大学講師の元恋人のDV・暴力的セックスで傷つき自殺未遂を起こして仕事も辞め親元からカウンセリングに通っていた川本麻由が、エレベーターの前でうずくまっていた同じカウンセリングに通う年上の男植村蛍と知り合い、蛍と親密になりたいが蛍から求められる度に体が拒絶するという状態で揺れ動く、トラウマ系恋愛小説。
蛍に触れられると心が離れたりフラッシュバックを起こして、体に触らないでと叫び、1人でいるときも手の甲をかきむしって自傷行為を繰り返す麻由の揺れる心。それが異性(男性)に対する嫌悪感からであればわかりやすいのですが、麻由自身蛍とキスしたい、セックスしたいと欲情しながら現実の場面では体が受け付けないという設定は、より哀しいものがあります。
他方、年上30歳~31歳の蛍。何度も麻由の拒絶反応に会いながら、会う度に手を握り、キスをし(試み)度々麻由をパニックに追い込み拒絶反応を示させてしまう。学習能力がないのか、欲情を抑えられないのか、学生の設定ならともかく、もう少し大人の、抑えた対応ができないものか。作者の目からは、何歳であれ、男なんて会う度に体を求めてくるものと見えているのでしょうね。麻由にそれに応えられない自分が悪いと思わせているわけですから、男がそういうものであることは変えがたい大前提で、それを少しでも主観的には抑えようとし、言葉では受け入れている蛍はましな方で愛すべき存在と考えているのでしょう。そういう捉え方も(男性読者としてそういう捉え方をされるのも)ちょっと哀しい感じがします。
タイトルは、麻由と海に行った蛍が波打ち際をスニーカーのままで歩き、濡れるよと指摘されたときに、自分が白線で、ちょっと目を離したら流されていきそうな麻由を心配してのことと応える場面から。それを聞いた麻由は蛍に強く抱きつきたいという衝動を感じつつ現実には蛍に背を向けます。麻由の心理描写としては蛍の保護者目線・上から目線に対する反発はなく、むしろ好感を持っているように描かれているのですが、私には、その蛍の保護者目線と蛍の現実の行動との釣り合い、それに対する疑問も、隠れたテーマになってるように思えました。
島本理生 角川文庫 2012年7月25日発行 (単行本は2008年)
蛍に触れられると心が離れたりフラッシュバックを起こして、体に触らないでと叫び、1人でいるときも手の甲をかきむしって自傷行為を繰り返す麻由の揺れる心。それが異性(男性)に対する嫌悪感からであればわかりやすいのですが、麻由自身蛍とキスしたい、セックスしたいと欲情しながら現実の場面では体が受け付けないという設定は、より哀しいものがあります。
他方、年上30歳~31歳の蛍。何度も麻由の拒絶反応に会いながら、会う度に手を握り、キスをし(試み)度々麻由をパニックに追い込み拒絶反応を示させてしまう。学習能力がないのか、欲情を抑えられないのか、学生の設定ならともかく、もう少し大人の、抑えた対応ができないものか。作者の目からは、何歳であれ、男なんて会う度に体を求めてくるものと見えているのでしょうね。麻由にそれに応えられない自分が悪いと思わせているわけですから、男がそういうものであることは変えがたい大前提で、それを少しでも主観的には抑えようとし、言葉では受け入れている蛍はましな方で愛すべき存在と考えているのでしょう。そういう捉え方も(男性読者としてそういう捉え方をされるのも)ちょっと哀しい感じがします。
タイトルは、麻由と海に行った蛍が波打ち際をスニーカーのままで歩き、濡れるよと指摘されたときに、自分が白線で、ちょっと目を離したら流されていきそうな麻由を心配してのことと応える場面から。それを聞いた麻由は蛍に強く抱きつきたいという衝動を感じつつ現実には蛍に背を向けます。麻由の心理描写としては蛍の保護者目線・上から目線に対する反発はなく、むしろ好感を持っているように描かれているのですが、私には、その蛍の保護者目線と蛍の現実の行動との釣り合い、それに対する疑問も、隠れたテーマになってるように思えました。
島本理生 角川文庫 2012年7月25日発行 (単行本は2008年)