第2次大戦後の世界秩序が変わる時
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サイバー攻撃能力の脅威
ロシア帝国の偉大さを取り戻すという、個人的な野望を実現する機が熟したという判断もあったようだ。 2014年にウクライナ領クリミア半島を併合し、さらに東部ドンバス地方の一部を実効支配下に置いて以来、ロシアは制裁を受けてきたが、これなら耐えられるとプーチンは判断したのだろう。 同時に、今やらなければ、ウクライナはNATO加盟を果たしてしまうという焦りも、プーチンにはあったようだ。そうなってからウクライナを攻撃すれば、NATOの基礎となる北大西洋条約第5条(集団的自衛権)に基づき、ロシアはNATOの反撃を受けることになる。
中国などと比べると、ロシアはさほど世界経済に深く組み込まれているわけではない(もちろんエネルギーは例外だが)。 故ジョン・マケイン米上院議員は生前、ロシアは「国家の仮面をかぶったガソリンスタンドだ」と揶揄したものだ。 世界経済から比較的孤立しているということは、「(欧米諸国には)ロシアに影響を与える手段があまりない」ことを意味すると、ジェームズ・スタインバーグ元米大統領副補佐官(国家安全保障担当)は指摘する。 「みんな石油と天然ガスが必要だから、いずれ(ロシアの暴挙を)受け入れるようになるだろうとプーチンは計算しているのだ」
それにロシアは、核の抑止力だけでなく、強力なサイバー攻撃能力を構築してきた。 CNNによると、米国土安全保障省は1月23日の報告書で、ウクライナ侵攻に対するアメリカまたはNATOの措置が、ロシアの「長期的な国家安全保障」を脅かすと見なした場合、ロシアは米本土に大規模なサイバー攻撃を仕掛ける可能性があると指摘している。
民主主義陣営に希望がないわけではない。 近年、多くの国でナショナリスト感情が高まり、国際協調の機運は衰えてきたが、ロシアのウクライナ侵攻は、民主主義陣営が結束の必要性を実感するきっかけになるかもしれない。ジョー・バイデン米大統領はそれを自らの大きな目標の1つにしてきた。
バイデンは2月24日のスピーチで、ロシアの指導部と企業と銀行に対して厳しい制裁を科すことによって、その軍事力と経済力を衰えさせるアメリカとNATOの計画を明らかにした。また、プーチンのウクライナ侵攻は「世界平和の基本理念に対する攻撃」だと非難した。 今後の展開は、いったい何を考えているのか分からない男の行動に左右されることになる。 しばらく前から、プーチンは合理的な判断ができなくなっているのではとも言われてきた。だが、そんな男が、民主主義陣営と世界秩序を過去に例がないほど追い詰めているのは間違いない。
ロシアのウクライナ侵攻は、「第2次大戦後に構築された世界秩序の限界を知らしめた」というスタインバーグの言葉が身に染みる。 【マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)】 From Foreign Policy Magazine 〈2022年3月8日号(3月1日発売)は「総力特集 ウクライナ戦争」特集。プーチンの次の一手/国際秩序の変化/中国の出方/エネルギー・世界経済への影響……を読み解く〉