伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ふがいない僕は空を見た

2013-08-04 23:24:51 | 小説
 人妻の自宅を訪ねてのコスプレセックスに浸る高校1年生の斉藤卓巳、義母の不妊治療プレッシャーからの逃避でコスプレを始め卓巳とのコスプレセックスにふけりそれが発覚する岡本里美、卓巳に告白し初体験を待っている内に卓巳のコスプレセックスがネットで広がりそれでも卓巳に迫る松永七菜、呆け徘徊症状の出た祖母と2人暮らしでバイトに明け暮れ店長にいじめられ母親にはバイトで貯めた貯金を奪われながら同じ団地の同級生あくつとともにバイト先の先輩に励まされて勉強を始める福田良太、小さな助産院を経営しながら母子家庭で卓巳を育ててきた卓巳の母親の5人の視点から、卓巳と里見の不倫とその後日談を描く短編連作。
 全体としては、卓巳を中心とする人間関係とストーリーでまとめられているんですが、第4話で触れられているように、同じ母子家庭でありながら、母親がしっかりと働いて経済的にも困らずプール監視のバイトをテキトーにするだけでよくて、背が高くてやせっぽちでいかにもメイク映えしそうな顔立ちで女にもて、年上の主婦から誘われてコスプレセックスに浸り、それを知られてもなお同級生の松永に迫られるというかなり恵まれた境遇の卓巳に対し、父親は自殺し母親は家を出てしまい呆け老人で徘徊する祖母と2人暮らしで生活に困り、意地悪な店長にいびられながら掛け持ちでバイトを続け、それで貯めたバイト代さえ母親に持ち逃げされるという絶望的な境遇で、バイト先の先輩の励ましで勉強を始め、成績が向上し大学にも行けるかもと思えた矢先にその先輩が逮捕されるという福田の惨状を見ると、卓巳の悩みや嘆きなんて同情する気にもなれず(だいたい、夫の留守中の人妻の自宅に通い詰めて不倫を続けた図々しい間男がその不倫妻の夫と義母から制裁を受けただけで、自業自得もいいところだし、もっと酷い目に遭わされても不思議はないわけですし)、福田と、たぶん似たような境遇で福田に寄り添うあくつに同情し、頑張ってねと声援を送りたくなります。
 卓巳の友達の福田が、松永の友達のあくつに唆されて卓巳のコスプレセックスの画像のプリントアウトをばらまくのは、屈折したものを感じますが、苦しい状況で一生懸命バイトして生きている福田が報われないのに、ちゃらんぽらんに生きてる卓巳が不倫三昧に松永にも告白されというのを見ればそうなるのもやむなしかなと思います。福田君にはまっすぐに生きてねと願いたいところではありますが。
 読んでいて福田とあくつにこそ幸せになって欲しい、この際卓巳とか里見はどうなってもいいからと思いますが、それでもこの作品に見られるように現実の世の中は努力が報われるとは限らない、いい加減な奴が見てくれだけでちやほやされて楽に生きられたりするんだよねと、そういうほろ苦さを味わう作品でもあるかなと思いました。私のようなひねくれた読み方ではなく、未熟な卓巳君が犯した小さな過ちと降りかかった不幸からの生還なんて読み方をする方が多数派なのかもしれませんけど。
 映画を見たとき、卓巳と里見のコスプレセックスを複数の視点から繰り返すのは、映画作品としての手法かと思いましたが、原作をほぼそのままなぞっていたんですね。原作を読んでみて、意外に原作に忠実な映画だったのだと思いました。
 映画についての私のコメントはこちら→映画「ふがいない僕は空を見た


窪美澄 新潮社 2010年7月20日発行
コメント
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