温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

諏訪峡温泉 温泉センター諏訪ノ湯

2013年09月16日 | 群馬県
 
温泉めぐりをしていると、無性に無色透明な硫酸塩泉に入りたくなる時があります。この手の温泉は全国の広範囲に亘って点在していますが、特にグリーンタフの分布域に多く集中しており、関東では群馬県の北毛地域がグリーンタフ型温泉の宝庫であります(ちなみに東北地方ですと秋田県の大館界隈に多いですね)。

初夏の某日、関越道を北上して水上インターから下道に出て、水上・新治エリアの温泉を巡って無色透明の硫酸塩泉をたっぷり満喫することにしました。まず一湯目は、お湯のクオリティの高さで温泉ファンから定評のある「諏訪峡温泉 諏訪の湯」です。拙ブログでは初登場ですが、私は3回目の訪問となります。渋い佇まいは以前のまんま。目の前は諏訪峡を流れる利根川の川岸でして、対岸はラフティングの着岸場所となっています。



駐車場に立っているには「当温泉は自噴かけ流しで飲用出来る成分の大変豊富な天然温泉です。入浴の際カルシウムたっぷり糖尿病・胃痛・胆石症・慢性便秘・慢性胆のう炎風通に良く効く源泉をお飲み下さい」と自信満々の文言が記されています。ここで列挙されている症状のうち、糖尿病・胃痛・痛風は軽度ながら私が抱えているものでありますから、入館したらしっかり飲泉させてもらいますよ。


 
玄関の引き戸を開けると、右手の番台には中年のご夫婦がテレビを視ながらお菓子をつまんでいらっしゃいました。浴室へ伸びる廊下の入口には飲泉所があり、こちらを取り上げる温泉ブロガーさんは皆さんここの写真を撮っていらしゃいますね。


 
脱衣室の入口に掛けられた暖簾は長年使われているのか茶色く薄汚れており、その色合いは温泉というより焼き鳥屋のような感じです。壁の張り紙には「天然温泉かけ流しで石鹸は分離するのでおいてありません」と大きく書かれています。その現象に関する真偽はさておき、実際に浴室内には石鹸類が無いため、必要とあれば各自持参しましょう。また脱衣室の設置されているロッカーには肝心の鍵が無く、単なる棚と化しているため、貴重品は各自で管理しましょう。


 
お風呂は内湯のみで、岩に囲まれている室内は相変わらず渋い佇まいです。男湯の場合は右側に洗い場のカランが3基並んでおり、上述のように石鹸類は備え付けられていないのですが、洗い場と浴槽が近接しているために、洗い場の飛沫やシャボンの泡が湯船に混入しやすく、このお風呂の残念な点と言えましょう。


 
岩風呂の浴槽は4~5人サイズで、底にはコバルトブルーの小さな丸いタイルが敷き詰められ、澄み切ったお湯の透明度をより際立たせています。湯口には白い石膏の析出がびっしり付着しており、43℃ほどのお湯が滔々と注がれています。湯使いは完全掛け流しでして、湯口とは対角線上にあたる浴槽縁より絶え間なく溢れ出ており、人が湯船に入れば全ての縁からザバーっと勢い良くお湯がオーバーフローします。湯船では41℃前後の湯加減がキープされているので、じっくり長湯したくなります。

お湯は無色澄明。浴室内には石膏の匂いが濃く充満しており、飲泉すると石膏味と共に薄いタマゴ味も感じられ、微かな塩味も含まれていたような気もします。石膏泉らしいトロトロとしたお湯であり、湯中で肌を擦るとキシキシ引っかかる浴感が得られます。ザ・石膏泉と表現したくなるほど、明瞭な石膏感が素敵です。

前回利用時は混雑していたためお湯が疲れ気味でしたが、今回は午前中の早い時間帯に訪れたため、お湯の鮮度・コンディションともに絶好調であり、見た目のクリア感も素晴らしいものがありました。そして湯上がりには程よく温まり、大して熱くないのにパワフルな温浴効果が発揮され、しばらくは汗が引きません。このお風呂は鮮度の良いタイミングに訪れることが重要ですね。


諏訪の湯
カルシウム-硫酸塩温泉 42.7℃ pH8.4 5.5L/min(掘削自噴) 溶存物質1.90g/kg 成分総計1.90g/kg
Na+:125mg(19.79mval%), Ca++:441mg(79.69mval%),
Cl-:91.4mg(9.37mval%), SO4--:1176mg(89.06mval%),
H2SiO3:40.3mg,

上越線・上牧駅より徒歩30分(2.3km)
群馬県利根郡みなかみ町高日向426-30  地図
0278-72-2056

9:00~20:30 金曜休み
300円
備品類なし

私の好み:★★★
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心身鍛錬の夏登山 檜洞丸・犬越路(西丹沢) 後編

2013年09月14日 | 神奈川県
前回記事「心身鍛錬の夏登山 檜洞丸・犬越路(西丹沢) 前編」のつづきです。


【11:48~12:05 檜洞丸・頂上(標高1601m】
誰もいない檜洞丸の頂上でコンビニのおにぎりを頬張る。普段の登山ならば安いコンビニおにぎりですらこの上ない美味に感じるのだが、登りだけで心が半分折れかかっているためか、この時ばかりはあまり美味しさを感じず、ただ炭水化物とタンパク質と塩分を補給するため口にしているだけだった。


 
頂上から犬越路へ伸びる稜線上のルートのスタート地点には「犬越路への道は、つつじ新道に比べて危険箇所が多いので、通行に十分注意してください」とただならぬ文言が記された看板が立っていた。なるほどそこに立って前方を眺めると、すごい高度感がある。今から目の前に伸びる丹沢主稜を伝ってゆくのだ。



頂上からしばらくの区間は山体崩壊が著しいらしく、荒廃したガレガレの斜面が続いており、はじめは最近整備されたばかりの木の階段が敷設されているものの、全区間の整備には至っておらず、崩れて体を成していない階段跡の滑落しやすそうな急な下りを、慎重に下ってゆく。高所恐怖症の人には厳しいだろう。


 
さすが丹沢の主稜だけあって稜線上からの見晴らしは素晴らしい。そしてその上を歩いてゆく時も実に軽快。猿と何とかは高い所が好きというが、典型的な後者である私はこんな高い所を歩いていると、さっきまで凹んでいた気分が一気に高揚へと転じた。またここに至ってようやく、この日初めて他の登山者1組2名と行き違った。いかにも山屋らしい風情の方であり、醜い鈍牛なオイラとは足取りが違っていた。


 
画像左(上)は西丹沢・中川方面、つまりスタート地点の西丹沢自然教室や、その奥に聳える畦ヶ丸などを眺望したもの。富士山こそ拝めなかったが、その手前の籠坂峠辺りまでは見えたはず。
一方画像右(下)はその反対側に当たる、道志川流域の青根方面を望んだもの。幾重にも交差する稜線が奥の津久井方面へ行くに従って徐々に低くなっている。


 
画像左(上)のように稜線上の階段は崩壊している箇所が多く、かなり滑りやすくて気が抜けない。滑落しないように半歩ずつ慎重に下るわけだが、この先もこんな道が続くのかと思うとウンザリする。15:40までにはバス停に戻りたいし、こんな危なっかしい道は精神的に疲れちゃうから、やっぱり登ってきたツツジ新道を引き返そうか、なんて弱音を吐いてこの道を選んだことに後悔しはじめたものの、後ろを振り返ってみたら、もう登り返したくないほどたっぷり下ってきてしまったので、引き返すのは諦めてそのままこの険しい道を進むことにした。途中で、画像右(下)のように鎖で大きな岩を回りこむ箇所があるが、それほど大したことはなく、むしろアトラクションを楽しむ感じで良いアクセントになった。


 
【12:30 熊笹の峰 (標高1523m)】
笹の茂る道を登ると、やがてシロヨメナの白い花が一面を追い尽くしている小さなピークを越える。特にピーク名を記した標柱は無かったが、たぶんここが熊笹の峰なんだろうと思われる。



【12:35 神の川分岐】
熊笹の峰のピークを下ると神の川へ下る分岐と2つのベンチが現れた。休憩したい心境であったが、15:40というタイムリミットがあるので、ここでは休まずに先を急ぐ。


 
【12:40頃 大笄(おおこうげ)(標高1510m)】
神の川分岐を過ぎてすぐに登り坂となり、やがて再びピークを迎える。ここにも標柱は無かったが、今思えばあそこが大笄だったのだろう。雑草と大して変わらないシロヨメナが群生をなしていたり、笹藪がひどかったりと、お世辞にも清々しいとは言えない山歩きである。路傍に茂るアザミの葉っぱが腿にチクチク刺さって痛い。鬱陶しい。草刈鎌でバッサバサと刈ってしまいたい。
たまに右側の視界が開けると、道志川・青根方面、そしてかなたには津久井の三ケ木方面に広がる市街地が眺望できた。


 
大笄から小笄までの区間はとても急峻であり、鎖場やハシゴ、そして両側がガレているヤセ尾根が連続する。とはいえ北アルプスの難所に比べたら屁みたいなものであり、実際に鎖場やハシゴ場は大騒ぎするほどでもなかったのであるが(尤も初心者には勧められないけど)、オイラはガレ場の下りが大の苦手であり、毒蝮三太夫風に表現すれば、腰痛をこじらせたくたばり損ないのクソババアのような、人様にはお見せできない情けないへっぴり腰で、いい年こいたオッサンがオッカナビックリ半ベソをかきながら、一刻もその場を離れたい一心で何とか少しずつ前進していった。



でもヤセ尾根の途中から眺める展望は大したもんだ。滑りやすい急坂でもカメラを構えている余裕があるんだし、そんな坂を下っている場面でも「くたばり損ないのクソババア」という表現が思い浮かんだ次の瞬間には、屁っぴり腰のまま、独り言で浦辺粂子や小森和子(いずれも故人だが)のモノマネをしていたんだから、オイラもまだまだ大丈夫なのかもしれない。


 
階段の下りは楽ちんだけれど、その先に伸びるヤセ尾根の滑りやすい急坂は、恐怖感が伴うから精神的に凹む。そして変に踏ん張って無駄なところに力が入るから、足の筋肉もおかしくなっちゃう。疲労が一気に蓄積される。こういうところで己の技術の未熟さを痛感する。浮石もあってコケやすいから油断できない。


 
かなりの高度差がある鎖場も連続する。正直なところ、この日のように岩が乾いていれば、鎖に頼らずとも上下できると思う。実際に一部区間で私は鎖を使わずに下ったが、たしかに鎖を握って上半身を活用した方が楽なことには間違いない。でも技術的あるいは肉体的な苦楽とは別に、画像左(上)の鎖場を下っているときには、2匹のスズメバチに囲まれて恐怖のあまり失禁しそうになり、慌てて登りかえして奴らがその場を離れるのを待ったのだが、それによって体力を余計に浪費してしまった。



急な下りが一段落すると、今度は背丈以上に繁った笹薮をかき分ける。幅員が狭く、行き違いはできそうにない。夏は登山者が激減するのか、藪は伸び放題状態であった。実はこの笹薮にはちょっとしたトラップが仕掛けられている。というのも、道の両側に繁る笹藪は切り立った斜面に生えており、たとえば右側の藪が道を覆いかぶさっているから左側の藪へちょっと避けようとすると、その時点で道を踏み外して滑ってしまうのである。


 
【13:45 犬越路トンネル分岐】
この分岐のちょっと手前の下方に犬越路トンネルが貫かれているらしい。犬越路トンネルはその前後の林道で落石が多いために通行禁止となっているが、一部のサイクリストはこのトンネルを越えることに喜びを感じるらしく、トンネル名でググるとサイクリスト達の戦績がずらずらと列挙される。
この分岐の先ではススキのような草が背丈ほど高く伸びて道を消さんばかりに繁っており、両手で藪漕ぎしながら先へ進むのだが、その藪漕ぎの際に、藪の葉で腕を軽く切ってしまった。しかも足元ではアザミの葉がチクチク刺激する。精神的ダメージ大。



【13:55~14:00 犬越路(標高1060m)】
心身ともに疲労困憊し、這々の体で犬越路までたどり着く。目の前には立派な避難小屋が建っているが、普段なら用がなくても見学したくなる旺盛な好奇心を持ちあわせている私も、この時ばかりはそんな気が起きなかった。檜洞丸からここまでの3.7kmで1時間50分を要してる。つまり時速2km。さすがに登り一辺倒だったツツジ新道の後半よりペースが回復している。標準タイムは2時間ちょうどらしいのだが、私にしては遅い。こんなに疲れるとは思わなかった。

ここは登山道の十字路となっており、交差点には道標が立っているのだが、それによれば、ここから用木沢出合まで2.5kmとある。用木沢出合から西丹沢自然教室までは、舗装された林道を歩いて25分だから、バスの時間から逆算すると用木沢出合には15:15までには着いておきたい。となるとここからの2.5kmを1時間15分で下りきる必要があるわけで、時速2kmペースを維持すればぴったり間に合うわけだが、バテバテになった今のオイラにそんな体力があるのかどうか…。しかし諦めてはならない。できればゆっくり休んで体力を回復させておきたかったが、ここでの休憩を5分間に留め、自らに鞭を打って先を急ぐことにした。


 
犬越路を出ると、いきなり熊笹の深い藪をかきわける。そして藪を抜けると、今度はガレている涸れ沢を急降下する。ここなら多少大胆にコケても滑落を心配する必要はないが、でも滑りやすくて非常に疲れる。


 
この下りはえらく道が荒れている上、あちこちで倒木が道を塞いでいた。また階段はすっかり崩壊して無残な姿を晒しており、滑りやすいガレの急斜面を踏ん張っていると、体力の消耗が激しい。
犬越路から30分下ったところに立っていた道標を見ると、そこには「犬越路0.4km」と記されていた。30分間で僅か0.4kmしか下っていないことに落胆する。赤ちゃんのハイハイ歩きよりも遅い時速0.8kmである。時速2kmで歩いてこそ計画の時間に間に合うのに、これではとても無理だ。



石がゴロゴロしている涸れ沢を渡って対岸へ。


 
道はやがて杉林の中に入り、勾配は徐々に緩やかになっていった。このあたりで急降下は終了するのだが、それに気づいたのは後の話。ここを歩いている時には、まだ急降下が続くのだろうと考えていたため、ペースが回復しなかった私は15:40のバスに乗ることを諦めて、路傍の岩に腰を掛けて体力の回復に努めた。休憩後に再び歩き出すと、やがて鋼鉄製の橋が現れ、左側にせせらぎが平行しはじめる。


 
【14:50 沢沿いのベンチ】
道は沢に沿った平坦な区間となり、やがてベンチが現れた。犬越路から用木沢出合まで、ベンチが設けられているちゃんとした休憩所はここだけだったように記憶している。地図でこの先の等高線を確認したらば、用木沢出合まで大した勾配は無さそうだ。先程の休憩が功を奏したか、沢沿いを歩くようになってからは歩調がかなり戻ってきた。


 
ベンチの先で一旦沢に出て礫がゴロゴロしている川原を歩き、砂防ダムの右上から再び登山道へ戻る。



河原で後ろを振り返ると、さっきまでいた山があんな遠くに聳えている。もうそんなに下ってきたのか。



【14:57 渡渉】
砂防ダムを越えてからちょっと進んだところで、比較的大きな沢を渡渉する。水量はそんなに多くなかったので、石の上を飛んで楽々クリア。


 
沢にはダムが連続している。水がとっても清らかだ。



犬越路からの急な下りは道がかなり荒れていたが、この沢の崖に架けられている桟橋はかなり立派なもので、橋桁には工事現場用のアルミ足場を転用しているものの、橋脚など支持躯体はかなり頑丈に造られている。歩きやすいので、いつのまにやら下界を歩くスピードと同等のペースにまで回復していた。


 
【15:05 用木沢出合まで0.4km地点】
やがて木の橋で沢を渡る場所に至った。そこに立てられている道標と自分の腕時計を同時に見てビックリ。なんと用木沢出合まで0.4kmと記されているではないか! 時計の針は15:05を指している。上述のように15:15までに用木沢出合へたどり着ければ15:40発のバスに間に合うはずだから、あと0.4kmを10分で行けば良いじゃん! 下りが緩くなってからの私は、相当ペースが上がっていたようで、その甲斐あって遅れがしっかり回復できたわけだ。俄然希望が湧いてきたぞ。今までの疲れはどこへやら、ちょっと早足になって、先を急いだ。


 
沢に沿ってトレイルを進む。左岸を歩いたり、右岸に移ったり…。


 
渡渉箇所には橋が架けられていた。増水すればすぐに流されちゃうような橋だが、その都度橋を架けてくれているのだろう。関係各位のご尽力には頭が下がる。


 
立派な鋼製のアーチ橋を渡ると…


 
【15:13 用木沢出合】
舗装された林道に戻ってきたぞ。ここまで来ればもうゴールをしたのと同然だ。事前の情報ではこの用木沢出合の手前でハチが地面に営巣しており、登山者が刺される被害が続発しているとのことで、地震雷火事オヤジと同じ位にハチに対して恐怖感を抱く私は非常に警戒していたのだが、幸いにしてハチに襲われることもなく、無事に下山することができた。
ホッと安心し、舗装された林道を西丹沢自然教室に向かって歩く。



途中で、朝に登ったツツジ新道入口を通過。


 
【15:33 西丹沢自然教室 (標高540m)】
無事スタート地点に戻ってきた。何だかんだでほぼ標準タイム通りであった。私の帰還を確認した自然教室のスタッフさんは、わざわざ建物から屋外に出てきて私に声をかけ、登山届に下山時刻を記入してくれた。自販機でキリリと冷えた炭酸飲料を買い、バスの発車時間までに一気飲みする。計画通りに山行を遂行することができた達成感が、単なる炭酸飲料を格別の味に変えた。
結局この日は登山者が相当少なかったのだろう、15:40発のバスに乗り込んだ客は私一人だった。


 
【15:53~17:18 中川温泉 ぶなの湯】
バスは15:53に中川バス停に停車した。当初の計画では、中川温泉の中でもお湯のクオリティが高いと評判の某旅館で入浴するつもりであったが、実際に訪ってみると「日帰り入浴はもうおしまいです」とけんもほろろに断られてしまったため、次善の策として公営の日帰り入浴施設「ぶなの湯」を利用することにした。こちらのお風呂は2度目の利用。お湯は加温循環消毒されており、高アルカリらしいお湯の特徴はすっかり失われて、単なる無色透明無味無臭のつまらないお湯と化してしまっているが、使い勝手は良好で露天風呂もあるから、登山後の汗を流すために利用するにはもってこいの施設であろう。この日はもうすぐ終わってしまう夏休みを楽しんでいたキャンプ帰りの親子連れで、非常に賑わっていた。
汗を流し、ゆったり寛ぎ、すっかり着替えも済ませ、頭のてっぺんから足の爪先まですっきりさっぱりしたところで退館し、中川バス停17:18発の新松田駅行きバスに乗り込んだ。



【18:10頃 松田駅】
山北からの国道246はちょっと混んでいたが、路線バスは交通量が少ない旧道を走るため、渋滞にほとんど巻き込まれること無く、ほぼ時刻表通りに走行。本来ならば終点の新松田駅まで行って、そこら小田急に乗れば良いのだが、その手前のJR御殿場線・松田駅でバスを下車すれば、待ち時間10分未満という好タイミングで18:23発の「特急あさぎり6号」新宿行に乗車でき、小田急の急行の混雑とは無縁で快適な帰路に就くことが出来る。



 
拙ブログでは以前にも松田駅で発行される「特急あさぎり」の硬券について取り上げたことがあった。その後「あさぎり」は運転区間が短縮されて小田急MSEの片乗り入れというスタイルへ先祖帰りしたわけだが、この駅の硬券はその後も生き残り、この時も窓口で特急券を買い求めたら、しっかりと硬券が発行された。しかし、今年の春に指定席の確保に関する運用が変更されたらしい。というのも、従来「あさぎり」の座席は小田急側のシステムで全てを管理しており、JR東海のマルスと小田急側の座席管理システムがオンラインで繋がっていて、JR東海の駅ではマルスから小田急の管理システムへアクセスして席を確保していたのだが、今春からはその接続が廃止され、その代わり「あさぎり」に少数のマルス枠が出来たらしいのである。これによりマルス単独で「あさぎり」の指定席を確保することができるようになったのだが、その数は少ないため、極論を言えば、マルス枠が満席になっても、大多数を占める小田急管轄枠がガラガラという事態も起こりうるわけだ。松田駅ではマルス枠で発券されるのだが、幸いにしてこの日は余裕で席が確保できたため、そんな心配は杞憂に終わった。さらに言えば、松田を発車してしまえば、その先の小田急の停車駅でマルス枠が埋まる可能性はかなり低いので、今回は空いていた隣の座席も使わせてもらった。
指定席発券の運用変更後はマルスから120mmの指ノミ券が発行されるが、料金券や乗車券については従来通り硬券で発行される。夕刻だというのに硬券の裏には赤い線が引かれていた。つまりこの日初めて発券されたという意味だ。松田から乗車するお客さんは意外と多かったが、そのほとんどは新宿まで乗りきってしまうのだろうから、私のように新百合ヶ丘で下車する客は少数派なのだろう。



【18:23 松田駅・「あさぎり6号」乗車】
夕暮れの松田駅1番線にMSEが定刻通り入線。平日だからか、乗車率は50%に届くかどうかといったところ。「あさぎり」は小田急線内に入らないと混雑しない。車販は無い。自販機のお茶を飲みながら、車窓に映る黒い表丹沢の稜線を眺めて帰路に就いた。

今回登った檜洞丸や犬越路を周回するルートは、季節によって求められる体力度がかなり異なってくるらしく、春や秋に登った登山者のレポートを読むと、みなさん楽しんで爽快な山行を実践していらっしゃるが、真夏に登った人の多くはかなり苦労しているようである。真夏日に登った私は当然後者に属するわけで、トレーニングとして登っているのだから辛くても十分目的は達せられているのだ。首都圏の山だからと言って侮る勿れ、今回のコースは西丹沢の山の懐深さをたっぷり実感させてくれ、実に登り甲斐のある山であった。本文中ではマイナス思考や弱音・愚痴が多くなってしまったが、これは登山素人である私のペース配分に問題があったこと、トレーニングだからと意気がって無駄な死重を背負ってしまったこと、15:40までに下山するという時間的な制約があったこと、などがそうした状況をもたらしてしまったわけであり、マイペースでゆっくりと登れば、暑い日でもそんなに苦労することは無いかもしれない。寧ろ人が少ない夏の丹沢ならではの味わいを堪能できるであろう。次回同じルートを辿る時には、ツツジの最盛期におとずれてみたい。
コメント (4)
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心身鍛錬の夏登山 檜洞丸・犬越路(西丹沢) 前編

2013年09月13日 | 神奈川県
「お腹が太鼓みたいだね」
夏休み真っ最中の甥っ子に言われたその一言が私の背中を押した。この太鼓腹を削らなければ、みっともない。有酸素運動をしなければ!

拙ブログでは何度か登山記を記事にしているが、いずれも「素人の私が登ってとっても良かったから、是非みなさんも行ってみてね!」という意味合いを込めてきた。しかしながら今回取り上げる登山記は従前と趣向を異にしており、山を登る楽しみではなくて、太鼓腹を解消すべくマゾヒスティックに自分のたるみきった心身を鍛えることが目的であり、読者の方にとってあまり有益な情報は少ないかもしれない。

今回取り上げるコースは、西丹沢自然公園を起点にして、神奈川県で4番めに高い山である西丹沢の檜洞丸(ひのきぼらまる)を登り、そこから北へ伸びる稜線を歩いた犬越路を辿って起点に戻ってくるという周回コースであり、初夏のツツジが咲き誇る時期や紅葉の秋には非常に美しく、駐車場の確保に困るほど多くのハイカーで賑わうのだが、夏の丹沢は蒸し暑くて体力的にかなり辛く、ガスがかかりやすくて眺望を楽しむチャンスも減ってしまうことは関東のハイカーなら皆さんご存知であり、そんな中であえて登るのは、丹沢をこよなく愛する丹沢ファンか、ハードなコンディションを求める好事家か、無知な人か、のいずれかだろうと思われる。私は3番目の無知な輩に該当するであろう。「所詮丹沢なんて大したことないだろう」「登山素人の私が普段の不摂生を矯正するには、手ごろな丹沢でちょっと負荷をかけながら登るのが、自分のレベルにちょうど合うのではないか」。そう高をくくっていた自分に猛省しながら、今この記事をしたためている。大して危険ではなかったが、とにかくバテた。その一言に尽きる。




ルートや勾配に関しては上地図をクリックしてルートラボを御覧ください。

日程:2013年8月下旬某日
人数:単独行
天候:晴れ時々曇り
持ち物:日帰り登山の一般的な持ち物+トレーニングのための死重(4Lの水)
距離12.3km
最大高低差:約1060m

・敢えて重くした荷物
今回の登山の目的はあくまで心身のトレーニングであるから、日帰り登山にもかかわらず、山小屋を連泊する際に使うようなバックパックを背負い、その中に使いもしない登山グッズ諸々、下山後の着替えと靴、そして死重となる水4リットルを詰め込んだ。不吉な話だが、多少遭難したって問題ないような品揃えであった。

・時間的な制約
今回は車ではなく、電車とバスで現地までアクセスした。ということは、下山後のバスの時刻が気になるところである。2013年の夏休み期間中は、起終点となる西丹沢自然教室発で15:40、16:25、17:05と、山奥にしては比較的コンスタントに便があるのだが、今回は是非15:40に西丹沢自然教室前を発車するバスに乗りたい。これに乗れたら、途中の中川温泉でゆっくり汗を流すことでき、その後のバス(中川17:18発)でJR松田駅まで行けば、待ち時間10分ほどで松田18:23発の「特急あさぎり6号」新宿行に乗車できる。15:40の次のバスは16:25か17:05となり、これでも問題なく帰れるのだが、中川温泉「ぶなの湯」は受付が17時まで、他の旅館も日帰り入浴受付の終了時間が早いため、中川温泉での入浴は諦めなくてはならない。小田急沿線に住んで30年以上の私は、夕方の小田急がいかに混むか重々承知している。山の泥と汗で汚れたおっさんがそのまま公共交通機関に乗ったら、それこそ迷惑千万であるから、できれば汗を流して着替えてから帰りたい。だから15:40までにはバス停に着いておきたいのである。



【7:10頃 渋沢駅】
小田急線の急行で早朝の渋沢駅に到着。普段は同じく小田急の上りで通勤しているのに、いつもと同じような朝に反対方向の下り列車に乗ることに対し、ちょっとした違和感をおぼえる。渋沢駅前のバスのりば(1番のりば)より7:15発に出発する西丹沢行の富士急湘南バスに乗車。登山シーズンには超満員になるこのバスも、オフシーズンの平日とあって、登山者らしき人は私以外に2組(計6人)のみ。夏がオフシーズンというのは丹沢ならでは。


 
【8:25頃/8:38出発 西丹沢自然教室(標高540m)】
バスが終点の西丹沢自然教室前にとまると、自然公園のスタッフさんがバスから降りる客に挨拶しながら、登山届を提出するよう声をかけていた。自然公園の建物内に用紙と記入台があるので、そこで書いても良いが、私は事前に神奈川県警のホームページからダウンロードして記入しておいたので、それを提出した。ここでトイレを済ませて登山の準備を整える。丹沢といえばヒル被害で悪名高いところ。足元にヤマビル忌避剤を念入りに噴射していたら、スタッフさんが「東(丹沢)と違って、西には(ヤマビルは)いませんから、大丈夫ですよ」と教えてくれた。8:38に歩き始める。


 
【8:43 ツツジ新道入口】
しばらく舗装された車道を歩くと5分ほどで、檜洞丸へ向かう登山道のひとつであり、最もメジャーであるツツジ新道の入口が現れた。本当にメジャーなのか疑わしくなるほど目立たぬ姿だ。


 
入口からすぐの区間は「ここマジで登山道?」と首を傾げたくなるような、細い沢が流れる薄暗い谷に突っ込んでいくような心細い雰囲気なのだが、やがてジグザグな坂道が現れ、それで一気に登って高さを稼ぎ、ある程度まで登ったらそれ以降は等高線上をトラバースする感じで、ブナ林の中を進んでゆく。途中に倒木があるけれど、大して危険な箇所は無く、ウォーミングアップにはもってこい。


 
斜面を横切る箇所には桟橋が架けられている。こんな感じの区間が所々にあるけれども、総じて歩きやすい。ブナの葉を透けて届く柔らかな陽光が美しく、この日は朝っぱらから暑かったが視覚的には爽快であった。


 
【9:19 ゴーラ沢出合】
9:12頃から東沢のせせらぎが聞こえる方へと下り始め、沢筋の右岸を歩いてゆくうち、西丹沢では有名な渡渉ポイントであるゴーラ沢出合に着いた。ここでは渡渉しつつ、右斜め前方にある階段の取り付きを見つけなくてはならないため、どのように渡渉して進んでゆけば良いのか、初見の人でも迷わないで済むよう、わざわざご丁寧に説明図が掲示されていた。


 
いつもなら水量豊かで、慎重に飛ぶ石を選ばないと靴を水没させかねないこの東沢だが、今夏の少雨の影響により水量が非常に少なく、靴の心配をするまでもなく余裕で渡渉できた。屁の河童だ。でもあまりの水かさの少なさに、本物のカッパがいたならば、きっと青色吐息であろう。


 
上述の案内図のお陰で迷うこと無くコンクリの階段に辿りつけた。ここまでは最初の登りを除いてほとんどフラットだったために楽であったが、ここから檜洞丸の頂上まで高度差800m以上をひたすら登る道が続く。階段前の立て看板には「急な登りが続く経験者向けの登山道です。遭難事故も多発しています。自信のない方はここで引き返しましょう」という脅し文句が躍っていた。


 
尾根の上を伸びる坂道をひたすら登る。所々に鎖場もあるが、悪天候時以外は不要だろう。特別に急登というわけでもなく、危険な箇所も少ないが、周囲の林に視界を阻まれるために眺望は無く、ひと息つけるようなフラットな場所も無く、しかも猛暑が体力を奪ってゆくので、心身ともに早くも疲労し始める。


 
【9:30 木陰の中の腰掛】
途中で画像左(上)のような休憩ポイントを通過。休憩しすぎるとペースが乱れるし、アブがしつこくつきまとってくるので、ここでは足を止めずあっさり通過した。たまに尾根が細くなる場所があるのだが、崩壊してしまったのか、砂利でしっかりと補修がなされていた。



ゴーラ沢出合から登り始めて40分のところで、ツツジ新道のゴーラ出合~檜洞丸間で唯一の短い下りが現れ…



【10:00 小さな鞍部】
無名の小さな鞍部を越す。画像には写っている道標によれば、展望台まで0.2km、檜洞丸まで2.0kmとのこと。道標の傍らには「祈 安全登山」と記された松田警察署長名の白い杭が立てられていたのだが、どこかでこの杭を見たことあるぞ、と記憶を整理していたら、松田警察署のホームページ(西丹沢登山情報)で写っている男性が背負っている杭と同じ物であった。



さすがにメジャーな登山道だけあって、随所に道標が立っていて安心だ。小さな鞍部から200m先に立っていたこの道標によれば、スタートから3.5km歩いてきたことになる。約1時間半で3.5kmか。可も無く不可も無くといったペースだ。檜洞丸の頂上までは1.8kmだから、今のペースを維持すれば、あと45分ほどで頂上までたどり着けるだろう。この段階ではそう見当を立てていた。


 
【10:10~15 展望台】
しかしである。小さな鞍部からここまで、道標に記されていた数値を信じるならばわずか200mしかないはずなのに、そんな僅かな距離に10分も費やしてしまっている。これでは1時間歩いて1.2kmしか進めないではないか。明らかにここへきてペースが落ちているのだ。さほど標高が高くないため、気温は下界と大差なく、無駄に重い荷物を背負っているので、暑くてたまらないのである。普段から登山をしている方なら朝飯前だろうけど、気が向いた時にしか登らない不精者且つ文化会系の私は、平素の運動不足が祟って、既に全身汗でグッショリ。この展望台のベンチに腰掛けて、水分を補給しながら、今行程で初めての休憩(5分間)をとる。
空気が乾いていればこの展望台からは富士山などがきれいに眺望できるらしいのだが、この日は晴れていたものの湿度がかなり高かったために視界が優れず、展望できたのはご近所の畦ヶ丸やその周辺程度であった。


 
5分の小休止を済ませて展望台から再び歩き始める。しばらくすると滑落事故発生区間という警告がなされた区間を通過した。確かに左斜面へ向かって滑落しやすい場所かもしれないが、気を付ければ問題ないだろう。しかしながら、何でもないところほど事故が起こりやすいのが登山の常である。


 
頂上へ近づくに連れて小刻みに階段が連続しはじめる。


 

【11:10~15 檜洞丸まで0.8km地点】
西丹沢自然公園から4.5km、檜洞丸まで0.8kmの地点は、先程の展望台より遥かに見晴らしが良く、しかもベンチも設置されていたため、ここでも休憩をとった。さすがにここまで登ってくると、吹く風も下界とは違って涼しくなり、トンボも飛び交っていて、秋の気配を感じさせてくれた。しかし、展望台からここまで約1.0kmに1時間弱もかかっている。ペースが遅すぎる。時速1kmって赤ちゃんのハイハイ歩きと同じじゃねぇか。あぁ情けねぇ。トレーニングのために背負っている死重の水4Lがかなりの負担になっており、いきがってそんなものを背負ってきたことを強く後悔し、白旗を上げてもう戻っちゃおうかな、という弱気ももたげはじめた。


 
頂上までの0.8kmが異様に長く感じられる。本当に0.8kmなのかね。間違っていないかね。そう泣き言をこぼしたくなる。しかも階段が連続するため、ステップを上がる度にボディーブローのようにダメージが効いてくる。たまに右側の視界が開けて遠くまで見晴らせる展望が、今行程の数少ないご褒美だ。



【11:30 石棚山方面分岐】
この三叉路を石棚山方面へ向かえば、頂上を踏まずとも西丹沢方面へ戻れるが、せっかくだから頂上へ向かおう。


 
三叉路以降は稜線上を辿るために上り勾配もかなり緩やかになり、まるで植物園のような原っぱの中、延々と木道が続く。路傍ではトリカブトが咲いていた。


 
シロヨメナの御花畑が広がる。でも所詮は野菊だもんな…。高山植物の花に出会えたような感動はあまり得られず、どちらかと言えば空き地の原っぱで雑草が花を咲かせているような印象である。


 
マルバダケブキの群生の中も通過したが、花はほぼ終盤であり、数株が辛うじて花を残していたものの、ほとんどは花を落として黒ずんでいた。たまに現れるマムシグサの赤い実が気味悪い。
この稜線上で綺麗だったのはせいぜいトリカブトぐらいで、他はあまりカメラを構えたくなるような花に出会うことはなかった。夏の花と秋の花のちょうど端境期的なタイミングだったわけだ。でもこれでいいのだ。今回は鍛錬で登山しているのだから、綺麗な花や美しい景色など、あまりご褒美的なものにありつけない方がストイックで今回の目的に合致しているのだ…。そんな負け惜しみを自分に言い聞かせる。



ソーラー発電設備の脇を通ったら、山頂はもうすぐだぜ。頑張れデブゴン。燃やせ体脂肪!


 
【11:48~12:05 檜洞丸・頂上(標高1601m)】
ツツジの花が咲く初夏には数多のハイカーで埋め尽くされるという檜洞丸の頂上であるが、クソ暑い真夏はオフシーズンであり、私が登頂したときには人っ子一人おらず、悲しいくらいに森閑としていた。そもそも西丹沢自然教室からツツジ新道を登ってここまで来る間、すれ違った人や追い越した(越された)人も皆無であった。そりゃそうだよ。なんでこんな暑い時に、全身汗だくになって、辛い思いしてわざわざ登らなきゃいけないのか。展望台あたりから急に落ちたペースは結局回復することがなく、スタートからここまで3時間10分もかかってしまった。標準タイム(3時間20分)とほぼ同等だが、常に標準タイムより早い時間で登っている私としては非常に悔しい。



気温は22.3℃。ベンチに腰を掛けて呼吸を整えれば、確かに涼しい。でも風があまり吹かず、その上湿度が高いので、思ったほどの清涼感は得られなかった。ちょうどお昼の時間なので、持参してきたコンビニのおにぎりを頬張る。

さてここから3時間30分で下山すれば、計画通りに15:40のバスに乗れるのだが、山頂から犬越路を経由して用木沢出合へ下るルートはツツジ新道より遠回りであるし、途中に鎖場など危ない箇所が連続するから、疲れたままのペースだと間に合わない可能性が高い。登りで3時間もかかっているのに、下りとはいえ、それより遠回り且つ危ないルートを3時間半で走破できるのか。
そして実際に、登りよりもここからの下山がヘビーだった…

後編につづく
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曽呂温泉

2013年09月11日 | 東京都・埼玉県・千葉県
 
前回に引き続いて房総の鉱泉をめぐります。今回は鴨川市の長閑な山間に佇む一軒宿の「曽呂温泉」です。千葉県の観光紹介サイトによれば、県内で営業する温泉の中では最も歴史が古いんだそうでして、お湯自体も鉱泉ファンから評価が高く、以前から是非訪れてみたかった鉱泉でした。旅館ですから当然宿泊もできますが、今回は日帰り入浴で利用させていただきました。路傍に立つ「源泉かけ流し」と小さく書かれた看板に従って、県道89号線から谷戸の田んぼへ伸びる細いあぜ道を入ります。


 
県道から旅館まではわずか数百メートル程度なのですが、この道が車一台やっと通れるほど狭隘でして、脱輪しないよう気をつけながら奥へと進むと、やがて旅館の建物の手前に日帰り客用の駐車場が現れました。ここに車をとめます。


 
里山の樹林に囲まれた渋い一軒宿。正面玄関ではワンちゃんが3匹ほど待機して、来客を迎えていました。旅館というより農家の民宿みたいな雰囲気。



日帰り入浴の客は正面玄関ではなく、勝手口みたいな専用の出入口から入ります。でっかく「日帰りの方はこちらから」と書いてあるものの、初めてこの入口の扉を見たとき、不安に陥る人は普通の感覚を持った一般人、ワクワクする人はおかしなマニア、と判別することができるでしょうね。もちろん私は後者なのですが…。



その勝手口から館内へ入ると、すぐ右手に座敷が広がり、その奥に浴室へと続く廊下が伸びているのですが、座敷では風呂あがりのおばちゃん達が寝転んでいるものの、近くには宿の方と思しき人影が見当たりません。どこで料金を支払ったら良いものかわからず、館内をウロウロしていたら、正面玄関前の帳場に行き当たり、帳場の奥の台所にいらっしゃった方に声を掛けてようやく支払いを済ませることができました。


 
廊下にはやけに警察関係のポスターが目立っているのですが、この旅館と警察は何か密接な関係でもあるのでしょうか。また廊下に面する小さな部屋には、いまや「しまむら」でも売ってなさそうなセンスのシャツや衣類がハンガーに吊ってあったのですが、私物かと思いきや、何とそれぞれは値札が付いていました。売り物だったのか…。


 
廊下にポツンと置かれた冷蔵庫の上には「アイス \120 ご自由にどうぞ」とあり、その傍に料金を納める缶が置かれていました。殺伐とした東京から至近に位置しているとは思えない、客を信用した長閑な光景に思わず頬がゆるみます。
浴室入口の手前には古典的な温泉旅館には欠かせない卓球台が。


 
招き猫の暖簾をくぐって手前側が男湯、奥が女湯です。お風呂はこの扉や廊下を介して本棟と続いていますが、外から見ればれっきとした湯屋が別棟であることがわかります。扉の下には「源泉かけ流し」と書かれたプレートが立て掛けられていましたが、果たしてその真相はいかに!


 
脱衣室は3人が同時に着替えたら窮屈になりそうなほど狭い室内に、ただ棚と扇風機が括りつけられているばかりで、その他には何も無く至って質素です。建物は相当古いらしく、浴室の扉はかしいでいて、戸と柱の間には隙間を埋める長細い三角の木材が挟み込まれていました。室内に貼り出されている紙によれば「浴槽上がり湯シャワー全て源泉水のみを使用しています」とのこと。


 
かなり年季の入ったタイル貼りの浴室には4~5人サイズの浴槽がひとつあるばかり。一見すると飾り気が無い単調なお風呂に見えますが、女湯との仕切り塀の上部にはガラスブロックが用いられており、さりげなくオシャレが施されているのでした。



室内には計3基のシャワー付き混合水栓が設けられており、カランからは熱・冷ともに茶色い源泉が出てきます。源泉温度が14.5℃ですから冷たい方は源泉そのまんまである一方、お湯の方は加温された源泉です。湧出量が多くないのにカランにまで源泉が用いられているのは素晴らしいですね。タンクにストックしている鉱泉が吐水されるのでしょうから、カランを使用する際にはコックをこまめに締めましょう。


 
タイル貼りの湯船にはチョコレート色に濃く濁る加温済の鉱泉が張られています。茶色のお湯と言えばモール泉を連想しますが、モール泉とは全く異なる色合いであり、上述のようにチョコレートあるいはココアを溶かしているかのようです。窓から外光が湯船に直射すればかろうじて浴槽の底が見えますが、そうでないところは濁りが濃くて底は全く見えません。浴槽側面にはお湯の投入口があって、偶に泡を上げながらお湯を供給しており、また浴槽の底には足裏を強く吸い込む穴もありましたので、おそらく加温のために槽内循環が行われてるものと思われますが、それ以外にも後述する竹樋の湯口から適宜加温されたお湯が投入されており、湯船を満たしたお湯はその後、窓側の溝へと溢れ出ていました。
なお、お湯の中では綿埃のような形状をした茶色の湯花が浮遊しており、同様の沈殿も多いのか、湯船に足を突っ込むとそれらが一気に舞い上がりました。湯花には大小様々大きさがあり、たまにとてつもなく大きな塊も浮遊していました。


 
浴槽のコックで客が適宜湯加減を調整することもできるようです。そのコックの左には竹を半分に割った短い樋が立てかけられており、アツアツに加温された源泉がチョロチョロと落とされていました。「湯」のコックを開けてもとくに変化はみられませんでしたが、「水」の方は壁からクネクネと折れ曲がった配管の先にコックがあり、それを開くと非加温の生源泉が勢い良く吐出されましたので、湯船の生源泉比率を高めたかった私は、「水」の方の蛇口をしっかり開けて源泉をドバドバ投入させていただきました。
この鉱泉は指先でちょっと触れただけでもわかる強いヌル&ツルスベ浴感を有し、入浴中はまるでローションの中に浸かっているかのような心地です。また、水栓から出たばかりの鉱泉を口にすると、明瞭ですが甘い感じのマイルドな塩味、そして他の温泉(鉱泉)が有する硫黄臭とは別物の、茹で過ぎて硬くなって黄身が青くなってしまった茹でタマゴの卵黄みたいな匂いおよび味が感じられ、その他、清涼感のあるほろ苦みやヨード臭も確認できました。

卵黄のような硫黄由来の知覚とヌルスベ浴感が非常に強く、入浴中は何度も匂いを嗅ぎ、そして肌を擦り、浴感の心地よさゆえに湯船から出ようにも出られなくなってしまいました。湯上り後も肘の内側や鼠径部などに鉱泉由来のヌルヌル感が残っていたことには驚きです。
この内湯のために1000円を支払うことには躊躇いを覚える方もいらっしゃるかと思いますが、個性的で主張の強い鉱泉であることには間違いありませんので、お湯の個性重視で湯めぐりなさる方には是非おすすめです。


含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物冷鉱泉 14.5℃ pH8.7 2.6L/min(動力揚水) 溶存物質2.18g/kg 成分総計2.22g/kg
Na+:655.8mg(98.68mval%),
Cl-:352.4mg(35.67mval%), Br-:2.1mg, I-:0.8mg, HS-:7.5mg, S2O3--:0.4mg, HCO3-:1029mg(60.54mval%), CO3--:13.3mg,
H2SiO3:81.9mg, HBO2:12.7mg, 腐植質1.5mg, CO2:37.1mg, H2S:0.2mg,
加温あり

外房線・安房鴨川駅の西口より鴨川市コミュニティバス(鴨川日東バスが運行)の南ルートで「温泉入口」バス停下車、徒歩10分(550m)
千葉県鴨川市仲町90  地図
04-7092-9817

9:00~17:30
1000円
シャンプー類あり、他備品類見当たらず

私の好み:★★+0.5
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勝浦つるんつるん温泉

2013年09月10日 | 東京都・埼玉県・千葉県
 
猛暑が続いていた盛夏の某日、ふと房総のツルツルな鉱泉に浸かりたくなり、アクアラインをかっ飛ばして房総半島で鉱泉をめぐってきました。まず一軒目は「勝浦つるんつるん温泉」です。場所としては勝浦の市街から大多喜街道を北上し、松野交差点を右折してから更に田んぼの中の路地をちょっと入った先にありまして、温泉のみならずキャンプ場も併設されていて、道中の随所に看板や幟が立っているので、それに従って進めば迷うこと無く到着できるでしょう。
やや古い建物にキッチュなオレンジ色の塗装が施された外観、そしてあちこちに立っている手書きの看板など、かなりB級感が漂う施設なのですが、季節柄、海水浴帰りの兄ちゃん姉ちゃんで賑わっており、食堂兼休憩室のお座敷から若い歓声が駐車場へ響いていました。



受付で直接料金を支払って奥へと進みます。浴室へと続く廊下には飾り物のへっついが置かれているのですが、こちらで食事をするとこの竈炊きのごはんがいただけるんだとか。


 
廊下の浴室手前にはロッカーやお水のサービスが用意されていました。お水はてっきり鉱泉水かと勝手に想像していたのですが、実際に飲んでみたら単なる普通の水でした。



壁にはたくさんのサイン色紙が貼り出されているのですが、その多くは失礼ながら私の存じ上げない演歌歌手の方々でして、これが却って施設のB級感を強めているようでした。


 
脱衣室はけっこう狭く、3人で同時に利用したらば窮屈感は否めないでしょう。また造りとしても質素であり、ただ棚に籠が並べられているだけなのですが、しかしながらエアコンが設置されているため、暑い日でも湯上がりは涼しく快適であり、汗を気にせず着替えることができて助かりました。


 
お風呂は内湯と半露天の2つが合体しております。まずは内湯から。ヨットの帆のような形状をした浴槽は、縁が石材で槽内がタイル貼りの4~5人サイズ、隅っこには溶岩のような岩の湯口があるのですが、訪問時には止まっており、かといって槽内で循環しているような形跡もありませんので、お湯は適宜供給される溜め湯式なのかと思われます。湯船に貼られているお湯は濃い琥珀色で、その色つきの濃さゆえに底はほとんど見えません。湯中では茶色・黒色・灰色の湯華が浮遊しています。なお、内湯の向こうに見える小さな槽は半露天です。


 
洗い場にはシャワー付き混合水栓が4基設置されており、水栓から出てくるお湯や水は、ともに源泉です。桶にカランのお湯を落としてみたら、紅茶のような色のお湯が溜まりました。


 
一方、ガーデンルームに覆われている半露天の湯船は、内湯よりも小さな3人サイズ。浴槽の縁には飾りの石が並べられ、槽内はタイル貼りです。こちらにも加温された源泉が溜め湯式で張られているのですが、内湯と違って外光がダイレクトに降り注いでいるために、濃い琥珀色の湯船の底もこちらではちゃんと目視できました。


 
半露天にも洗い場があり、4つ設けられているうちシャワー付きは2つでして、いずれからも源泉が出てきます(お湯と水両方)。備え付けられているボディーソープは「勝浦つるんつるん温泉」オリジナルのものなんですね。


 
半露天には布袋様が佇んでいる湯口があり、その傍らには4つのバルブがあって、客が各自で開閉して湯加減を調整できるようになっていました。4つのバルブの内訳は、お湯の元栓・露天のお湯・内湯のお湯・水、となっており、お湯を出したい場合は、まず元栓を開けてから、出したい方の湯船のバルブを開けます。かなり熱めに加温されているので、バルブ開閉時は火傷に注意。一方、水のバルブはひとつしかなく、試しにこれを開けてみますと、半露天側では何らの反応が無い一方、壁の裏手でジャージャーと音が聞こえてきました。あれれ、どういうこと?



不思議に思って音が聞こえる内湯側を確認してみますと、さっきは何も流れていなかった溶岩の湯口から、非加温の源泉が勢い良く吐水されているではありませんか。そこで、何も手が加えられていない源泉を大量に内湯に注ぎ、非加温源泉比率を高めた内湯に入って、その嬉しゆえにひたすらニヤニヤしながら湯浴みしてしまいました。琥珀色のお湯は、アルカリ性に傾いていること、重曹が多いこと、そして炭酸イオンもかなり含まれているなど、ツルスベ浴感をもたらす要素がしっかり揃っており、施設名の通り本当にツルスベ感が強く、湯上り後も長い時間に亘って肌のスベスベ感が持続します。しかもサッパリとした爽快感もあり、実に夏向きの鉱泉であると言えそうです。
鉱泉を口にすると、マイルドな塩味の他、ヨードや臭素のような匂いがはっきり嗅ぎ取れ、重曹のほろ苦みも有しています。館内表示によれば加温は行われているものの、加水・循環・消毒は無いとのこと。湧出量が毎分2.5Lなので、さすがに常時掛け流しとするわけにはいかないのでしょうけど、溜め湯式とはいえ、循環させないで放流式にしている点は立派だと思います。実際にバルブを開けながら入浴したら、浴槽縁からしっかりとオーバーフローしていました。
客が各自でバルブを開閉できるため、先客の匙加減によって湯加減が変わるのでしょうけど、でも自分流にお湯をアレンジできますし、やり方によっては私のように源泉をたっぷり楽しむこともできます(使用後、バルブはちゃんと締めましょう)。房総らしい黒湯を楽しめる、なかなかおもしろい鉱泉でした。


ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉 18.2℃ pH8.33 2.5L/min(動力揚水) 溶存物質3.520g/kg 成分総計3.527g/kg
Na+:1154mg(95.13mval%), NH4+:14.9mg,
Cl-:1198mg(64.69mval%), Br-:5.8mg, I-:2.5mg, HS-:<0.1mg, S2O3--:<0.1mg, HCO3-:906.9mg(28.45mval%), CO3--:101.3mg(6.47mval%),
H2SiO3:74.1mg, HBO2:11.5mg, CO2:7.1mg, H2S:<0.1mg,
入浴に適した温度に保つため加温

外房線・勝浦駅より小湊鉄道バスの大多喜車庫行(宿戸経由)などで勝浦温泉入口バス停下車、徒歩10分(800m)
千葉県勝浦市松野1143
0470-77-0311

8:30~20:00 無休(臨時休業あり)
800円(毎月10日・20日は500円)
ロッカー(無料)・シャンプー類あり、ドライヤーは帳場貸出

私の好み:★★
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