アメリカ駐留軍の軍人と軍属(米軍が雇用する米国籍の民間人)が日本国内で犯罪を犯したときの日米地位協定の規定と運用について、NATO、ドイツ、アイスランド、フィリピン、韓国等の場合と比較しつつ説明し、著者としての改正・改善案を提案する本。
著者の説明によれば、日米地位協定上、アメリカが第1次裁判権(優先的裁判権)を有するのは①米軍要員間の犯罪、アメリカの財産・安全に対する犯罪、②公務の執行から生じる犯罪に限られるが、公務の認定はアメリカが行うので通勤時の交通事故も全て公務犯罪とされアメリカ側が処遇している、その他の犯罪は日本が第1次裁判権を有するが日本政府は「実質的に重要な事件」以外では裁判権を放棄するという密約(形式は日米合同委員会裁判権小委員会刑事部会代表である法務省刑事局総務部長の「一方的陳述」として議事録に記載されたもの)により日本側はほとんどの場合起訴せずに来た、被疑者の身柄拘束は、日本に第1次裁判権がある事件でアメリカが身柄を確保している場合は起訴まではアメリカが身柄拘束を続け、起訴後日本に身柄を引き渡す、日本が身柄を確保した場合は、「正当な理由と必要性」があれば日本が身柄拘束を続け、それ以外のときはアメリカに身柄を引き渡すこととなっているが、これについても日本の当局が犯人の身柄を拘束する場合は多くないであろうという「一方的陳述」による密約のため結局日本が米兵の身柄を拘束することは事実上ないとのことです。
著者の説明によれば、アメリカは、NATO諸国など他国に対しても、地位協定上は受け入れ国が一定の場合米兵に対する刑事裁判権を行使できることになっていても、公務犯罪の認定権は手放さず、また各国と裁判権放棄の密約を交わして事実上米兵を刑事訴追させない政策をとり、身柄拘束に関してはむしろ起訴後もアメリカが拘束する例が多いとのことです。そうすると、米兵の犯罪を裁けないことは、日本政府の弱腰という側面も多々あるとは思いますが、アメリカ側の狡猾さ・横暴さと交渉勝ちの結果ということになります。
表向きの法令(協定)の規定と密約によるそれとはまったく異なる運用(実体)の落差は、手続の適正を強調するアメリカの価値観とは相容れないはずですが、政治は理念じゃないってことですかね。
信夫隆司 みすず書房 2021年9月1日発行
著者の説明によれば、日米地位協定上、アメリカが第1次裁判権(優先的裁判権)を有するのは①米軍要員間の犯罪、アメリカの財産・安全に対する犯罪、②公務の執行から生じる犯罪に限られるが、公務の認定はアメリカが行うので通勤時の交通事故も全て公務犯罪とされアメリカ側が処遇している、その他の犯罪は日本が第1次裁判権を有するが日本政府は「実質的に重要な事件」以外では裁判権を放棄するという密約(形式は日米合同委員会裁判権小委員会刑事部会代表である法務省刑事局総務部長の「一方的陳述」として議事録に記載されたもの)により日本側はほとんどの場合起訴せずに来た、被疑者の身柄拘束は、日本に第1次裁判権がある事件でアメリカが身柄を確保している場合は起訴まではアメリカが身柄拘束を続け、起訴後日本に身柄を引き渡す、日本が身柄を確保した場合は、「正当な理由と必要性」があれば日本が身柄拘束を続け、それ以外のときはアメリカに身柄を引き渡すこととなっているが、これについても日本の当局が犯人の身柄を拘束する場合は多くないであろうという「一方的陳述」による密約のため結局日本が米兵の身柄を拘束することは事実上ないとのことです。
著者の説明によれば、アメリカは、NATO諸国など他国に対しても、地位協定上は受け入れ国が一定の場合米兵に対する刑事裁判権を行使できることになっていても、公務犯罪の認定権は手放さず、また各国と裁判権放棄の密約を交わして事実上米兵を刑事訴追させない政策をとり、身柄拘束に関してはむしろ起訴後もアメリカが拘束する例が多いとのことです。そうすると、米兵の犯罪を裁けないことは、日本政府の弱腰という側面も多々あるとは思いますが、アメリカ側の狡猾さ・横暴さと交渉勝ちの結果ということになります。
表向きの法令(協定)の規定と密約によるそれとはまったく異なる運用(実体)の落差は、手続の適正を強調するアメリカの価値観とは相容れないはずですが、政治は理念じゃないってことですかね。
信夫隆司 みすず書房 2021年9月1日発行