伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

イチケイのカラス 上下

2021-10-06 20:12:44 | 小説
 元弁護士で東京地方裁判所第3支部第1刑事部の裁判官となった入間みちおが、定年近いこれまでに30件の無罪判決を書いた部長の駒沢裁判官に試みとして裁判長を任され、新人のエリート裁判官坂間と合議を組んで、気になる事件では次々と職権を発動して検証や尋問を積極的に進めて事件の真相に迫るという2021年春期のテレビドラマを小説化したもの(ドラマの原作は漫画)。
 敢えて戯画化しドラマとして面白くしているんでしょうけれども、法律監修を受けていないんでしょうね。業界的には、おいおいというところが多々見られます。入間裁判官みたいな裁判官いないでしょう、というところは、ドラマだから構わないと思うんです。法律上不可能かというと、刑訴法上、裁判所が職権で証人尋問をしても、所在尋問をしても、検証をしても別に構いません。刑事裁判の構造とか役割というもっと大きな制度というか枠組みでは問題はありますが。それよりも、入間裁判官、毎回「職権を発動します。裁判所主導で捜査を行います」っていうんですが、これを「捜査」っていう必要ありません。起訴後なんですから、単に証人尋問を行います、検証を行いますっていえば済むのに、どうしてわざわざ変な概念というか間違った概念を持ち込むのか。むしろ、裁判所が職権で行う尋問等について当事者を立ち会わせないことの方が不公正で許されないはずですが、これをエリート裁判官で入間のやり方に批判的なはずの坂間が第1話から1人で聞き込みして実行しています(上巻57~58ページ)。ドラマだから別にいいんですが、最初っから坂間の方が法律上はど外れたことやっているという設定、作者わかって書いてるんでしょうか。被告人質問での被告人の答が気に入らないって反論するのに「異議有り!」っていう検察官(上巻24ページ、下巻162ページ)もありえない。単に検察官からも質問しますといって聞けばいいだけの場面でしょう。高裁の再審開始決定に対して検察官が「即時抗告」って(下巻11ページ)。高裁の決定に対しては抗告はできなくて、「抗告に代わる異議申立」(刑事訴訟法第428条:まぁ、このあたりはマニアックだから、知らなくても許してあげていいかとも思いますが)。そして高裁が再審請求を受けて再審開始決定したのなら再審も高裁のはずなのに、何で地裁で再審が始まるのか(下巻9~16ページ)。入間みちおが弁護士時代に挫折を味わった「12年前の事件」の黒幕の1人中森検事は、次長検事(最高検、検察全体のナンバー3)のはずですが(下巻33ページ、35ページ、38ページ等)、なぜか「次席検事」(地検・高検のナンバー2)とも度々書かれています(下巻11ページ、44ページ、45ページ)。ドラマなんだから敢えて現実とは違う設定にしますというんじゃなくて、単純に刑事裁判の仕組みとか運用自体がわかってない感が強くて、業界人としてはもっと調べて書いてよと思ってしまいます。


蒔田洋平 扶桑社文庫 2021年5月31日発行
コメント
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