伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ネルソン・マンデラ 分断を超える現実主義者

2021-10-22 21:26:53 | ノンフィクション
 ネルソン・マンデラの「ハンディな評伝」を目指すとして、政治家としてのマンデラが一貫した思想を説き続けたわけではなく、現実主義者でありプラグマティストであったことを強調する本。
 ネルソン・マンデラが現実主義者でありプラグマティストであることはある意味で当然のことだと思います。ガンジーであれ、キング牧師であれ、大きな成果を上げた政治家・運動家はみな現実主義者でありプラグマティストでした(思想的な一貫性を重視する者、原理主義者が広汎な民衆の支持を集めたり、権力者たちとの強い交渉力を持ちうるほど、政治や現実の闘いの場は甘くありません。なお、ガンジーとキング牧師への私の思いは、私のサイトの小説「その解雇、無効です!ラノベでわかる解雇事件」第11章の3で触れています)。そのことをテーマにあげて書くのであれば、単にマンデラの発言や態度・政治姿勢が過去と矛盾していたり変転したことを指摘し、それが誰に向けたものかなどを推測するだけではなく、マンデラ自身がどのように考えてその発言をしたのか、態度を変えたのか、それをめぐる周囲の力学等をマンデラ自身や側近・知人の証言等もっと踏み込んだ取材・材料で検証・分析して書き込んで欲しいなと思います。新書では望むべきではないことかも知れませんが。
 著者はあとがきで「本書には、マンデラへの愛が足りず、それもあってマンデラの『偉大さ』が強調されない難もあるだろう」と書いています。マンデラの現実主義者・プラグマティストとしての面を強調しその思想・姿勢の一貫性のなさを描くことは、マンデラへの愛を欠くことでも偉大さを損なうことでもないと思います。その一貫性を捨てても実現しようとしたその目標を評価し、その判断の事情と背景と苦悩を理解し共感するためには、もっと事実を掘り下げる必要があり、踏み込む必要があったのではないか、マンデラへの愛が足りないかどうかはそこにどれだけの努力が注がれたかで判断されるのではないでしょうか。


堀内隆行 岩波新書 2021年7月20日発行
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