伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

ムーヴド

2008-06-17 22:11:08 | 小説
 夫が「できちゃった婚」するからと離婚を言い渡された中堅企業人事部勤続10年の30歳OL佐緒里が、引っ越し先のペット飼育禁止のマンションで引っ越し初日にベランダに放置されていた子猫を拾い、共に生きていく中で、新たな人と知り合い、次第にふてぶてしく成長していくというストーリーの短編連作小説。
 労働組合執行部の女性闘士と知り合い、恋心も抱きつつ、組合役員にまで選ばれながら、結局は佐緒里が使用者と闘う道ではなく会社をおもんばかって退職していく道を選ぶのは、いまどきのご時世を考え合わせても、何だかなぁ。訪ねてくる元夫にも、最初は意地を張っても結局受け入れちゃうし。都合のいい女でもいいのって、そう言いたいんでしょうかね。ほんわか・のほほんとした人間関係の味わいはありますが、そういうメッセージが読み取れると、どうも後味悪く感じてしまいました。
 月刊誌の掲載が、2004年11月号、2005年5月号、2007年7月号、2008年1月号って、ものすごい飛び飛び。それでつなげられるだけでもすごいのかも。


谷村志穂 実業之日本社 2008年5月25日発行
月刊ジェイ・ノベル時々掲載
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ちいさな霊媒師オリビア1、2

2008-06-15 08:03:23 | 物語・ファンタジー・SF
 マンションの管理人だがすぐクビになってマンションを渡り歩いている父親と2人暮らしの12歳の少女オリビアが、死んだ兄の霊や有名な霊媒師、ひょんなことから知り合った昔王女だった老女らとともに、マンションの不思議に取り組むというパターンのファンタジー。
 オリビアは片足はこの世に立ちもう片足はあの世に突っ込んでいる「世またぎ」で霊と交信することができるが、本人はそのことを知らなかったという設定。強気の性格のオリビアと、気弱で優しく料理好きの父親の関係がほほえましい。
 マンションにはいろいろ不思議な人物と不思議な世界が広がっていて、その世界の不思議な雰囲気でなんとなく読ませている感じがします。1巻の「西95丁目のゴースト」では床や家具を透明化して階下の住人を透視する老女とそのガラス細工のような透明な部屋、ホラ貝で人を操ってついにはトカゲに変身させる老女とジャングルのような部屋などが登場します。むしろ、こういう人物の怪しげな魅力の方が、「霊媒師」がらみの死んだことを自覚していない男の子の幽霊や兄の霊より存在感がありますし、事件も解決したのやらという感じですし。2巻の「真夜中の秘密学校」では、より霊の存在が大きくなってオリビアの能力も注目されますが、こちらもマンションの中のラグーンとその怪しげな住人の存在感が大きいし。
 マンションの中にジャングルがあったりラグーンがあったりとなると、魔法の話になりそうなんですが、魔法使いは出てきません。そのあたりの世界観というか設定が気に入るかにかかっているお話ですね。


1巻原題:OLIVIA KIDNEY
2巻原題:OLIVIA KIDNEY AND THE EXIT ACADEMY
エレン・ポッター 訳:海後礼子
主婦の友社
1巻:2007年10月20日発行 (原書は2003年)
2巻:2008年1月31日発行 (原書は2005年)
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ロスト・エコー

2008-06-14 22:30:33 | 小説
 子どもの頃の病気の結果、過去にその場所で起こった暴力行為の音が再現されるとその音と共に封じ込められた記憶を感じることができる不思議な能力を持つことになった青年ハリー・ウィルクスが、その能力がもたらす恐怖に悩みながら、ガールフレンドの父親が関与する殺人事件の真相を探る青春ミステリー小説。
 前半は、暴力行為が過去に行われた場所にいるだけでその現場の映像が再現される恐怖のため、消極的になっていくハリーの悩みと、ハリーを力づけてくれる美貌の富豪の娘タリア、謎のアル中武道家タッドとの交流で話が進行していきます。このあたり、コンプレックスを抱えた青年の成長を描く青春小説です。コンプレックスのタイプが変わっているだけで。金持ちの娘で美人で多数の男を侍らせながら、貧乏で消極的なハリーを恋人扱いして肉体関係を持ち続けるタリアの行動は、不思議です。単なる気まぐれ・戯れなのか。作者の気まぐれ・読者サービスなのか。
 後半は、ハリーの幼なじみで警官になったケイラが、ハリーと恋仲になりケイラの父の死の真相を、ハリーの能力を利用して解明しようとして、ハリーたちが事件に巻き込まれていくミステリーになります。
 ミステリーとしてはあまりひねってなくて、どんどんピンチに追い込まれては行きますが、まぁ結末は予想できますので、ミステリーというよりはどちらかといえば冒険もの・アクションものというべきかも知れません。
 男性読者が読んで、まぁ超美人とも幼なじみともHできてよかったねというところでしょうか。


原題:LOST ECHOES
ジョー・R・ランズデール 訳:北野寿美枝
ハヤカワ・ミステリ文庫 2008年5月15日発行 (原書は2007年)
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美月の残香

2008-06-12 07:56:36 | 小説
 一卵性双生児の美月と遥花、美月の失踪を機に微妙になる美月の夫真也と遥花、真也の一卵性双生児の弟で遥花と交際・結婚する雄也の関係をめぐる小説。
 美月の失踪が、残された人々の関係に与える影響を中心に描いた人間関係劇で、その発端というか最後まで影を落とし続ける美月の失踪の真相は、結局謎が解かれません。ミステリーとして読むと、そこに欲求不満が残ります。まぁ美月の失踪自体は、舞台回しの小道具というところでしょう。
 関係者の愛憎ドラマとともに、人の欲望をくすぐる匂い、香水が大きなテーマになっています。嗅覚は、5感のうちで最も本能に近いとよく言われますが、真也のフェティシズムともいえる美月の匂いへのこだわりとそれを求めてとる恥も外聞もない行動、精神の崩壊を見ていると恐ろしく感じます。
 主要登場人物が、悪人でもなく、さりとてさほど魅力を感じさせない中、鍵となるオーダーメイドの究極の香水を調香する「香りの魔術師」鳴水馨が、怪しげな輝きを持っています。作者が気に入ったら、香りの魔術師シリーズなんてことになるのかも・・・


上田早夕里 光文社文庫 2008年4月20日発行
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ドリーミング・オブ・ホーム&マザー

2008-06-11 08:58:17 | 小説
 内気で平凡な編集者田中聡と幼なじみの快活で行動力のあるライターさとうゆう、年上の人気作家小川満里花が繰り広げる恋愛関係に、満里花の飼い犬と犬コロナウィルスの突然変異体から蔓延した東京SARS騒動を絡めた恋愛&サスペンス小説。
 前半は、煮え切らない聡と行動的なゆうの、一向に進行しない友だち愛を軸とした恋愛小説です。この平凡で内気な男性主人公に、魅力的で行動的な女性がリードして思いを遂げるってパターン、考えてみたら、かつての少女漫画の王道(田渕由美子とか陸奥A子とかの・・・って言っても40代以下は知らないでしょうね)ですね。男の方が、平凡なあなたにもいつか白馬の王女さまがって夢想していてもいいのよって言われる時代なんでしょうか。
 ただ、ゆうが聡のことを「いま同じ街に住んでます。おたがいの部屋でしょっちゅう飲みます。手をつないで散歩します。セックスはまだです。世間はそれを信じてくれません。」と紹介する場面(56頁)。こういう関係って、目の前で言われたら赤面しますが、しみじみあぁいいなぁと思います。私はここまででも、あ、読んでよかったなと思ってしまいました。
 後半は、SARS騒動をめぐるサスペンスになって、恋愛関係はバックグランドに引いていきます。
 恋愛ものとしてみたときには聡の行動力のなさ、優柔不断ぶりに「おいおい」と思う場面が多いですが、満里花の飼い犬が感染源と睨みながら、その犬に以前に酷く噛まれたゆうを気遣う場面が1つもないのはかなり不思議。
 ラストでひねりというか混迷というか予想外の展開があり、キツネにつままれたような読後感でした。私の好みとしては、SARS騒動は捨てて恋愛もので書き込んでくれた方がよかったと思うのですが。


打海文三 光文社 2008年2月25日発行
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ユングフラウ

2008-06-11 08:13:25 | 小説
 常識人と自己規定しながら、結局は飲んではまわりの男と次々肉体関係を持つ26歳の編集者沢井翠と、大学時代からの恋人、担当した大学教授、同僚のカメラマンなどに、大学の同級生の「親友」や身勝手で主人公と同じくらい尻軽の同僚が絡んで進む男女関係を描いた小説。
 やってることはただの欲求不満女なのに会話が理屈っぽいというか流れが固いというかの女たちのキャラが、どうも男の側に都合よく設定されてるのとどこか上滑りな感じがして、話に乗りきれませんでした。それと、作者と同年齢の作家「梨原」だけが、話はスケベだが意外に善人という設定が、いかにもいやらしい。
 短編連作をまとめて読むため、前の話とのつながりが悪いところがあり、決着を付けずにしらばっくれているところがあったりするのが、今ひとつ。単行本化する時にきちんと手を入れて欲しいですね、こういうところは。最後に初出が出ているのを見ると、何と連載は7年以上前。何で今頃、単行本化したんでしょうね。


芦原すなお 東京創元社 2008年1月15日発行
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パート・派遣・契約社員の法律知識

2008-06-08 23:58:49 | 実用書・ビジネス書
 もっぱら経営者側でパートタイマー、派遣労働者、契約社員を使用する場合に企業側にいかに有利に使うかという観点から中小企業診断士の著者がアドヴァイスする本。
 タイトルだけだと労働者側も読むことが予定されているように見えますが、労働者側に有利な方向のアドヴァイスはほとんどありません。
 ただ経営者側に立つにしても、いまどき、解雇は原則自由だとか書いてまるで30日前に解雇予告すれば好き放題に解雇できるかのような誤解を与える部分(32~33頁、67頁)があるのは問題です。後の方(113~115頁)では就業規則の解雇事由とか解雇権濫用のことも一応説明してはいますが。
 それに労働契約と就業規則の関係も単純に就業規則が優先するとだけ書いています(55~56頁)が、それは労働契約が就業規則より低い労働条件の場合で、労働契約の方が高い労働条件の場合は労働契約の方が優先されます。それを説明しないと労働契約を無視するあこぎな経営者が出てきかねません。
 それから期間の定めのある労働契約の場合に、この本では期間中の解雇はやむを得ない理由がないとできないことは説明していますが、期間満了による雇い止めについては説明していません。この本だけ読んでいると経営者はその場合フリーパスと考えることになると思います。しかし、有期雇用の更新が繰り返されると雇用継続の合理的期待が生じ、解雇権濫用の法理が類推適用されることは、ずいぶん前から最高裁判例となっています。ですから、更新が一定程度繰り返されたら雇い止めはまったく自由ではないということを、説明するのが労働法関係の本の基本的なお約束ですが、この本ではそのことがひと言も書かれていません。
 こういう本だけ読んで労働者への対応を考える経営者がいるとすればとても困ったことになります。
 法律実用書にしては、「でしょう」とか「でしょうか」とかいう自信なさげな言い回しが多すぎますし。


藤永伸一 日本実業出版社 2008年5月1日発行
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偽装管理職

2008-06-07 00:45:21 | 人文・社会科学系
 マクドナルド裁判で最近話題の「名ばかり管理職」を始め管理職の肩書きの付いた労働者が抱える問題についてレポートした本。
 マクドナルド裁判の反響で様々なところで名ばかり管理職が立ち上がる動きが出ているときでタイムリーな出版です。しかし、管理職の肩書きを与えることで残業代を払わない名ばかり管理職問題は最初の方だけです。その次の管理職、特にヘッドハンティングというか中途入社の管理職の解雇問題は、裁判的にもなかなか微妙なところもあり、これも偽装管理職問題として捉えるのはいい視点だと思います。でもその後は、偽装管理職の問題というよりも一般的なパワハラや退職勧奨の話で、管理職ユニオンの組合員のケースだから漫然と並べられているという印象を持ちました。その意味でちょっと後半焦点がぼける感じです。
 それから、せっかくなら「監修」なんて言ってライターに任さないで管理職ユニオンが自ら書いて欲しかったと思います。例えば「労働審判」という言葉が使われている場面(64頁、206頁)はどちらも労働委員会といっていますから、労働審判ではなく不当労働行為の救済申立か個別的労使紛争あっせん(東京都労働委員会はやってませんけど)のはず(労働審判は裁判所に申し立てます)。ライターの理解の程度に問題があるように感じました。


東京管理職ユニオン監修 ポプラ社 2008年4月20日発行
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日本の刑罰は重いか軽いか

2008-06-06 22:58:42 | 人文・社会科学系
 中国生まれ、アメリカ留学経験ありの一橋大学教授による日本、中国、アメリカの刑罰比較。
 前書きを読んだ時点で、そりゃ世界一の死刑量産国と懲役何百年なんて判決が平気で出る国を比較の対象にしたら最初から結論決まってるじゃないのと思います。
 前半は、刑罰が時代と社会で大きく異なっていることを説明し、やっぱり日本の常識は世界の非常識って言いたいんでしょうねと思って読んでいたら、案の定、死刑が少ないとか経済事犯や薬物犯罪がいかに軽いかなど、日本の刑罰は軽いと論じられます。
 しかし、その後にもう一段あって、日本の刑罰は重罪事犯には(中国やアメリカと比べて)軽いが、中国なら犯罪扱いされないような軽微事犯でも逮捕され処罰される、ささいなことでも処罰されるという意味では中国より刑が重いと指摘されています。中国では、例えば窃盗も公務員の1ヵ月分の給料程度以下は犯罪にならないなど、軽微事犯は犯罪扱いされないし(130頁)、日本と違って刑罰を受けても地域社会では受け入れられる、つまり国は国、地域社会は地域社会という意識だそうです(163~165頁)。日本の方が民間人もお上と一体になって犯罪者を指弾し社会的制裁を与え、その結果社会復帰が困難だというのです。
 さらに、裁判や学者も法律の解釈を最大限まで拡げて処罰を拡大しようとしている、例えば共謀共同正犯なんて刑法の条文を拡大して本来は正犯扱いできないものを判例で勝手に拡大したもの、という指摘(133~136頁)を中国出身の学者から受けるのは、ちょっとカルチャーショック。
 そのあたりの刑罰についての考え方の違いを意識させ、別の視点を提供してくれるところが刺激的な本でした。


王雲海 集英社新書 2008年4月22日発行
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ゴムはなぜ伸びる?

2008-06-03 22:32:12 | 自然科学・工学系
 ゴムの性質や製造法、最近開発された各種のハイテクゴムなどについて解説した本。
 天然ゴムは炭素と水素の化合物イソプレン(C5H8)が多数鎖状に結合してできた高分子化合物が曲がりくねったランダムコイル状になっていて、その多数のランダムコイルが絡まった状態のものだそうです。で、常温の伸び縮みできるゴムは「液体」だからランダムコイルが運動できて伸び、力がかからなくなると落ち着きのいいランダムコイル状に戻るので縮むのだそうです。液体でも高分子が絡まった状態なので流れないのだそうです。理屈はわかるんですが、感覚的にはなじめない話です。
 力がかかることで高分子の絡みがほどけていくことになり、次第に伸びきった状態になるのを、硫黄等を加えて加工することで高分子を結びつけて強度を高めたりしているそうです。自動車のタイヤは路面へのグリップ力を上げブレーキの効きをよくすると熱に変換される割合が増えて走行に使われるエネルギーが減るので燃費が悪くなるという問題を抱えているけれど、最近では滑り時の振動数の高さを利用してブレーキ性能を落とさずに転がり抵抗を下げる研究が進んでいるそうです(87~92頁)。汎用品と思えるタイヤもけっこうハイテクの産物なんですね。
 様々な現象の理由部分の説明が、十分納得できるところまでは行っていない感じはしますが、身近な材料のゴムについていろいろと勉強になりました。


伊藤眞義 オーム社(東京理科大学・坊ちゃん選書) 2007年9月25日発行
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