三本の矢といえば、昔、子供の頃の教科書に出ていた記憶があります。
中国地方の戦国大名・毛利元就が1557年に3人の子に書いた文書“三子教訓状”から「三矢の教え」として知られています。
「1本の矢では簡単に折れるが、3本纏めると容易に折れないので、3人共々結束すること」という三本の矢の逸話は、
この三子教訓状が基になって作られたともいわれている(ただし、三本の矢の逸話は三子教訓状に記載がない)。
また、三本の矢の逸話は、世界中に類似した話があるといわれ、モンゴル帝国を築いたチンギス・カンが幼い頃に
兄弟争いをした際に母からの教訓としてアジアでは早くから知られており、イソップ寓話にも「3本の棒」という類似の話がある。
(ウイキペディアより抜粋)
サッカーチームの、サンフレッチェ広島はこの三本の矢に因んで命名されたそうで、サンは3本から、
フレッチェはイタリヤ語の“矢”との意味であるそうな。
ところで、ここでのタイトルは、「アベノミクス」でいう、“3本の矢”であり、先日「H氏」から配信いただいた情報記事に取り上げられていたので、
ここに転載させていただきました。
産業競争力会議の有識者委員を務める竹中平蔵慶大教授になる記事で、言い足りないのかハッとする内容には感じませんでしたが、
産業競争力会議などで論じられている一面が報じられていると思われます。
注目事項であり、各氏のご意見もあろうかと思いますので、ここに取り上げてみました。
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Voice 2013年06月号 p60-69
「『東京特区』が日本経済の景色を変える」 竹中 平蔵(慶應義塾大学教授)
【要旨】日・米・欧を中心に世界金融・経済の最新の動きについて論じる総力特集「お金の流れがまた変わる」の中の一記事。
順調な滑り出しを見せている第2次安倍晋三内閣による経済政策“アベノミクス”は、「三本の矢」と呼ばれる三種の政策で
構成されていることが知られている。
第一の矢である金融政策は実行され一定の成果を上げることができた。第二の矢の財政政策は、道半ばといったところである。
そして第三の矢が成長戦略。本記事は、小泉政権にて経済財政担当相などを歴任し、現政権下で産業競争力会議の
有識者委員を務める竹中平蔵教授が、この第三の矢「成長戦略」の方針と推進体制、具体的な構想、そして阻害要因などについて語るものである。
とくにその目玉ともいえる「アベノミクス戦略特区」と「コンセッション(インフラ運営権の民間売却)」について詳細を述べている。
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アベノミクス三本の矢のうち一本半(金融政策+財政政策の半分)は放たれたが、残る一本半(財政政策の残り半分+成長戦略)は
これからの課題である。とりわけ、中期的な経済の成長力をいかに高めるかが大きな課題として浮かび上がっている。
成長戦略に関してつねに二つの考えが示されてきた。第一は、政府ができるだけ大きな自由を民間に与えること、
そして税などの負担を重くしないことだ。これは、「構造改革」派といってよい。もう一つの考え方は、政府ができるだけ多く補助を
民間に与える、という考えだ。いわば「産業政策」派だ。産業競争力会議でも、各議員によって成長理念は斑模様である。
また総じて関係官庁は、自らの権益を拡大できる後者(産業政策)に偏りがちだ。現実の政策にはリアリズムが必要であり、
双方の考えをうまく取り入れる必要がある。しかしその際も、明らかに重点は前者にあるべきだ、と筆者は考える。
7年で7回も成長戦略がつくられ、それでも成長率が低下したことを考えると、今回の成長戦略はこれまでと次元の
違うものでなければならない。まさに、これで日本経済の「景色が変わる」、と実感できるようなものが求められる。
そうしたなか筆者は、以下の二つの政策提言が、当面の成長戦略の核になると考えている。規制改革の突破口としての
「アベノミクス戦略特区」(仮称)、そして官業の民間開放の象徴としての「コンセッション(インフラ運営権の民間売却)」だ。
まずアベノミクス特区から考えよう。
特区制度は、一定の地域に限って先行的に規制を改革し、その後にそれを全国に広げようという手法だ。
一例としてこの特区で株式会社の農業への参入が進み、その結果として農業、食品加工、流通などを統合する第六次産業という
概念が定着するまでになった。初期の特区は、明らかにそれなりの成果を挙げたのだ。しかし近年の特区は、地域活性化という考えが
先行するあまり、規制改革が忘れられ、安易な補助金などに頼る傾向が見られるようになった。
さらに、政治のリーダーシップが後退し、特区に対するモメンタム(勢い)が大幅に低下している。
こうした状況を受けて今回、従来とは次元の異なる特区を設ける方向で準備を進めている。第一は、特区の中身以前に、
特区のつくり方そのものを根本的に変えること。第二に、それを総理主導で行なうことだ。初期の特区の仕組みは、
地方自治体などが国に規制緩和を申し出て、国(政府)が省庁縦割りをそのままにいわば上から目線で「これはよい」「これはダメ」という決定を
する仕組みだった。しかし今回の特区は、総理が国家戦略としての特区を進める仕組みだ。総理の命を受けた特区担当大臣、
地方の首長、そして民間企業などで「三者統合本部」を設ける。この統合本部は、いわばミニ独立政府だ。
さらに、総理を議長とし民間有識者を含む「特区諮問会議」(仮称)を設けることを提唱している。
このアベノミクス特区の例としてイメージされる一つは、最先端の国際拠点としての東京だ。アジアのヘッドクオーターを
東京に誘致するためには、地域内で外国人医師免許での診察を認める、英語で教える小学校を認めるなど、規制改革が不可欠だ。
また、羽田にもう1本滑走路を設け国際線機能を倍増させる。そして羽田・東京・成田を高速鉄道で結ぶ。
さらには東京の地下鉄を一元化し、都営交通を24時間営業にする。これを実現すれば、アジアの拠点としての東京の景色は
大きく変わるのではないか。
また、農業拠点特区を設け、輸出に専念した農業にはさまざまな規制を緩和するという措置があってもよいだろう。
日本の農業は間違いなく大きな潜在力を有している。こうした特区を突破口に、日本を本格的な農業輸出国に脱皮させるチャンスだ。
成長戦略のもう一つの柱、インフラの運営権の民間売却(コンセッション)についても、実現の方向に向かっている。
官が独占しているインフラ運営に民間が参入することで結果的に、サービスの中身が向上し、かつ本格実施すれば、
大きな規模で財政改善に貢献することが期待される。
コンセッションは2年前に法律が整備されたが、現実に使い勝手が悪い面もあり、十分活用されてこなかった。
また現状の法律では、道路と空港という重要分野が対象外となっている。空港については法律改正が進んでいるが、
道路についてもしっかりと対象に含めることが、今後の重要な課題になる。さらに、ある規模の金額がまとまって初めて民間に
それに本格対応する準備が整う。必要なのは、そうとうに大きな規模でこれを行なうという、政府の明確な「コミットメント」である。
また、そのためのアクションプラン公表が求められる。現在の法律のもとで、総理を議長とする閣僚会議(民間資金等活用事業推進会議)が
存在している。まずは、この閣僚会議でアクションプランを決めることが求められる。
産業競争力会議において、議論は大きく七つのテーマで行なわれている。この7テーマについてそれぞれ主査を決め、
ペーパーを取りまとめる仕組みだ。かなり縦割りの仕組みである。いくつかの重要な提言も出されているが、現状では
確実に実現できるという目途が立たないものが多い。
それを阻む要因として、既得権益者の反対とそれを支える一部官僚組織の反対があるが、ほかに二点を指摘しておきたい。
第一は、メディアの歪んだ報道だ。労働の部門で「解雇ルール明確化」の提案が出されたことに対し、あるメディアが「解雇自由化」と報じ、
ほかのメディアが追随している。しかしペーパーにも議員の発言にも、解雇自由化などまったく存在していない。
第二の阻害要因は、経済界のなかにある。一般に経済界は、改革が自らの問題に及ぶと、抵抗勢力に変身する。
産業新陳代謝の部門で議論された、独立取締役の拡充がそれだ。日本では、成果を挙げられない能力の低い経営者を
辞めさせるというコーポレート・ガバナンスの基本が働いていない。海外主要国のほとんどで独立した社外取締役を
半分程度義務付けるような、強い仕組みができている。しかし日本では、こうした義務付けはないに等しい。
じつは産業競争力会議でも、このような義務付けが議論されているが、いまも財界の一部が強く反対している。
これでは、経営者は雇用の流動化を求めるのに、自分たち経営者の流動化に反対していることになる。
そもそも、経済成長の実現には、そうとうの長期にわたって地道な制度改革を重ねる必要がある。
そう考えると、6月に示される提言はいわば第一次提言、もしくは緊急提言と位置付けるべきであろう。第一次提言としては、
ここで述べた「アベノミクス特区」と「コンセッション」は間違いなく一つの核となるだろう。
そのうえで、成長への改革論議を継続し改革を続けるという宣言こそが、じつは最大の成長戦略かもしれない。
コメント: 地域振興の必要のない巨大都市・東京を特区にするという発想は、確かにこれまでの特区政策とは一線を画すものであり、
成長戦略にかける意気込みを前面に表す効果は大きいと思う。
シンガポールや香港と並ぶ国際拠点、といったイメージも明確だ。ただ、東京一極集中に関する議論はあったのだろうか。
単純な意見ではあるが、国際都市としてたとえば近隣の横浜を考えることもできる。
そのあたりも含めて今後の政策提言とそれについての論議を注視していきたいところだ。
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