元イングランド代表GKカークランド、鎮痛剤の依存症を告白
鎮痛剤の依存症を告白した元イングランド代表GKカークランド。現在は家族のサポートを受けつつ依存症と戦っている(Photo: Getty Images)
文 田島 大 元リバプールのGKクリス・カークランド(41歳)が、鎮痛剤の依存症に苦しんでいたことを告白した。 カークランドは若くして将来を嘱望されるGKだった。2001年に600万ポンドでコベントリーからリバプールに移籍し、20歳にして英国史上最高額のGKとなった。2006年8月にはイングランド代表デビューも果たし、その際には彼の父親の“賭け”が話題になった。カークランドの父親は、息子が11歳の時に「30歳までにイングランド代表デビューする」という倍率100倍の賭けをしており、1万ポンド(約150万円)の配当金を得てニュースになったのだ。 イングランド代表ではその1キャップに留まったカークランドだが、リバプールやウィガン、シェフィールド・ウェンズデーなどプロキャリア通算300試合以上に出場し、2016年に引退した。鬱に悩まされていた苦悩を過去に明かしたこともあるカークランドは今回、英紙『The Guardian』や『BBC』などのインタビューで鎮痛剤の依存症だったことを明かした。
クビ回避のため鎮痛剤を利用し…
カークランドは現役時代、腰のケガに悩まされていた。そして2008年にリバプールからウィガンへ移籍すると、ケガを抱えながら試合に出場するために鎮痛剤を服用したという。最初は数日分だけ。ウィガン時代の6年間では、そういったことが2、3回だけあった。しかし、2012年の移籍をきっかけに状況が一変する。
ウィガンで出番を失ったカークランドは、リバプールやウィガンのあるイングランド北西部に居を構えながら、出場機会を求めてイングランド北中部のシェフィールド・ウェンズデーへと移籍した。プレシーズンは「絶好調だった」そうで、開幕スタメンは間違いなかった。
しかし、開幕の2日前に腰のケガが再発したという。そのシーズンの開幕週は1週間で3連戦が予定されていたが、カークランドの契約には「腰のケガで3試合欠場したら契約解除」という条項が織り込まれていたため、欠場すれば開幕1週間でクビを言い渡される可能性もあったという。
「開幕戦に出なければ、周りから『やっぱりね』と叩かれるはずだ。開幕1週間でクビになることが脳裏をよぎった」というカークランドは「トラマドール」という鎮痛剤を入手し、開幕戦に出場した。その頃のカークランドは、イングランド北西部の自宅からシェフィールドまで毎日のように通っており、鎮痛剤はそういった移動の不安をも和らげてくれたという。 始めは移動の時だけ服用しようと思ったそうだ。
しかし、服用し続けると鎮痛剤に対する耐性ができて薬が効きにくくなり、摂取量が増えていった。気づけば目安の10倍の分量を服用していたという。そして薬に依存するようになり、精神面に影響が出始めた。「引きこもり始めた。練習から帰ると門を閉じて社会とのつながりを絶った。自分は完全に変わってしまった」と打ち明ける。
そんな思いをしていたカークランドは、2016年にベリーに加入し、初めて依存症を相談することになる。家族と離れてプレシーズンのポルトガル合宿に参加していたカークランドは、鬱もあって苦しんでいた。合宿先の一室で自殺まで考えたという。それでも家族の顔を思い出し、奥さんに電話をかけると、泣きながら「僕は鎮痛剤の依存症なんだ。助けてくれ」と告白した。 結局カークランドは、シーズン開幕を待たずして退団し、スパイクを脱ぐことになった。その後は、選手協会などの力を借りて1年ほどは薬を絶ったそうだが、目標を失って選手生活が恋しくなった彼は、腰の痛みもあったため再び鎮痛剤に手を出したという。無論、そんな生活は長続きしない。2019年に倒れてしまい、ようやく依存症のリハビリを受け始めたという。