伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

社会を変える仕事をしよう ビッグイシュー 10年続けてわかった大事なこと

2013-08-22 20:00:58 | 人文・社会科学系
 ホームレスが街頭で販売する雑誌「ビッグイシュー日本版」の経営者が、その経営理念等を語る本。
 ホームレスへの支援をビジネスとして持続可能なものとするため、雑誌をつくりそれをホームレスが街頭で1冊300円(当初は200円)で販売しその半分以上の160円を販売者であるホームレスが受け取る(140円で仕入れる)という仕組みを有限会社の枠組で作り、最初の4年間が赤字、その後4年間黒字となったが、東日本大震災後また赤字になり、累積赤字が4250万円だそうです(95ページ)。今のご時世で、新創刊雑誌が10年もったこと自体大健闘だと思いますが、運営側は大変でしょう。
 中からか外からか、仕事だけでなくもっと生活全般のめんどうを見て欲しい、ビッグイシュー日本として独自に彼らの寝る場所を提供するべきだという意見があったことを紹介し、著者はそれはやらないと反論したと述べています(34ページ)。人権派とか社会派とか呼ばれる弁護士の場合も同じですが、社会的に評価を受けることをしていると、あちこちからもっとあれもこれもという要請が来ることはありがちですし、やっている側自身がもともと人のためになることをしたいという気持ちですから手を広げたくなりがちです。しかし、現実に持続可能な範囲をきちんと見極めないとどこかで破綻するわけで、そこははっきりしておいた方がいいと思います。
 販売員にもっとしっかり管理・指導しないのかと聞かれるが、いつどのように売るかは販売員の自由に任せ、いつでも始められるしいつでも辞められるところがよいと著者は紹介しています(122~123ページ)。その方がホームレスが現実的に続けやすいということはその通りでしょう。労働者側の弁護士の目からは、販売業務をしっかり指揮管理したら実質的に労働契約と評価されて最低賃金法の規制がかかるからねという意地悪な指摘もできますが。
 組織論として、社会的企業の組織には最低3人は必要で、1人は突っ走ってチームを引っ張る人、もう1人は正気の人で時に考えて引き止めたりする人、3人目は他の2人と全く違う視点をチームに持ち込む人(70~71ページ)、仲間はセンスは共通しているがやっていることや考えていることがまったく違う方がいい、研修などで技術や知識は身につけることができるがセンスのようなものは教えることができない(110~111ページ)というのは、至言だと思います。


佐野章二 日本実業出版社 2013年7月1日発行
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