フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

9月7日(金) 晴れ

2012-09-08 01:43:54 | Weblog

  7時半、起床。朝のシャワーはいい。気分がスッキリする。

  ハムトースト、牛乳、トマトの朝食。 

  午前中は原稿書き。昨日の悪夢からはなんとか立ち直った。しかし、ファイルが全部消失して、一から書かなくてはならなかったら・・・と考えるとゾッとする。

  午後から大学へ。昼食は〈すず金〉の鰻重。1時ごろ暖簾をくぐったが、8月のときとは違って、ずいぶん空いていた。落ち着いて食べられるのでありがたい。私の隣の席の老人は、20数年ぶりの来店とか。ビールの小瓶とご飯をごく少な目の鰻重を静かに味わっていた。夏の名残の時間が店内を流れていく。 

  教務室であれこれの仕事。事務所のSさんに電話をしたら声に元気がない。教務室に来たときに「どうしたの、元気がないみたいだけど」と聞くと、「夏バテみたいです」という。「それなら鰻を食べるといい、自分もいま食べてきたばかりだけど」と言うと、「鰻は私も好きです。神田の〈きくかわ〉の鰻が好きです」と答えたのでびっくりした。〈きくかわ〉と言えば、下町の名店である。鰻重にはイロハ二の4段階があって、一番安い「イ」でも2900円。一番高い「二」だと6600円もする。私が今日食べた〈すず金〉の鰻重が3人分食べられる。若いSさんの口から〈きくかわ〉の名前が出てくるとは思わなかった。

  教務室で仕事をしていると、同僚の武田先生が私のところにやってきて、昨日の私のブログを読みましたよと言う。原稿のファイルが消失した件だ。自分にも同じようなことがありましたと言う。台所からナイフが一本、ある晩、忽然として姿を消したというのである。武田先生は一人暮らしだから、誰かの仕業とは考えられない。で、武田先生の立てた仮説は、「ナイフの行方不明の犯人は自分だが、自分のしたことを忘れてしまっている」というものである。そして、「この歳になるとそういうことってありますよね」(注:私と武田先生は同い年)としみじみと口調で言った。ち、ちがうから、武田先生、一緒にしないでね。

  6時半まで書類の整理をしてから帰る。教務としてこの部屋に来るのはあと4回くらいではなかろうか。そう思うと、名残惜しい気がしないでもない・・・ということはない。『幸福の黄色いハンカチ』で高倉健が演じた刑期を終えて出所する男の心境だ。娑婆に出たら、まず食堂に入って、「カツ丼とビール」を注文するのだ。

  それにしても、鰻重は腹持ちがいい。この時間になっても空腹を感じない。

  東京駅から京浜東北線に乗ったら、目の前の座席に座っている小学生の女の子が私の顔をじっと見上げている。おい、もしかして、席を譲るべきかどうか考えているんじゃないだろうな。い、いいからな、譲ってくれなくて。しばらくて女の子は、隣の座っている弟と思しき男の子を促して、無言で席を立った。降りるのか。いや、そうじゃなかった。入口の近くまで行って、そこで弟と二人で立っている。う~ん、席を譲れたのかもしれない。私は周囲を見回し、老人がいないことを確認してから、目の前の空いた座席に座った。