ロシアの軍隊を地上から消し去る…英国の陸軍トップが"直接対決"を公言するワケ
2022年6月29日、トルクメニスタンの首都アシガバートで記者団の取材に応じるロシアのプーチン大統領(トルクメニスタン・アシガバート)*この画像は、ロシア国営通信社スプートニクが配信。 - 写真=AFP/時事通信フォト
■冷戦時代に逆戻り…「プーチンの戦争」で目を覚ました欧州 プーチンに対する包囲網が着々と築き上げられている。 【写真】英陸軍のパトリック・サンダース参謀総長 北大西洋条約機構(NATO)はこれまで、ロシアを「戦略的パートナー」と位置づけ、直接的な交戦を避ける方針を明示してきた。しかし、6月29日にスペインで開かれたNATO首脳会議で採択された今後10年間の行動指針で、「最大かつ直接の脅威」との位置づけに転換した。 冷戦終結以来の大転換だ。さらに、NATO加盟国は同首脳会議で、即応部隊を7.5倍に増やす方針で合意した。アメリカのバイデン大統領は、欧州の中立化を目論むプーチンがかえって欧州を刺激し、「NATO化」させる失策に陥ったと指摘した。 これとは別に、増長するロシアに業を煮やしたイギリスでは、将来的にイギリスまたはNATO軍を戦地に投入せざるを得ないとの主張が噴出しはじめている。イギリス単独の兵力には限界も指摘されているが、北欧2カ国の加盟でますます強固になるNATOの結束とあわせ、対ロシアの体制が着々と構築されつつある。
■英陸軍の新トップ「もう一度ヨーロッパで戦う準備を」 6月に着任した英陸軍のパトリック・サンダース参謀総長は着任早々、イギリスは「もう一度ヨーロッパで戦う」準備をしなければならないと警告した。ロシアの脅威がウクライナを越え、欧州が再び戦場と化すシナリオを示唆した、衝撃的なメッセージだ。 英BBCは6月19日、「イギリス陸軍の新トップが部隊に檄(げき)を飛ばす ロシアとの戦場での対峙に備えなければならないと発言」と報じた。サンダース氏はウクライナ情勢を念頭に、「イギリスを護り、地上戦に参戦し勝利する準備を整えなければならない」のは明らかであり、英陸軍は同盟国とともに「ロシアを打ち負かすことができる軍隊を編成することが急務である」と指摘した。 氏はまた、ロシアによるこれ以上のヨーロッパ占領を阻むべく、NATO軍を強化する目的で「陸軍の動員と近代化を加速」する目標を示した。 「われわれはもう一度ヨーロッパで戦えるよう、英陸軍の準備を整える必要がある世代である」とも述べ、ロシアが現在以上に欧州を侵攻するおそれを想定することは必須であるとの認識を示している。 ■ロシアを地上から消し去る…NATO加盟国に広がる強硬論 強硬論を唱えるのは、英陸軍トップのサンダース氏だけではない。イギリスでは、ロシアを「地上から消し去る」作戦を決行すべきだとの強気の論調が聞かれるようになった。英エクスプレス紙は6月24日、「ロシアを地上から消滅させる」べく、NATO軍が即応部隊の6倍規模への増強を図っていると報じていた。 同紙が「プーチン最悪の悪夢」と表現したこの計画は果たして、現実のものとなった。 NATO加盟国は首脳会議の場で、即応部隊を現行の7.5倍となる30万人以上に増強するほか、ポーランドに米軍の大規模な司令部を設けること、スウェーデンとフィンランドの加盟手続きを開始することなどで合意した。ポーランドへの米軍司令部の配置については東欧で初の例となる。 英スカイニュースは合意の正式発表に先立ち、「冷戦後最大となる防衛体制改革」になるとして取り上げている。同紙はプーチンのウクライナ侵攻が、結果的には全30カ国というNATO加盟国の防衛体制を「根本的に再考する引き金となった」と指摘する。 ■正夢になったプーチンの悪夢 ウクライナの危機を目前に、NATO加盟国の結束は深まる結果となった。米ホワイトハウスの声明によると、アメリカのバイデン大統領はプーチンの誤算を冷笑し、次のように語った。 「プーチンは欧州の『フィンランド化(中立化)』をもくろんでいました。結果、彼が得んとしているものは、欧州の『NATO化』というありさまです。彼が絶対に望んでいなかったことですが、欧州の安全保障には不可欠なものです」 ウクライナ東部で支配域を広げるロシア軍だが、このところまた厳しい状況が聞かれるようになった。テレグラフ紙は6月23日、「ロシア将校らはこのところ、主に講師と教官、そして料理担当をかき集め、前線部隊を編成することを余儀なくされている」と報じている。兵士不足の解消を図るべく、国内の軽犯罪の囚人に恩赦を与え、戦地へ移送する案も浮上しているという。