伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ラーマーヤナ5、6 樹海の妖魔 上下

2007-02-16 23:29:23 | 物語・ファンタジー・SF
 インドの民族叙事詩「ラーマーヤナ」をベースにした物語。
 この巻では、梵天兵器で阿修羅軍を壊滅させたラーマがコーサラ国に戻ったが、コーサラ国王宮内の陰謀で追放され14年間阿修羅の跳梁する恐怖の森で隠棲することを命じられ、妻シーター、弟ラクシュマナとともに恐怖の森の中の丘で暮らし、そこにラーマを慕う夜叉シュールパナカーがラーマに拒絶されて怒りにまかせて呼び込んだ阿修羅軍の残党1万4000頭が襲い、ラーマに助力を申し出るクシャトリヤや山賊たちと共にラーマたちが戦いを始めるまでを描いています。
 1~4が阿修羅軍とラーマの戦いを軸にした比較的わかりやすい英雄物語であったのに対して、この巻では、正義の国コーサラ国が阿修羅の意を受けた乳母マンタラーに操られた第2王妃カイケーイーの要求で、かつてカイケーイーに命を助けられて何でも望みを2つ聞くと約束していた王ダシャラタがラーマの追放に同意し、そのダシャラタも死んで内部崩壊して行く様、他方阿修羅の国ランカーは梵天兵器の直撃で植物状態になった王ラーヴァナの統制が効かず内戦状態になって自己崩壊と、双方が滅びの危機に瀕して行く様子が上巻で延々と続きます。下巻では、当初恐怖の森では一夜も生きのびられないと言われていたのに、ラーマたちが住み始めて4ヵ月は何も起こらず、ラーマは非暴力を主張して阿修羅とも戦わずに説得を試みるという間延びした状態が続きます。4までの活劇の続きで読むと、ちょっと調子が狂います。
 しかし、ラーマの非暴力は、結局その横からラクシュマナが阿修羅を攻撃して危機を救いますし、ラーマも6の終わりでは阿修羅が説得に耳を貸さないと見るや次々と殺戮を始めますから、ここまではがまんしたのだからと、ラーマの戦いを正当化する位置づけでしかなかったような感じがします。
 そして、兄弟や宰相、さらにはカイケーイーさえもラーマの翻意を促し、誰一人ラーマの隠棲を望まない中で、ただ死んだ父王が決めたことを守らねば父王の名誉が守られないという理由だけで頑なに恐怖の森へと突き進むラーマの姿を感動すべきものとして描くのは、いかに非合理的であっても上の指示には従うべきという家父長的なあるいは原理主義的な価値観を称揚するようで、私はかなり違和感を感じました。民の幸せも現実的な判断も超えたところで観念的な倫理観を優先するラーマは、むしろ王としての資質に欠けるのではとさえ思えてしまいます。
 この巻は、阿修羅軍に対するラーマたちの反撃開始で終わっていますので、続巻が訳されるまでの数ヶ月ちょっと落ち着きませんね。


原題:THE RAMAYANA SERIES : DEMONS OF CHITRAKUT
アショーカ・K・バンカー 訳:大嶋豊
ポプラ社 2007年1月15日発行 (原書は2003年)
コメント
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