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わたしのレコード棚ーブルース154『Negro Songs Of Protest』

2022年12月14日 | わたしのレコード棚
 古いレコードを聴き直していて、興味深いことに気づいたので書いておこう。

 下の写真は、ROUNDERレーベルのLP4004『Negro songs of protest』の表と裏。



 写真の右上でオープンテープデッキを操作しているLawrence Gellert(ローレンス・ゲラート)という人が、1933年から1937年にかけてサウスカロライナやジョージアでフィールド録音した「民間伝承された黒人の(抵抗)歌」を集めた名盤。この中に『On a Monday』という歌が収められている。その歌詞の冒頭のフレーズと拙訳。

『On a Monday』
It was on a Monday (月曜日・・)
A Monday I was arrested, yes lord (月曜日に逮捕されてしまったんだよ、神様)
And a Tuesday (そして、火曜日・・)
A Tuesday I was trialed, mmmm hmmm (火曜日には裁判にかけられちまった)
And on a Wednesday (そして、水曜日・・)
A Wednesday I got my long sentence, good god  (水曜日には長い長い刑期を言い渡されたよ、神様)
And on a Thursday (そして、木曜日・・)
A Thursday I was Raleigh, bound (木曜日にはローリーの州刑務所行きさ)
・・・・

 この歌が、奴隷制時代のものならば「逮捕」されたのは所有者からの逃亡だったかもしれず、あるいは、公民権確立以前のものなので「白人専用施設」を使ったためだったかもしれず・・要は現在では犯罪にならなかった理不尽な理由で捕まったことを示唆しているように感じる。このことを踏まえた上で、モダンブルースのスタンダードとも言える、T ・ボーン・ウォーカーの『STORMY MONDAY 』の歌詞と比較してみたい。

『STORMY MONDAY』
They called it stormy Monday (月曜日は嵐の中にいるような気分だ、と人は言う)
but Tuesday is as just as bad (でも、火曜も同じようなもんだ)
They called it stormy Monday (月曜日は嵐の中にいるような気分)
but Tuesday is as just as bad (でも、火曜も同じようなもんさ)
Wednesday is worst (水曜日は最悪で)
and Thursday's so sad (木曜はとても哀しい気分だ)

The eagle flies on Friday (金曜に給料をもらい)
Saturday I'll go out to play (それを持って土曜に遊びに出かける)
The eagle flies on Friday (週末に給料をもらって)
Saturday I'll go out to play (それを持って土曜に遊びに出かけるんだ)
Sunday I'll go to church  (日曜には教会に行って)
and I'll kneel down to pray (膝をおって祈る)

Lord have mercy, Lord have mercy on me (慈悲深い神様、お願いします)
Lord have mercy, My life is in misery (俺は気分が沈んで苦しんでます)
You know I'm crazy 'bout my baby (彼女がいなくなって、心がおかしくなりそうです)
Lord, please send my baby back on to me (神様、彼女を戻してください)

 こちらも拙訳で、簡単な意訳を付けておいたが、金曜の歌詞に出てくるThe eagle イーグル(鷲)は米ドル札に描かれている図柄で、給料が週払いのアメリカで週末に給料をもらったことを意味している。

 『ストーミー マンデー』はブルースセッションでやる人も多く、ジャズの要素を盛り込んだコード進行は「ストマン進行」とも呼ばれ、エレキギターでモダンブルースを演奏する人には必須とも言える曲になっている。しかし、そんなモダンな曲も、歴史的な背景があったのだと感じざるを得なかった。特に、詩の内容が時代の変遷とともに「世俗的」になっている。それが良いか悪いか、は置くとして、歌詞の背景を知っておくことも悪くはないだろう。

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