文化逍遥。

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2019年イギリス映画『家族を想うとき』

2019年12月27日 | 映画
 12/24(火)、千葉劇場にて。監督は、ケン・ローチ。原題は「Sorry We Missed You」で、直訳すると「残念ですが、お会いできませんでした」になるが、これは宅配便の不在者カードに印刷されている言葉。





 今年83歳になるケン・ローチが、現代社会の病理を描くことによって、次代に残した警告であり遺言であるかのような作品だ。

 わたしもかなり悲観的な人間だが、この作品には、ほとんど「救い」は描かれていない、と感じた。わずかに、介護士である妻が被介護者から受ける言葉や、街角で年寄りから気遣いの言葉を受ける場面に失われてゆくかのような「やさしさ」が描かれている。印象に残ったのは、介護している老婆から髪をとかしてもらいながら歌を歌ってもらうシーンだった。その歌は、黒人フォーク・シンガーのヒューディー・レッドベターの作と言われる『Good Night Irene』で、わたしも時に演奏することがある曲。しかし、映画の中ではイギリスの地方都市という設定なので、アメリカのフォークソングがイギリスの年寄りに歌われているという歌の伝搬力には驚かされた。あるいは、『Good Night Irene』という歌自体が、イギリスかアイルランドの民間伝承されたもので、アメリカに渡った移民からレッドベターに伝わったものなのかもしれない。近代アメリカでは黒人とアイルランドなどからの移民は、かなり交流があり、音楽も相互に影響しあっていたのだった。

 いずれにしろ、映画に「娯楽」を求める人は見ないほうが良い作品、とは言える。

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