太田南畝(おおたなんぽ)は江戸後期の文人・狂歌師で、旧暦でいう今日、
4月6日が命日です。南畝は号ですが、この他の号、蜀山人の方が有名でしょうか。
さらに、石楠斎、杏花園、四方山人などたくさんの号があります。狂名を四方
赤良(よものあから)や寝惚(ねとぼけ)先生などとも言ったそうです。
勘定所の役人、幕府官僚として勤める傍ら、一方で文筆方面でも名声を挙げ、
多くの随筆や狂歌、洒落本、狂詩などを残し、特に狂歌ではよく知られていま
すね。唐衣橘州(からごろも きっしゅう)・朱楽菅江(あけらかんこう)と
共に狂歌三大家と言われているそうです。
太田南畝肖像
(ウイキペディアより)
南畝は、1749年、江戸牛込(現在の新宿区)に下級武士の貧しい家に生まれ
ますが、幼少より学問や文筆に秀で、15歳にして江戸六歌仙の一人に入門し、
17歳には幕臣となりますが学問を続け、19歳にして狂詩集『寝惚先生文集』を
刊行し評判を受けます。
二十歳を過ぎたころ、後に狂歌三大家と呼ばれる3人が活動し、それまで上方
が中心だった狂歌を江戸で大流行とさせるのです。三十過ぎには、朱楽菅江と
共に『万載狂歌集』を出し、経済的にも豊かになり、吉原の松葉屋の遊女を見
受けしたりしています。
狂歌というのは、社会風刺や皮肉、滑稽を盛り込んだ、五・七・五・七・七の
音で構成した和歌ですね。和歌が優美を旨とするのに対して、狂歌は滑稽や
諧謔( かいぎゃく)を自在に詠み込んだ和歌のパロディーなんですね。
幕臣でありながら、政治批判の狂歌「世の中に蚊ほどうるさきものはなし
ぶんぶといひて夜もねられず」を出したりしますがしばらくは、狂歌から遠
ざかるのです。
46歳の南畝は「学問吟味登科済」が創設された時、これを受験し、甲科及第
首席合格するのです。根は優秀で真面目なんですね。 2年後には支配勘定
(役職)に任命されているのです。 55歳で大坂銅座に赴任します。銅山のこと
を「蜀山」といったのに因んで「蜀山人」の号で再び狂歌を細々と再開するの
です。
60歳を過ぎる頃江戸にもどりますが、隅田川に架かる永代橋が崩落するという
事故を偶然に目の当たりにし、自ら取材した証言集『夢の憂橋(うきはし)』を
出版しています。 その後も働き続けますが、道で転んだのが元で75歳で亡く
なります(1823年)。
辞世の歌「今までは人のことだと思ふたに俺が死ぬとはこいつはたまらん」。
お墓は文京区白山の本念寺にあるそうですから機会があれば訪れてみたいです。
(ネット画像より)
狂歌は、おかしい中にちくりと風刺があるユーモアに富んだ歌で、これまで
にも南畝の他、多くの人が詠んでいますね。 ネットの中から、順不同でピック
アップさせてもらいました。
・世をすてて 山に入るとも 味噌醤油 酒のかよひぢ なくて叶はじ(蜀山人)
・此の世をば どりゃお暇に せん香の 煙りとともに 灰左様なら(十返舎一九)
・世の中は酒と女が敵(かたき)なり どうか敵にめぐりあいたい (南畝)
・冥途から もしも迎いが 来たならば 九十九まで 留守と断れ (蜀山人)
・とれば又 とるほど損の 行く年を くるるくるると 思うおろかさ (橘州)
・何事も皆偽りの世の中に 死ぬるといふぞ誠なりける (一休)
・門松は 冥土の旅の 一里塚 めでたくもあり めでたくもなし (一休)
(ネット画像より)
また、蜀山人は、小倉百人一首の全首のパロディ(替え歌)を創作した狂歌集
「狂歌百人一首」を出しています。その中から、ちょっとつまみ食いしてみま
した。
・秋の田のかりほの庵の歌がるたとりぞこなつて雪は降りつつ
(秋の田のかりほの盧の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ 天智天皇)
・わが庵はみやこの辰巳午ひつじ申酉戌亥子丑寅う治
(我が盧は都のたつみしかぞ住むよを宇治山と人はいふなり 喜撰法師)
・こころあてに吸はばや吸はん初しもの昆布(こぶ)まどはせる塩だらの汁
(心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花 凡河内躬恒)
・とどむれどよそに出にけりこむすこはうちにゐるかと人のとふまで
(忍ぶれど色に出にけり我が恋は物や思ふと人のとふまで 平兼盛)
・由良のとを渡る舟人菓子をたべお茶のかはりに塩水をのむ
(由良のとをわたる舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋のみちかな 曽禰好忠)
・眼と口と耳と眉毛のなかりせばはなより外にしる人もなし
(もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし 大僧正行尊)
・春のよの夢ばかりなるうたた寝にねちがひしたるくびぞいたけれ
(春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなくたたむ名こそ惜しけれ 周防内侍)
面白いのが、たくさんありますが、きりがないので・・
最後に、同期入社の研究職の人に狂歌人がいて、歌の中に花を織り込んで
作っていました。
・花屋の子、スイセン入学ブイサイン
・単身赴任シャツも臭けりゃ金木犀(もくせえ)
・饅頭を運び転んで曼殊沙華
おあとがよろしいようで・・
The Pink Panther Season 1 Episode 1