文化逍遥。

良質な文化の紹介。

『町のうしろ姿』なぎら健壱写真集

2015年08月22日 | 本と雑誌
 図書館でなぎら健壱氏の写真集を見つけたので、借りてきて眺めていた。
なぎら健壱氏はテレビなどでタレント活動をしたりしているので、お馴染みの方も多いだろう。本業はシンガーソングライターということになるだろうが、残念なことに氏の音楽には個人的にあまり共感を持てるような作品には出会っていない。むしろ、ヴァイオリン演歌の桜井敏雄先生と共演したレコードなどに親しむことが多かった(2011/4/21ブログ参照)。エッセイ『下町小僧』や自伝的小説『歌い屋たち』などの著作もあるし、マルチタレントとして広く文化に親しみ、それを紹介したり作品に出来るだけの素養がある人なのだろう。
 さて、本題の『町のうしろ姿―都電沿線を2006年夏―なぎら健壱写真集(2006年岳陽舎刊)』。
いくらマルチタレントと言っても写真集を出すほどのカメラテクニックはないだろう、とタカをくくってページを開いてみて驚いた。町に対しての姿勢に愛着があり、アングルもいい。なにより、カメラやレンズの基本的な特性を考えた上でシャッターを切っているのには驚いた。タレントの余技とは言えない腕前だ。巻末に使用されたカメラやレンズの一覧が掲載されているが、「なるほどこんなレンズを使ったのか」と思わせられた。
 内容的には、一言でいえば「ノスタルジア」となろうか。しかし、こと東京に関しては単に「懐古趣味」では片付かない面がある。わたしは千葉に生まれ育ったが、高校卒業後一度東京の会社に就職し、その後に入った大学も、卒業後も仕事のため、およそ40年間東京に通った。東京という街の変化を側面から見続けてきたわけだが、その中で実感したのは「東京は変わることにより、得たものより無くしたものの方が大きい」ということだった。木挽町(現在の東銀座)生まれの、なぎら氏もおそらくそこに気付いているのだろう、この写真集には失われゆくものへの哀愁が込められているように感じる。フォークブームと言われた1970年代に活躍した人たちの中でも高田渡氏などすでに亡くなった方もいる。これからは、櫛の歯が欠けるようにかつての歌い手たちが亡くなっていくだろう。それは避けることのできないことだが、時代の波に翻弄されずベテラン勢も活動を続けて欲しいものである。

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