伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

日本を滅ぼす消費税増税

2013-03-30 19:40:34 | 人文・社会科学系
 財務省主導の均衡財政目標はデフレ政策であり、そのデフレの下で消費税を増税すればさらにデフレが進行して所得税・法人税の税収が減少しさらなる消費税増税という悪循環に陥り国民の首を絞めてゆくことになると警告する本。
 消費税を導入した1989年から2010年までの消費税総額が224兆円でその間の法人税の減税(税率の引き下げ)とデフレによる減収が208兆円で、結局消費税は法人税の減収分を補填する役割を果たしてきたし、今後も法人税の減税(税率引き下げ)を消費税増税で穴埋めしようというのが「社会保障と税の一体化」の実態だという指摘(24ページ)、消費税の税率を上げれば輸出還付金が増えて輸出額の大きい大企業の益税となり輸出企業にとっては法人税は下がり消費税益税は増え、消費税増税は庶民から取り上げた消費税が大企業の利益となる仕組みになっているという指摘(同)はまったくその通りと、私は思います。
 他方、国内金融機関へのBIS規制の導入や時価会計の導入などの銀行への規制を批判し、銀行の貸しはがしや貸し付けの減少などのデフレ促進方向の行動もすべて政策のせい(49~50ページ、63~68ページ)で銀行には責任がないかのような物言い、銀行への公的資金の導入は褒めそやす姿勢(54~55ページ、109~110ページ)を見るにつけ、銀行出身の人にこう言われてもねぇという思いがあります。そして、代案はとにかく公共投資を増やせですから、またしてもコンクリートへの回帰、土建国家への回帰というのでは、歴史に学べと繰り返す著者の姿勢とあわせても「いつか来た道」かなぁと感じてしまいます。
 なお、本筋には関係ありませんが、弁護士としてひと言しておくと、2004年1月1日から労働基準法が改正されて解雇が自由化された(62ページ)というのは、法的には明らかな誤りです。労働基準法(現在は労働契約法)の解雇権濫用法理に関する規定は、裁判所の判例で確立されていた考え方を条文で明文にしたもので、解雇について裁判所で判断される基準は改正前後でまったく変わっていません。むしろ、改正前は民法の規定で解雇が原則自由であり、判例でそれが限定されていたものが、明文で合理的理由を要するようになったのですから、法律の条文上は解雇規制が強化された形になります(最初に説明したように、実態は改正前後で変化はないのですが)。


菊池英博 講談社現代新書 2012年11月20日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする