著者の長尾和宏医師の著作に関しては、2014年にもこのブログで取り上げた。今回の『薬のやめどき』は半年ほど前に出版されたもので、図書館に予約しておいたのだが予約件数が多く、やっと順番が回ってきて読むことが出来た。
自宅で母を看取ってから3年になる。今でも、投薬については辛い記憶が残っている。ムコダインという痰をとる薬で水疱などの副作用が出たのに気付くのが遅れたこと。さらに、感染症に対する抗生剤による治療をいつ辞めるべきなのか、それを判断しなければならなかったことなどだ。医療関係者は宿命的に延命を優先することが多く、家族も投薬することで役割を果たしているように考えてしまう事が多い。しかし、死は避け得るべくもなく、いつか必ずやってくる。必要以上の延命は苦しみが多いだけで、益がない。母も血管が弱って点滴が出来なくなり、それ以前に抗生剤を経口投与した際、口内が荒れるなどの副作用が顕著になってきたため医師に治療の中止を申し入れたのだった。医師は、筋肉注射をしたかったようだ。はたして、あれで本当によかったのか、今でも考えるときがある。看取りの専門医ともいえる長尾先生のこの本は、そんな時にひとつの指標―少なくとも参考にはなってくれるだろう。
また、著者は抗認知症薬の過剰投与にも警鐘を鳴らし続けており、2015年11月の発足した「一般社団法人抗認知症薬の適量処方を実現する会」の理事も務めておられる。母も、ドネペジルという抗認知症薬をほぼ死ぬまで飲んでいた。母の場合この薬が体質に合っていたようで、怒りやすくなったこともあったが重篤な副作用は感じられず、むしろ認知機能の改善・維持に役だっていたと思う。が、人によってはかなりな副作用が出て、それが薬による異状と気付かれずに家族が崩壊する事例もあるという。会のホームページを読むと、医師や患者家族からの様々な実例が載っている。抗認知症薬に限った情報だが、介護に関わる人は読んでみても損はない。その中にある、ある医師の報告にハッとさせられたので少し引用しておく。
「・・・多くの医師が患者の身体と対話できないのだから、ドネペジル10mgまで増やすという指示は犯罪的である。厚労省が、この状況がわからないなら財務省に薬の無駄使いとして訴えるしかない。」(「抗認知症薬の適量処方を実現する会」のホームページより)
参考までに、ドネペジルという薬は3mgから始めて2週間後に5mgに増量する厚労省による規定があり、さらに重症の場合10mgに増量するとされている。つまり、3mgで十分効いている人でも増量しなければならないわけだ。現代の医療が抱える病理のひとつがここにもある。ただし現在は、同会の活動等により少量投与を容認するようになってきているとのことだ。
それにしても、“多くの医師が患者の身体と対話できない”というのは言い得て妙だが、わたしも常々感じていることでもある。これを、現場の医師の言葉として日本の医学界全体が重く受け止めてもらいたい。特に、医療・介護に関わる人を教育すべき機関は信頼に足りうる医療者・介護者を育成することにもっと心をくだいてもらいたい。わたしも、還暦になり様々な体の異常を感じる様になってきたが、信頼できる医者に巡り合えず「自分の体は、自分で守るしかない」というのが今の実感だ。