伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

百合中毒

2021-10-25 20:52:30 | 小説
 八ヶ岳の麓で園芸店を営む七竈歌子と長女真希、娘婿の祐一の下に、25年前に蓼科高原のイタリアンレストランのシェフプリシラに迫られてのぼせ上がり出奔した夫泰史が、プリシラがイタリアに帰ってしまったと言って戻ってきて、今さらなんだと激怒する自らは職場の経営者と不倫中の次女遙、歌子と恋仲になり結婚するつもりだったのが目算が狂い動揺する使用人の蓬田厚志、妻に癌の疑いが出て不倫を止めようとする遙の不倫相手池内典明らに与えた波紋や思惑を描いた小説。
 遙、真希、蓬田、池内、祐一、池内、真希、歌子の順にその視点での話が進みます。最初が遙で、自分が不倫中で男が自分を一番に扱っていないこと、妻との関係が悪くないことに不満を持ちながら、妻を捨てた父を許せないと非難し、あまり強く詰らない周囲の母(歌子)や姉(真希)がおかしいと言い立てる様子に、よくもまあ自分のことは棚に上げてと感じさせる展開が、一筋縄ではありません。内心を見せるにつけ、蓬田や池内の小狡さ、厚かましさが垣間見え、結局は、語り手にならず内心が見えない泰史がむしろ善人というかかわいげがあるように見えてきます。
 パートナーの不倫への対応、諦めなのか寛容なのかそこは重要じゃないのか、をめぐる人間関係の綾を考えさせられます。


井上荒野 集英社 2021年4月30日発行
「小説すばる」連載
コメント
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