きと位置づけられるのか、あるいは単なる突然生まれた、アクシデントみたいなものか。オバマのときから一部の保護主義政策が取られていたことからも分かりますが、トランプ自身もその大きな流れの中に位置づけられます。