温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台湾・北横公路横断ドライブ その1

2013年04月24日 | 台湾
台湾中北部の苗栗県や新竹県で計画していた湯めぐりをひと通り済ませた私は、次なる目的地を北東部の宜蘭県に定めていました。今回はレンタカーという万能な交通手段があるので、車道さえあれば大抵のルートなら走ることができます。まずは台湾北部を示す次の地図を御覧ください。


地図上のAが出発点である新竹県尖石郷錦屏温泉、Bが目的地である宜蘭県大同郷百韜橋です。この2点間は台湾島の脊梁となっている山岳地帯を越えて西から東へ横断すれば地図上では最短となるわけで、青いラインが実際に車で走れるその最短ルートをトレースしています。一見すると大したことのない経路のように思われますが、試しにGoogleMapで両地点間をルート検索してみたところ・・・


(上画像をクリックするとGoogleMapのルート検索結果が表示されます)
ななんとなんと、最短距離を進むのではなく、台北市街経由で高速道路をグルっと大きく迂回したほうが所要時間が短くなるという答えが出されたのです。山越えの最短ルートは約85km・3時間超に対し高速経由の迂回路は約160km・2時間59分。2倍の走行距離なのに所要時間がほぼ同じということは、それだけ山越えの道が険しいことを示しているのでしょう。また地図を見る限り最短ルートのほうが遥かに走行距離が短そうに見えますが、実際には2倍しか差がないのですから、最短ルートが非常にクネクネしていることも推測できます。
でもせっかく観光で台湾に来たのですから、実用本位な高速ではなく、多少苦労してでも山奥の絶景を眺めてドライブした方がきっと想い出に残るはず・・・。そんな考えの私に高速道路を選択する発想などなく、当然のように山道ドライブを敢行することにしました。


では実際にどんなルートなのか。2点間を拡大した次のマップを御覧ください。


青いラインが今回のルートです。太い線で描かれているため判かりにくいのですが、ひたすらクネクネ道が続くことは一目瞭然。しかも単なるクネクネではなく、ヘアピンカーブや狭隘路、急勾配など、初心者ドライバーだったら間違いなく泣き出しちゃうような難関の連続なのであります。

また途中の巴陵という場所から先は台7線を進んでいますが、この区間は北部横貫公路、略して「北横公路」と呼ばれており、台湾の脊梁山脈を越える数少ない東西横断道路のひとつであります。台湾の南北に聳える山脈には玉山(3952m)や雪山(3886m)など富士山よりも高い山が存在しており、島自体は九州と同じような大きさでありながら、その険しさ故に島を横切る交通路が非常に少なく、この「北横公路」の他は「中横公路」や「南横公路」程度しか道がありません。この3本の横断道路は「台湾三大横貫公路」と呼ばれています。今回はそのうちの一つで台湾島を横切るわけです。険しい道ゆえに越えたときの達成感があるため、自転車でツーリングする日本人の方もいらっしゃるようですが、そんな体力の無い私は1.5Lのトヨタ・Yaris(ヴィッツ)で山越えに挑んだのでありました。


●錦屏から玉峰まで

【11:15 錦屏橋】
前回取り上げた小錦屏温泉から戻って車に乗り込み、錦屏温泉を通り過ぎて、錦屏後山産業道路(※)との接続点である錦屏橋へとやってきました。錦屏温泉からここまでは約3km離れていますが、今回の記事では便宜上、ここを起点とさせていただきます。上画像において、画像中央に写っている錦屏橋(錦屏一号橋)を渡ってまっすぐ進むと秀巒温泉・玉峰方面、右は錦屏温泉や小錦屏温泉方面、左は内湾を経由して竹東・新竹方面です。今私は画像の右方向からやってきましたので、これから橋を渡って正面方面に進みます。
(※)日本で産業道路といえば工場地帯で大型車が走るような大通りをイメージしますが、台湾に於いては山間集落の生業を支える生活道路であり、ほとんどは林道に毛が生えた程度の狭くて険しい山道です。



切り立った岩壁を削って設けられた洞門をくぐります。このすぐ先には「天然谷温泉」という温泉施設があるのですが、今回は時間の関係で利用しませんでした。


 
【11:18 青蛙石】
「天然谷温泉」の先には「青蛙石」と呼ばれるちょっとした名所があるらしいので、駐車場に車を止めて見学してみることに。
路肩と渓流に挟まれたスペースは小さな公園のように整備されており、ひょうきんなポーズをとる大小のカエルの石像が置かれているのですが、「青蛙石」とはこの石像ではなく、渓流の中でドシンと構える岩のことを指しているようでした。画像右(下)の真ん中に写っている岩をよく見ますと、こちらを睨んでじっと座っている蛙に見えるような見えないような・・・。



険しい地形ですので、あちこちで斜面崩壊・土砂崩れが起きています。このように法面が崩壊したばかりの箇所を通過する瞬間は、土砂に飲み込まれそうな恐怖感に襲われました。


 
GPSの画面には小腸も顔負けのクネクネ道が表示されました。非常に見通しが悪いので、路肩には「常時ライト点燈せよ」の標識も立てられています。


 
標高が高くなるにつれて霧が濃くなっていき、昼間とは思えない暗さに。


 
【11:45 峠の集落】
ひたすら続くヘアピンカーブの急勾配を登り切って峠のピークへたどり着くと、そこには小さな集落が道にそって形成されていました。



【11:50 玉峰・秀蘭分岐点】
峠の集落からちょっと下るとこのような分岐点となります。ここをまっすぐ進むと以前拙ブログで取り上げた秀巒温泉へ辿りつけますが、今回はここを左折して玉峰方面へ進みます。


 
分岐点からは何故か道幅が広くなり、カーブの回転半径もいくらか緩和されて走りやすくなりました。部分的に道路改良が進んでるのでしょうね。エンジンブレーキを多用しながら谷底へ向かう坂を下り、やがて玉峰集落へ。


 
【12:10 玉峰】
玉峰という小さな集落に入りました。小学校や警察の派出所などひと通りの公的施設は揃っており、集落で生活するための小規模な商店も点在していますが、コンビニなどはありません。小吃と書かれた看板もありましたので、そのような看板の店では軽い食事がとれるのかもしれませんが、営業しているか否かは不明です。
道は集落の途中で二又に分岐しており、標識によればどちらへ進んでも桃園県に出るとのこと。


 
分岐の左は荒れた砂利道、右は橋を渡ってさらに山奥へと伸びています。さて、どちらに進むべきか・・・。ちょうどすぐ傍で歯っ欠け爺さんがウロウロをしていたので、この爺さんに「(北横公路に接続する)巴陵へはどちらですか?」と訊いてみたところ「左へ進め。右は道が悪くて遠回りだ」と答えてくれました。いや、お爺さんの話す言葉はほとんど聞き取れませんでしたが、身振り手振りや、たまに聞き取れる単語から推測すると、そのように教えてくれているようでした。



お爺さんを信じて荒れた砂利道へ進むと、分岐から数百メートルで砂利道は終わって舗装路面に戻りました。非舗装は川沿いの区間のみで、ちょうどそこだけ陥没しているようになっていたので、おそらく水害などで路盤が流失してしまい、とりあえず砂利道で仮復旧させているのだろうと思われます。しかし、その後もこんな感じで路肩が崩壊している区間とあちこちで出くわしました。

玉峰からは先は道路状況がかなり悪いようです。まだまだ先は長いですし、しかもまだ中央の脊梁を越えていません。この時私の脳裏によぎったのは、数日前に遭遇した南投県紅香温泉へ向かう一本道における現在進行形の土砂崩れ現場の様子でした(拙ブログの当該記事をご参照あれ)。災害は何の予告も無く我々に襲いかかってきます。もし目の前で道路に障害が発生したらどうしよう。直接的な被害に遭わなくても、行く先が通行止だったら、今やってきた道を戻って大きく迂回しなければなりません。

果たしてこの先はどうなることやら・・・
(次回へつづく)
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小錦屏温泉

2013年04月22日 | 台湾
新竹県・尖石郷の錦屏温泉から更に奥へ入ったところに「小錦屏温泉」という人気の野湯があるという情報を得たので実際に行ってみたくなり、事前にググってみたところ、たしかにネット上ではたくさんの訪問記などを見つけることができたのですが、道の険しさを理由にみなさん現地まではオフロード車でアクセスしているらしく、FFの普通車ではどこまで行けるのか、歩くとなるとどのくらい時間を要するのか、私が欲しかったそのあたりの情報が見当たらず、仕方ないのでよくわからないまま、とりあえず現地へ向かってみることにしました。



いきなりですが、現地までの概念図を掲載させていただきますので、この図に記されている内容をもとに以下の文章を読み進めていただくとわかりやすいかと思います。なお温泉までは歩いて向かったのですが、距離が掴めなかったので、各画像のキャプションにはその地点を通過した時刻を一緒に記入いたしました。


 
【8:40 歩行開始】
宿泊した「美人湯館」を8:30にチェックアウト。ホテル前の一本道を奥へ進んで錦屏集落を抜け、数百メートル走ったところで、左側に空き地を見つけました。この先も道は舗装されているのですが、幅員が狭くて勾配も急なので、レンタカーに万一の事態が発生することを防ぐため、この空き地に車を止めて、リュックに荷物(水着・カメラ・ペットボトルの水・飴玉など)を詰め込んで歩行を開始しました。空き地の先からいきなり急坂がはじまります。



空き地からちょっと登った右手にはレンガの倉庫が建っていました。見るからに相当古そうですね。何年前の建造物なんでしょうか。


 
【8:50 分岐その1】
小錦屏温泉への道のりは、勾配こそ急であるものの、分岐はあまり多くないので、道に迷う危険性は少ないかと思います。上画像の地点が数少ない分岐点の一つでして、ここは左へと進みます。なお右の道は坂を下って養魚場(画像右(下))へとつながっています。分岐点をよく見ると、右側の路肩に進入禁止の標識が立っていますね。そちらの方へ行かなければ良いわけです。



ひたすら坂を登ります。途中、車が離合できる路肩やS字カーブの外側スペースなど、駐車可能なポイントが数ヶ所ありました。先の見えない登りが延々と続き、息は切れる、腰は痛む、そして喉も乾きはじめます。



途中にはこのような水場があるのですが、衛生状態がさっぱりわからないので、さすがに飲む気にはなれません。出発前に水を必ず携行しましょう。私はホテルの客室に用意されていたミネラルウォーターを持参していきました。


 
【9:10 登り坂のピークに建つ小屋・分岐その2】
勾配が緩やかになりはじめると、やがて左手に小屋(倉庫?)が見えてきます。この辺りが登りのピークでして、これ以上登ることはありません。なお小屋の手前の路肩には2~3台駐車できるスペースがあり、もしここに駐車しても他車の離合に支障が出ないほど余裕がありますので、私みたいに苦労して歩いて登らず、ここまで車に乗ってきても問題ないかと思います。実際に温泉から帰ってくるときに、ここで1台の乗用車(カローラクラス)とすれ違いました。
小屋の先には2つ目の分岐があり、ここは右へ進みます。なお誤って左へ行ったとしても、すぐに閉鎖中のゲートによって進めなくなりますから、ここでも道に迷うことはないでしょう。


 
【9:15 砂利道の急な下り坂スタート】
2つ目の分岐点からは一転して下り坂となります。しばらくは舗装路面が続きますが、途中で舗装は途絶えて砂利道となり、そこから更に下り勾配が急になります。なお舗装路面終了地点の手前にある路肩スペースは普通車にとっての最終駐車可能ポイントですので、もし普通車でここまで来てしまったら、その路肩スペースに止めるか、あるいは転回して引き返しましょう。
ここから先は普通車の通行ができません。オフロード車のみ通行可能です。


 
見晴らしの良いところで右の方を眺めると、眼下に渓流の谷が見えました。あの谷底まで一気に下るわけです。


 
【9:18 Z字の坂】
この白い看板は渓流の禁漁を告知する新竹県の掲示なのですが、この看板のすぐ下にある坂がこの道のハイライトかもしれません。というのも・・・


 
このようにZ字状になっており、ここを車で通行する場合はスイッチバックの要領で進まなければならないのです。しかもガードレールが無いため、バックの塩梅やハンドルの切り方を誤れば谷底へ転落してしまいます。このスリルあるジグザグ路を運転したいために、敢えてオフロード車で小錦屏温泉を目指す方も多いようです。


 
谷底を流れる川へ辿り着くまで、まだまだ急な下りは続きます。ダート路なのでとても滑りやすく、何度も足元を掬われそうになりました。
勾配が緩くなって道が樹林帯の中へ入ってゆくあたりを歩いていたら、川の方からオフロード車がやってきて、ドライバーの方が私に手を振りながらZ字坂に向かって去っていきました。


 
【9:25 川原へ下りきる】
Z字坂から約300~400メートルで坂を下りきり、川原の広場へ出ました。オフロード車はここに駐車します。


 
広場から川の下流を眺めますと、岩陰からテントのシートがチラっと姿を覗かせているのですが、これが今回の目的地である「小錦屏温泉」であります。ここからは川原を下流へ向かって歩いてゆきます。ゴールが見えてきたので足取りが俄然軽くなりました。



崖下には浴槽の跡と思しきコンクリ製の構造物がありました。ここにはかつて温泉施設があったのでしょうか。


 
【9:30 小錦屏温泉到着】
駐車した空き地から歩き始めて50分で小錦屏温泉に到着しました。大きな岩の傍に立てられた木の柱にテントを張って屋根がけされており、その下には温泉が湧出している湯溜まりがあるのです。子供の頃に作った秘密基地のような、とても原始的な小屋ですね。



コンパネを立てて側壁にしているこちらの小屋は脱衣ルームです。こんな山奥にもかかわらずこの温泉は人気があって、意外と人がやってきますので、たとえ到着時に誰もいなかったとしても、念のために水着に着替えておきましょう。私もちゃんと着替えましたよ。


 
川原一帯が温泉湧出地帯であり、あちこちから湧き出ているのですが、その多くは川に沿って並んでいる3つの湯溜まりに収斂されています。この3つある湯溜まりのうち、最上流側に温度計を突っ込んでみると39.6℃となっており、お湯は足元から湧出している他、さらに上流側に点在する小さな泉源から流れてきたお湯もこちらへ注がれていました。しかしながら、湯溜まりのサイズが小さい上、巨大な岩とテントに挟まれているためにかなり薄暗く、閉塞感も否めません。テントはかなり堅牢に造られており、内部には時計やコップなどが備え付けられていました。


 
続いて真ん中の湯溜まりへ。こちらはややぬるくて38.1℃です。湯溜まりは岩に囲まれた深い位置にあり、しかも小さいので、実際に入ってみると圧迫感がありました。


 
下流側の湯溜まりは41.3℃という最適な湯加減であり、こちらも足元湧出や周辺の小さな泉源から集められたお湯がプールされているのですが、上2つと異なりこちらは何の囲いもない完全な露天風呂であり、2人同時に入っても余裕のあるサイズですので、私としてはここが非常に気に入りました。
お湯は無色透明でほぼ無味無臭ですが、神経を研ぎ澄ませて嗅いでみるとタマゴ臭が微かに香っているようであり、また石膏泉的な甘さを含んでいるように感じられました。なお人が湯溜まりに入るとしばらくお湯が灰色っぽく濁りますが、数分で元の澄んだ状態に戻ります。



私が訪問した時には先客が一人いらっしゃったので、一緒に入浴させていただきました。
このおじさん(画像左側)は新竹にお住まいの侯さん。週に2回もこの温泉に入りに来るほど小錦屏温泉の愛好家なんだそうでして、この日もご自宅から約40kmの道のりを1時間ほどかけてオフロード車でやってきたんだそうです。そういえば川原の広場には一台の赤いスズキの4駆車がとまっていたのですが、あれはおじさんの車だったんですね。入浴中に侯さんから「荷物はちゃんと目の届くところで管理しておいたほうがいいよ」とアドバイスされたのですが、置き引きなどとは無縁なこの地でなぜそんな注意を要するのかといえば、ここは野生の猿が多く棲息しており、しばしばイタズラして荷物を持って行ってしまうんだとか。特にバーベキューをやっていると美味いものに限って狙われてしまうんだそうです。それだけ自然が豊かなところなんですね。私がのんびり湯浴みしていると、侯さんはおもむろに湯船から出て川に入って冷水浴を楽しんでいらっしゃり、その後温泉入浴と川での水浴びを頻りに繰り返していました。

美しい自然に抱かれながら、足元湧出の新鮮なお湯を堪能できる、極上の野湯でした。
50分かけて急坂を歩いた甲斐がありました。おすすめです。


新竹県尖石郷錦屏村  地図

野湯につきいつでも入浴可能(キャンプ&バーベキューをして夜を明かす人もいます)
無料

私の好み:★★★
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錦屏温泉 卡爾登美人湯館

2013年04月21日 | 台湾
 
前回取り上げた「秀巒温泉」に続いて、もうひとつこの界隈で人気のある某野湯(次回取り上げます)に入ってみたいと考えていたのですが、この日はもう時間が無かったため、その野湯は翌朝へ回すことにし、野湯から近い場所にある錦屏温泉で宿泊することにしました。当地には何軒かの旅館が営業しているんですが、その中から選んだのは「卡爾登(カールトン)美人湯館」です。事前に選択の決め手となる何かの情報を得ていたわけではなく、看板に記されていた「裸湯」という二文字に惹かれたのです。日本人ならやっぱり裸で温泉に入りたいですから。


●温泉入浴
 
まずは温泉から見て行きましょう。広い敷地には宿泊棟とSPA棟が別々に位置しており、宿泊客はフロントでもらえる温泉利用券を手にして、このSPAへと向かいます。SPAは水着で利用する戸外温泉エリアや温泉能量エリアの他、バラエティに富む冷水のプールなどがあるのですが、冷水プールは夏季のみ開放されるため、訪問日(3月)はクローズで利用不可。この他、裸で入る露天風呂もあります(上述のように私はこれに惹かれたのでした)。どれから攻めようか目移りしてしまうほど多くの温浴槽があるのですが、悲しいかな、この温泉利用券は発行当日限り有効、つまりチェックインした日にしか使えません。宿泊料金は結構いいお値段なんですから、せめてSPAくらい入り放題にしてくれても良さそうなものですが…。


 
SPAの受付で入浴券を差し出すと、引き換えにバスタオルが手渡されますので、これを小脇に抱えて階下へ。水着ゾーン(夏は冷水プールも)を利用する方は、このフロアの更衣室を利用します。さすが高級感のある施設だけあって、館内は広くて綺麗です。廊下に並ぶロッカーの数が凄いですね。


 
水着ゾーンの温浴槽の様子。メンテナンスがよく行き届いておりとても綺麗なのですが、山奥という立地に加えて料金が高いためか、この時のお客さんは2人しかおらず、せっかく綺麗で大きな温泉プールもその魅力を持て余していました。丸い槽は3つに分かれており、手前側から23.2℃、40.7℃、41.9℃という温度設定になっていました。



夏季限定の冷水プール各施設は、この日はクローズ。


 
今回は水着着用の温泉プールを利用せず、裸で入る露天風呂へ直行しました。こちらがその裸湯の入口です。階段を下りてドアを開けると浴室が広がっているのですが、そこから左へステップを数段上がると更衣室になります。室内は一見すると整っているようですが、棚には埃が溜まっていたり、また洗面台やシャワー下の排水などには汚れが残っていたりと、お手入れが少々雑である印象を受けました。鏡は大きいですし棚やドライヤーも多くて使い勝手は良好ですので、ちょっとした努力を怠らなければ文句無く優良な施設であると言えるのですが…。なお更衣室内にはロッカーが無いので、貴重品は先述した受付下のロッカーに預けます。


 
浴槽は露天風呂のみで、所謂内湯はありません。この時のお風呂には私の他に誰もおらず、悠々と利用することができました。洗い場にはシャワーが5基並んでおり、何故か洗い場の脇には塩の入った瓶が置かれていました。浴場内にサウナがあるのなら塩が用意されているのもわかるのですが、裸湯内にはそれらしく設備は無く、何のために塩が置かれているのか不明です。おそらく塩でお肌をマッサージしてね、といった意味なのでしょうけどね。


 
浴槽は大小がひとつずつ据えられ、大きな方は温泉槽、小さな方は水風呂です。温泉槽には石材でカバーされたアヒル口の湯口が3本設けられており、更衣室側で口を開けてる排水口より吸引排湯されていました。湯使いに関しては不明ですが、浴槽の構造やお湯のフィーリングから推測するに、おそらく循環されているかと思います。なおこちらの温泉は重曹泉型の単純泉で、見た目は無色透明、ほぼ無味無臭です。上述のようにお湯からは循環を想像させる鮮度の衰えがいくらか感じられるのですが、腐っても鯛と言っては大袈裟ですけど、重曹が主成分の温泉であるためにツルスベ感がはっきり肌に伝わり、浴感自体は決して悪いものではありませんでした。「美人湯館」という名称は、重曹による美肌効果に由来しているのでしょうね。


 
裸湯の露天風呂で私が気に入ったのは、川に面して設けられているこのテラスです。ウッドデッキにはデッキチェアがいくつも並べられており、お湯で火照った体をここに横たわらせていると、川から吹いてくる涼しい風が優しくクールダウンしてくれるので、とっても爽快なんです。また台湾の温泉によくあるBGMが流されていないので、自然界の音に包まれながら静かに寛ぐことができました。ただし川岸という場所ゆえに蚊が多く、うっかりしていると全身刺されまくってしまうかもしれません(私は2箇所やられました)。


●宿泊

次に宿泊棟の客室へ。お部屋は西洋式と日本的な和室の2種類から選択できるのですが、ベッド派の私は洋室をチョイスしました。スタッフには少しだけ日本語が話せる女性の方がいらっしゃり、その方のおかげでスムーズに手続きすることができました。部屋の構成としてはごく一般的なものですが、ドアを開けてまず目に飛び込んできたのは、ベッドの向こうにあるガラス張りの大きなバスルームです。


 
窓に面した開放的なバスルームには浴槽の他、シャワーやトイレ・洗面台などの水回り設備一式がまとめられています。景色を眺めながらお風呂に入ることができるわけですね。重厚感のある浴槽は2人同時に入れそうなゆとりのあるサイズです。なお窓にはフィルムが貼られているので、外から見られることはありません。


 
実際にお部屋の湯船にお湯を張ってみました。ちゃんと温泉が出てきます。SPAの浴槽と違ってこちらは使用の都度にお湯を張り替えるため、循環されていないお湯に入ることができるんですね。お湯のフィーリングとしては上述の露天風呂と大差ありませんが、こちらは僅かに黄色い濁りがあり、また土気に似た味も微かに感じられました。長い時間に及んで貯湯槽に溜められていたのでしょうけど鮮度感はそれほど悪くなく、むしろ重曹的なスベスベが露天風呂よりもはっきりしており、気持ち良い湯浴みが楽しめました。



宿泊料金には朝食が含まれており、食堂に赴いて席に着くとこのような色とりどりの小鉢が出されたので、これらをおかずにしてトーストやおかゆをいただきました。
なお客室ではWiFiが利用できますが、宿泊料金が高い割に冷蔵庫が無かったり、アメニティ類が平凡だったりするのが玉に瑕かも。また朝食時間が8時スタートとかなり遅いため、当日の予定がちょっと狂ってしまったこともネガティブに評価したくなるポイントでした。ま、私のようにせせこましく行動する者ではなく、ゆったりのんびりと過ごす方向けのホテルなのかもしれませんね。


単純温泉 44.3℃ pH8.1 蒸発残留物(TS)554mg/L
Na+:202.1mg, HCO3-:489mg,

新竹県尖石郷錦屏村5鄰69号  地図
03-5841199
ホームページ

露天風呂営業時間9:30~22:30
入浴(SPA利用)350元
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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秀巒温泉

2013年04月20日 | 台湾
 
新竹県の尖石郷には有名な野湯が湧いているという情報を得たので、車で現地へ向かってみることにしたのですが、地図を見る限りでは大して遠くなさそうに思えたものの、実際にはまるで小腸のような細かくクネクネと曲がりくねった急カーブの坂道が延々と続き、ようやく坂道が終わったころにはひとつの山を越えていて、視界が開けた場所で景色を眺めてみたら、とんでもない山奥に来ていることに気づきました。眺望の先に聳える山には原住民の集落がポツンポツンと急斜面にへばりついているのですが、こんな山奥での生活はどんなものか、都会っ子の私にはとても想像ができません。


 
山を越えたら一転して急な下りの連続です。エンジンブレーキを多用しながら渓谷の谷底へと下りてゆき、やっとのことで今回の目的地である秀巒地区に到着しました。地区の手前には吊り橋が架かっており、橋の袂には周辺の観光ポイントがある方向を示す案内が立っています。これによると橋の左側(下流側)に野渓温泉があるようなのですが、でもその方向の川原は重機が唸りを上げながら河川工事が行われている真っ最中で、とても野湯が湧いていそうな雰囲気はありません。


 
この辺りでは川原の複数箇所から温泉が湧出しているらしいので、他にも野湯ポイントがあるに違いないと期待して、何の宛もなく吊り橋を渡ってみました。よく揺れる橋の上から渓谷の下流側を眺めたら、川へ向かって大きな台状の岩がせり出ているのが目に入ってきたのですが、これは当地の名勝のひとつである「軍艦岩」なんだそうです。なるほど軍艦に見えなくもないですね。


 
吊り橋を渡ってしばらく歩くと、倉庫のような茅屋が数軒建っている場所に出くわしたのですが、倉庫と勘違いしたこの建物にはちゃんと人が暮らしており、そこに住んでいたオジサンに温泉はどこか訊いてみたら「あの道のずっと奥だ」と竹藪の奥へ続く杣道を指さしたのでした。


 
オジサンが教えてくれたその杣道を進んでみたものの、途中で山崩れが起きていたり沢で滑りやすい箇所があったりと、なかなか険しい道中だったので、予想しなかった山歩きに悪戦苦闘。



道を辿って川へ下り、遡ったり又下ったりして川岸を探索したのですが、どこも大きな岩だらけで温泉が湧いているような気配は全くありません。オジサンが教えてくれた温泉って本当に存在するのか…。下手に動いて遭難したらバカバカしいので、未知なる温泉の存在に後ろ髪を引かれながら、ここでの野湯は諦めて吊り橋へ戻ることにしました。
※後日判明したのですが、このさらに奥へ進むと泰崗温泉という野湯の湧出ポイントがあるんだそうです。


 
吊り橋直下の右岸にも湧出地点があるらしいという情報を事前に得ていたので、そのポイントへも下りてみましたが、何かしらが溜まっていたと想像される白い跡が辺りの岩に残っていたものの、温泉の「お」の字も見当たりません。ありゃりゃ、こんな山奥まで来ておきながら、野湯を発見できずに退却せざるをえないのか…。


 
もう一ヶ所、吊り橋からちょっと上流側の河畔に建つ「観渓亭」という東屋の近くにも温泉湧出点があるらしいので、最後の希望に縋りながら車でその方向へ行ってみたら、車が複数台駐車されているその東屋の傍に「野渓温泉」と書かれた標識が立っており、その標識が指す方向の川原には多くの人が集っているではありませんか。
なんだよ…。こんなイージーな場所にあったのか…。危ない山道を歩いたり川原に下りたりした苦労は完全に無駄骨でした。


 
源泉の出口からは、辺りに硫黄の匂いを漂わせながら46.1℃の熱いお湯が湧出していました。その流路には温泉を好む深緑の藻類が生えており、白い綿状の湯花が付着しています。


 
川原には人工的な湯溜まりが造られており、そこでの温度は44.8℃。ここに集まる人達は足湯を楽しんでいらっしゃったのですが、いくら足だけ浸かるにしてもこの温度ではさすがに熱かったらしく・・・



湯溜まりの下流に穴を掘って小さな湯溜まりを造り、そこに集まって足湯していました。



私がここへやってきてしばらくすると、先客の皆さんは足湯に満足したのか次々にその場から去り、気づけば私以外誰もいなくなってしまいました。誰もいないってことは、他人の視線を気にしなくても良いわけですから・・・



その場で水着に着替えて湯溜まりで入浴することに。浅い湯溜まりなので全身浴するにはちょっと厳しいのですが、寝そべったら肩下まで浸かることができました。
お湯は無色透明ですが、底には硫化鉄と思しき黒っぽい灰色の沈殿が薄っすらと沈んでおり、お湯を動かすと湯溜まりは灰色に濁ります。ゆでたまごの卵黄のような匂いや味がとても強く、ツルスベ浴感もあって、とてもクオリティの高いお湯でした。湧出量がもうちょっと多くて湯溜まりも深ければ文句無いのですが、野湯ですから無い物ねだりしたって仕方ありませんね。硫黄感たっぷりの野湯を楽しめただけでも満足です。



湯上りに周辺を軽く散歩してみました。川沿いの道から一本山側に入った路地には小さな集落が形成されており、民家のほか警察の派出所や民宿が立ち並んでいます。


 
警察の隣には秀巒温泉の公共浴場もありました。浴場といっても所謂プールなのですが、夏のみの営業なのか、この日はゲートが堅く閉ざされており、フェンスの隙間にカメラを突っ込んで内部を撮影したところ、プールは空っぽでした。


 
集落には小学校(秀巒国民小学)もあり、この画像を撮影した時間帯はちょうど生徒達が下校するところでした。外灯カバーには温泉マークが描かれており、当地の名物が温泉であることを物語っていますね。



今回の記事で取り上げた内容を簡単な概念図にしてみました。


新竹県尖石郷秀巒村  地図

野湯につき24時間利用可能
無料

私の好み:★★★
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清泉温泉

2013年04月19日 | 台湾

新竹県の竹東からクネクネとした山道を走ること40~50分。ワインディングの運転に飽きてきたころ、ようやく山奥の仙境である清泉温泉に到着しました。ここへ至るまでは見通しが悪く険しい地形の連続だったのですが、標識に従っていままで来た道を左へ逸れて清泉地区に入った途端、すり鉢状に凹んで開けた地形が目の前に広がったので、あまりに急な展開にビックリしてハンドルを切り損ねそうになりました。


 
盆地地形の中央には一筋の川が流れており、竹東から伸びている道や駐車場は川の左岸に位置しているのですが、目的地である温泉は川の右岸にありますので、駐車場に車を止めて吊り橋で対岸へ渡ります。山奥だというのに広いスペースが確保されている駐車場には意表を突かれました。


 
原住民を象った大きな石像が吊り橋のワイヤーを引っ張っているように見えますが、よく見るとワイヤーはアンカーレイジに直結しており、石像の手には少しも掠っていません。仕事しているフリをして、サボっているのかな。



橋を渡っていると対岸からは子どもたちの溌剌とした声が響いていたのですが、それもそのはず、橋のすぐ傍には小学校があり、校庭では生徒達が元気いっぱいに遊んでいました。日本でこんな山奥にある学校あらば、生徒数は数人足らずというところが殆どでしょうけれど、こちらの国民小学には過疎という概念を忘れさせてくれるほど多くの生徒が通っているようでした。



橋を挟んで小学校の反対側が温泉です。こちらでは日帰り入浴とお食事の利用ができますが宿泊営業は行なっていないようです。一方、当地には民宿も数軒営業していますが、どこも温泉は引いておらず、温泉に入れるのはこの施設のみなんだそうです。入口には小さな扁額が提げられているものの、全体としては草臥れた雰囲気を漂わせており、どことなく鄙びた感じがします。


 
受付に座る原住民の女性に料金を支払って奥へ進みます。お風呂は貸切風呂(550元)と大浴場(大衆池・150元)のいずれかを選べるのですが、大きなお風呂でノビノビしたかった私は後者を選択しました。なお館内では食事も可能なんだそうですよ。


 
館内の壁には原住民の分布図と共に、民族衣装のかわいらしいイラストが描かれていました。


 
通路の壁に掲示されている張り紙には豆知識(小常識)として、当地は日本統治時代に「井上温泉」と呼ばれており、その当時は警察が利用していたことが説明されています。なお、その隣のイラストで案内されているように、大浴場を利用の際は水着と水泳帽の着用が求められます。


 
入浴ゾーン入口で構えるレセプションを左に曲がると貸切風呂、右手に進むと大衆池(大浴場)です。今回は大浴場を利用するので右へ進みます。靴を脱いで一歩入るとすぐにスパゾーンが広がっていました。


 
男女別のシャワー室に入って水着に着替えます。シャワーはお湯の出がいまいちで、バルブを開けて1分以上経ったところで、ようやく温かいお湯が出てきましたが、勢いは弱いままでした。シャワーから出てくるお湯はおそらく源泉だと思われます。


 
各浴槽は食堂やロビーの階下に設けられており、川に面して岩風呂風の大きな浴槽が据えられています(それと並んでいる小さな槽は水風呂です)。岩組みの湯口からお湯が大量に注がれており、プールサイドからドバドバ排湯されていました。デジタル温度計によれば湯加減は39℃とのことで、実際にいつまでも浸かっていられる心地良い温度でした。台湾ではおなじみの沖撃浴(打たせ湯)もありますよ。いずれも一応は露天風呂であり、川を望む爽快なロケーションなのですが、完全に建物に内包されており、天井は低く、しかも鋼材の柱や天井材が剥き出しなので、昭和後期に建てられたマンションのガレージみたいな薄暗さや圧迫感がせっかくの開放感を台無しにしているような気がしてなりません。


 
上述の圧迫感のあるスパの隣には日本庭園のような空間にもあり、半分ほどを東屋で屋根掛けされた岩風呂も設けられていました。こちらは日本の和風旅館の露天風呂を意識したような造りとなっており、浴槽の傍らには「清泉温泉」と篆刻された石碑も立てられています。


 
この岩風呂は約5人サイズで、石組みの湯口から源泉が注がれており、40~41℃という日本人好みの湯加減になっています。こちらでも同様に川を目の前に眺めて湯浴みできますが、開放感ははるかに勝っていたため、今回の利用において私はこちらのお風呂ばかりに入っていました。周囲のテラスにはデッキチェアーが置かれ、先客の夫婦がお茶を持ち込んでのんびり寛いでいらっしゃいました。台湾の温泉施設にありがちなBGMは流れていないので、余計な音楽に邪魔されること無く清流のせせらぎと小鳥の囀りを耳にすることができます。
肝心のお湯に関してですが、見た目はほぼ無色透明無味無臭に近いのですが、よく見ると細かく千切れた膜のような浮遊物が無数に舞っているため僅かに黄色っぽく濁って見え、また鼻や舌に神経を集中させると砂消しゴムのような匂いや味、重曹味、そして石灰感が得られるようでした。しかしながら浴感にはあまり特徴が無く、シャキっとした鮮度感も弱かったため、こうした体感から推測するに、しっかりとした量のお湯を切り欠けより溢れ出させていたものの、ある程度の循環や加水などは行われているように思われます。
今回は川風で涼みながら開放感を楽しみたかったので大浴場を利用したのですが、貸切風呂でしたら利用の都度お湯を張り替えますから、開放感などは期待出来ませんが、もしかしたらお湯の質は大浴場よりはるかに良いかもしれませんね。


 
お風呂から上がるとちょうどお昼時でしたので、吊り橋で駐車場側に戻り、河原の広場にお店を開いていた屋台でランチをとることに。グリルの上では青竹の筒が焼かれていますが、これは竹筒飯といって、中にお米が詰まっています。


 
人参菜という青物の炒め物、猪肉と苦瓜のスープ、そして上の画像にある竹筒飯を注文しました。いずれもとっても美味でしたよ。葉物が多いのですが、普段私は野菜不足の食生活を送っているので、寧ろこのぐらい葉物を充実させた方が自分の体のために良かったのでした。おかげでしばらくは腸が絶好調でした。


竹東駅より新竹客運バスの清泉行き(5630番)で終点下車
新竹県五峰郷桃山村清泉254-1  地図
03-585-6037
ホームページ

9:00~18:00(休日は~22:00)
150元
ロッカー(20元有料)・ドライヤーあり

私の好み:★★


●(おまけ)張学良故居

清泉の駐車場が広く整備されているのは、温泉などの利用客を見込んでいる他、吊り橋のすぐそば、駐車場の一角に建つ「張学良故居」への訪問客のためでもあるのです。1945年の日本敗戦後に中国では国共内戦が起こり、その結果として国民党は台湾へ逃れてきますが、同じタイミングで張学良も台湾へ移され、以後彼は1980年代後半まで軟禁状態におかれます。この清泉温泉は張学良が長年に渡って幽閉されていた土地であり、その当時の住まいが「張学良故居」なのであります。元々は橋の北側に建てられていたのですが、以前に当地を襲った台風による土石流のため、当時の写真をもとにして今の位置に再建(再現)され、西安事件の72年目にあたる2008年12月12日に記念館としてオープンしたんだそうです。なお開館時間は9:00~17:00で無料です。


 
再現とはいえ元々は日本建築(台湾総督府勤行報国青年隊新竹訓練所)だったので、廊下を歩いていると日本に戻ったかのような錯覚に陥りました。台湾の方が日本の伝統建築を再現しようとすると、木材の違いやニスの塗りすぎなどによって、色の濃淡差がはっきりしすぎてしまったり妙にテカテカしちゃったりと、日本人からすると違和感を覚えざるを得ない点がしばしば見受けられますが、こちらではそのような違和感は最低限に抑えられていました。障子の代わりにスリガラスが使われているのは管理上仕方ないところでしょう。
畳敷きの居間には小さなテーブル、そして椅子に腰掛けながら読書する張学良の像が置かれており、往事の姿が再現されていました。テーブルの上には本人が愛用していたカメラやラジオが並べられています。こんな山奥に幽閉されてから蒋介石が死去して行動の自由が許されるまで、この部屋でじっと耐えていたんですね。


 
張学良と蒋介石の関係を語る上で欠かせないのが西安事件ですね。館内にはそれについての説明パネルが掲示されており、事件の概要や経過が解説されているのですが、文章とともに載せられている当時の写真の一枚に、不敵な笑みを浮かべている宋美齢(蒋介石夫人)が写っており、それを見つけた私は軽く身震いしてしまいました。
また張学良が1937年以降に幽閉された場所を示した大きな地図も興味深く、これによれば彼は西安事件を理由に逮捕された後に特赦を受けたものの、自由な身にはなれず延々と軟禁状態におかれ続けるわけですが、単に幽閉されるだけではなく、浙江省を起点にして安徽省・湖南省・貴州省・四川省と、台湾に移されるまでは中国各地を転々とさせられていたことが図説されていました。

張学良の歴史を知ることは、単に中国近現代史のひとつの側面を追うのみならず、当然ながら日本の歴史を振り返ることにもつながります。日本統治時代には「井上温泉」と称されていた当地で、中国や日本の権力者たちに翻弄され続けた一人の男の人生を学んだひと時は、今を生きる日本人として意義深いものがありました。
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