なぜ資本主義はヨーロッパで生まれたのかについての歴史家(奥付の肩書き)としての著者の見解を示した本。
他の文明圏、中国・インド・イスラムでは権力が一極集中したのに対し、ヨーロッパでは人口が分散し、多数の権力(諸王権・諸侯・中小貴族・聖職者・都市民)が競合し均衡していた。農村内もしくは近郊に手工業者が存在し農村における分業があり農村においても貨幣を介したネットワークが存在して、「職人を含めた万人が富の分配に与るチャンスのある市場システム」、より平たく言えば良いものをつくれば儲かる市場システムが、16世紀以降のヨーロッパには存在していた。16世紀まで科学技術が中国・イスラムに遥かに遅れ、その文明をコピーし続けていたヨーロッパが、技術も魅力的な商品もない欲求不満故に対外進出の強い動機を持ち、よいものをつくれば儲かる市場システム故に技術の改良が進んで先行する諸文明を追い越す技術改良をして世界を制覇した。
他方、中国・インド・イスラムの先行する諸文明では、自国と近隣諸国で充分な宝(商品)を得ることができ自己充足しており、技術の過度の発展が権力にとって危険である故に技術開発が抑制された。
そのために、先行する諸文明においては技術の開発が一定限度で抑えられ、ヨーロッパでは技術開発に対する抑制がなく競争が促進されたために遅れていたヨーロッパが先行諸文明を逆転したというのが著者の見解です。
ヨーロッパが文明の進んだアジアの諸帝国の支配を受けなかったのは、(元の場合は侵略しようとしたがたまたま支配者が死んで軍が撤退したというのを除き)アジアの帝国にとってヨーロッパに支配するに足りる文明があるとは思えなかったし現実に存在しなかったためとされています(1498年、ヴァスコ・ダ・ガマがカリカットに到着し王にヨーロッパの産品を贈呈したら王はバカにして大笑いしたとか:155~156ページ)。
中世ヨーロッパは遅れた国で中国やイスラムの方が発展していたということは歴史書ではよくみることですが、ここまではっきり書かれると、ちょっと驚きます。現状から考えてしまうからですが、ヨーロッパ文明が発展したというのはここ数百年、日本史で言えば江戸時代あたり以降の話なんですね。
著者の見解は、ヨーロッパでなぜ諸権力の競合・均衡が生じたのかの理由が説明できない(平野が広いことが条件を与えているが、必然的とはいえず結果的にそうなった)、諸権力の競合・均衡と農村内や近郊に手工業者が存在することが論としてすんなりつながらない(そこで少し飛躍している)、さらには資本主義が生まれたことの説明になっているか疑問がある(農村に貨幣経済のネットワークが生じていること自体既に資本主義が生まれていることではないか)などの弱点を感じますし、さまざまなことを「棲み分け」という概念で説明しようとして無理をしている印象があり、日本をヨーロッパと類似していると特殊化しようとするところにも無理を感じますが、知的好奇心を刺激してくれる読み物だと思います。
下田淳 筑摩選書 2013年5月15日発行
他の文明圏、中国・インド・イスラムでは権力が一極集中したのに対し、ヨーロッパでは人口が分散し、多数の権力(諸王権・諸侯・中小貴族・聖職者・都市民)が競合し均衡していた。農村内もしくは近郊に手工業者が存在し農村における分業があり農村においても貨幣を介したネットワークが存在して、「職人を含めた万人が富の分配に与るチャンスのある市場システム」、より平たく言えば良いものをつくれば儲かる市場システムが、16世紀以降のヨーロッパには存在していた。16世紀まで科学技術が中国・イスラムに遥かに遅れ、その文明をコピーし続けていたヨーロッパが、技術も魅力的な商品もない欲求不満故に対外進出の強い動機を持ち、よいものをつくれば儲かる市場システム故に技術の改良が進んで先行する諸文明を追い越す技術改良をして世界を制覇した。
他方、中国・インド・イスラムの先行する諸文明では、自国と近隣諸国で充分な宝(商品)を得ることができ自己充足しており、技術の過度の発展が権力にとって危険である故に技術開発が抑制された。
そのために、先行する諸文明においては技術の開発が一定限度で抑えられ、ヨーロッパでは技術開発に対する抑制がなく競争が促進されたために遅れていたヨーロッパが先行諸文明を逆転したというのが著者の見解です。
ヨーロッパが文明の進んだアジアの諸帝国の支配を受けなかったのは、(元の場合は侵略しようとしたがたまたま支配者が死んで軍が撤退したというのを除き)アジアの帝国にとってヨーロッパに支配するに足りる文明があるとは思えなかったし現実に存在しなかったためとされています(1498年、ヴァスコ・ダ・ガマがカリカットに到着し王にヨーロッパの産品を贈呈したら王はバカにして大笑いしたとか:155~156ページ)。
中世ヨーロッパは遅れた国で中国やイスラムの方が発展していたということは歴史書ではよくみることですが、ここまではっきり書かれると、ちょっと驚きます。現状から考えてしまうからですが、ヨーロッパ文明が発展したというのはここ数百年、日本史で言えば江戸時代あたり以降の話なんですね。
著者の見解は、ヨーロッパでなぜ諸権力の競合・均衡が生じたのかの理由が説明できない(平野が広いことが条件を与えているが、必然的とはいえず結果的にそうなった)、諸権力の競合・均衡と農村内や近郊に手工業者が存在することが論としてすんなりつながらない(そこで少し飛躍している)、さらには資本主義が生まれたことの説明になっているか疑問がある(農村に貨幣経済のネットワークが生じていること自体既に資本主義が生まれていることではないか)などの弱点を感じますし、さまざまなことを「棲み分け」という概念で説明しようとして無理をしている印象があり、日本をヨーロッパと類似していると特殊化しようとするところにも無理を感じますが、知的好奇心を刺激してくれる読み物だと思います。
下田淳 筑摩選書 2013年5月15日発行