文化逍遥。

良質な文化の紹介。

日暮 泰文著『ブルース百歌一望』(2020年Pヴァイン発行、ele-King bokks編集)

2024年10月01日 | 本と雑誌
 日暮泰文氏は、日本におけるブルース研究の第一人者で、P-ヴァイン・レコードを設立し、ブラック・ミュージックの紹介に尽力された方。この人の行動力と語学力、豊富な音楽的知識には、いつもながら驚かされる。
 本書は、雑誌『ブルース&ソウル・レコーズ』に連載された「リアル・ブルース方丈記」に加筆修正し、1世紀に渡るブルースの録音から101曲を選び、深層を掘り起こした労作になる。この本を読んで、言葉の意味について新たに得たことも多い。


表紙の写真は、著者が撮影したアーカンソー州ヘレナの船着き場。白黒写真だし、ずいぶん古い光景に見える。が、2010年に撮ったということなので、さほど古いわけではない。あるいは、現在はあまり使われていない、綿などを船に積み込むために使われる設備で、コンベアーのようなものなのかもしれない。

 日暮泰文氏は1948年生まれ、というので執筆時は70歳を超えていたろう。本書P170で「多くの部分ですっかり形骸化したブルースに何が欠けているのだろうか・・・」とある。わたしも今年2024年で67歳。時にブルース・セッションなどに参加して、若いプレーヤー達と演奏したり、ブルースについて話したりする。その時には、やはり「うまいが、形だけだ・・歴史的録音も聞いてない」と、感じることが多い。ロックやジャズの教則本に載っているものを、そのまま演奏してもブルースにはならない。オリジナルの演奏を聞き込み、彼らが何を伝えようとしてプレイしたのか、それを踏まえて自分なりのフレーズを編み出していかなければ、魂は抜けたままだ。この本の執筆動機として、今の音楽状況に対する危機感と憂慮があるような気がする。

 困難に直面し、重荷を負った者に対する「共感と励まし」。それこそが、ブルースを含めた民俗音楽の本質、とわたしは思って演奏している。

 さらに、わたしの1曲として・・サン・ハウスの「Grinnin' In Your Face」の一節を参考までに付け加えておこう。拙訳で、思い入れをこめて、かなりな意訳をつけた。

Don't you mind people grinnin' in your face (他人に小馬鹿にされたら、辛いもんだよな)
Don't mind people grinnin' in your face (そんな時は、気にせず我慢した方がいい)
You just bear this in mind, a tru friend is hard to find (どっちみち、人を馬鹿にして喜んでる様な奴とは友達になんか成れっこないんだ)
Don't mind people grinnin' in your face (他人に小馬鹿にされても受け流して自分の道をしっかり歩いて行けばいいんだ・・よく憶えておきなよ)

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