伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

中小企業のための予防法務ハンドブック

2021-10-28 21:37:52 | 実用書・ビジネス書
 中小企業の設立、運営、契約(取引)、労務、知的財産の取扱、海外進出、事業承継の場面で法的なトラブル、リスクを冒さないように注意すべき点について説明し、弁護士等の専門家を利用するように勧める本。
 会社の運営に当たってどんな問題がありうるかをざっと眺めるのにはよさそうです。私は会社側の業務(企業法務)はやらないので、ふだんあまり考えないこと(企業側の視点で考えてないので)に関心を持てました。自分が知らない領域ほどそういうふうに思えるので、現実に中小企業にとってどれだけ意味があるのかはわかりませんが、海外進出関係が一番興味深く読めました。基本的には、問題があることまでで、ではどうすればいいかはもっと専門のものを読む必要があるのでしょうし、この本ではそれは弁護士等の専門家に聞いてねと営業を図っているのですが。
 ただ専門家の目で見ると、私の専門分野の労働法でいうと、福原学園事件の最高裁判決を「期間満了時に雇止めをしても、試用期間中の解雇のような厳しい判断はせず、雇止めは有効であるとした事例」と読む(151ページ)ことには疑問を持ちます(この事件では期間1年の雇用契約の最初の満了時に雇止めしたのですがその雇止めは無効とされ、就業規則上の更新限度の3年経過までは労働者の地位があったとされています。最高裁は、3年経過したところで無期契約になったという福岡高裁の大胆な理論を、それは無理といっただけです)し、就業規則の変更による労働条件の変更を労働契約法第10条の条文を紹介するだけでなんだか簡単に認められるかのように書いていたり(164ページ。この問題には長期にわたる多数の判例の集成があり、労働事件を取り扱う弁護士の間では容易ではないという認識があるのがふつうだと思うのですが)、就業規則と異なる労働条件の労働契約について無条件に「労働者の労働条件となる」と書かれている(165ページ。就業規則には最低基準効があって、個別の労働契約で就業規則よりも労働者に不利な労働条件を定めても無効なんですが、それに触れてないって…)とか、大丈夫か?と思ってしまうところがあります。


一般社団法人予防法務研究会編 中央経済社 2021年9月10日発行
コメント
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