伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

愛の流刑地 上下

2007-03-04 12:58:22 | 小説
 かつては売れっ子だった55歳男性作家村尾菊治と3人の子持ちの36歳人妻入江冬香が、肉体関係を持ちその快楽に溺れて逢瀬を重ね、菊治が冬香の求めるままに首絞めプレイにふけり誤って絞殺してしまい逮捕・起訴されるという小説。
 上巻全部と下巻の94頁あたりまでは、全体の半分ぐらいが濡れ場ばかりのただのポルノ小説。渡辺淳一って、私は小説は学生の頃読んだきりで(だから「失楽園」も読んでません)その頃は女性向けソフトポルノの書き手と思っていたんですが、今や男性向けハードポルノ作家なんですね。はっきり言って、今時スポーツ新聞だって宅配版には掲載できないような内容で、これが日経新聞に1年3ヵ月連載していたというのはあきれるばかり。日経新聞の読者層についてのイメージが変わります。家庭や通勤電車や職場で、一体どういう顔してこんなの読めるんでしょう。
 純愛とかいってますが、菊治と冬香の関係って、初めてのデートでいきなりディープキス、2度目のデートですぐホテルの部屋に入って性交、その後会うや直ちに性交の繰り返しでただひたすらやり続けるさかりの付いた猫や猿の世界。10代、20代ならわかりますけど、55歳と36歳でここまで余裕のない肉欲だけの関係って信じられないし、ましてやそれを純愛だなんて。
 性感を初めて開発されてのめり込んだ人妻が夫も子どももおいてただひたすら性交を重ねるために通い続け、旅行に出たり泊まりがけで出てきたりしてほとんど外出せずに部屋にこもって性交にふけり文句一ついわない、で夫には体にも触らせず菊治に操を立てるって、男性の性欲と願望を満たすために都合のいい、実際にいるとしたら非常識なわがまま女。
 そのわがままコンビが、快楽のために始めた首絞めプレイで冬香が死んでから、突然刑事事件物に変わります。刑事事件物としては、東京地検では捜査検事が公判も担当することはないのに同じ検事が公判を担当(下178、200頁)、証拠請求に弁護人の意見を聞かない(下222頁)、検察官が証拠の要旨の告知で解剖報告書の内容に加えてそこから明確な殺意があるという意見を述べる(下223頁)、証拠の要旨の告知の後にまた冒頭陳述に戻る(下223~224頁)、前回証人申請に「しかるべく」と答えている弁護人に証人尋問の当日重ねて意見を聞く(下249頁)とか、ちょっと現実の手続では考えられない記載が目につきます。証拠の要旨の告知と冒頭陳述の合体は、裁判員裁判になるとそういうやり方になっていきそうですけどね。でもボイスレコーダーの非公開審理決定(下285~286頁)とか細かいところではたぶん経験してないとわかりにくいようなことまで書いてますから弁護士に取材したと思うんですけどね・・・。
 こういう首絞めプレイで誤って死んじゃったケースについては、確か私が学生の頃、現実に裁判で問題になって中山研一先生(刑法)が判決の論評をした文章を読んだ覚えがあります。そのときは殺人じゃなくて過失致死か傷害致死かって問題だったかと思います。この作品のケースも素直に行けば過失致死だけど実務的に据わりのよさを考えたら傷害致死かなってところなんだと私は思います。でも昨今のマスコミの煽る厳罰主義の風潮と検察の強気傾向からすれば、今起こったら殺人罪になってこの作品通りの量刑にもなるかもしれませんね。


渡辺淳一 幻冬舎 2006年5月20日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする